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2014年モナコGP、可夢偉vsビアンキがもたらした運命の分かれ道【日本のレース通サム・コリンズの忘れられない1戦】

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2014年モナコGP、可夢偉vsビアンキがもたらした運命の分かれ道【日本のレース通サム・コリンズの忘れられない1戦】

 スーパーGTを戦うJAF-GT車両見たさに来日してしまうほどのレース好きで数多くのレースを取材しているイギリス人モータースポーツジャーナリストのサム・コリンズが、その取材活動のなかで記憶に残ったレースを当時の思い出とともに振り返ります。

 今回は2014年のF1モナコGPをピックアップ。翌年の分配金を賭けたバトルは白熱の展開へ移ります。その主役は当時、ケータハムからF1に参戦していた小林可夢偉と、マルシャの命運を握っていたジュール・ビアンキでした。

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※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※

 レースがリスタートした際、キミ・ライコネン(フェラーリ)はシケインで可夢偉にぎこちない動きを仕掛けたが、コーナーをカットしなければならなくなり、ポジションを返すことになった。

 2007年のF1ワールドチャンピオンでさえも、ケータハムを抜くのに苦戦している。この興奮するバトルを、私はペリエ缶を片手に手書きでメモをとりながら見ていた。

 翌周、可夢偉はルノーエンジンを積んだCT05のリヤのコントロールを失ったが、かろうじてライコネンに衝突することは避けることができた。

 しかし、1周前のライコネンのように可夢偉はシケインをカットしなければならず、結果としてスイミングプールのセクションの出口で、ライコネンにポジションを明け渡すことになってしまった。

 これによりライコネンの後ろを走行していたビアンキに道が開かれた。ビアンキは私の目の前のラスカスで可夢偉のインに飛び込んでいく。2台のマシンはホイールをぶつけあった。

 サイド・バイ・サイドになった2台は再度、ホイールをぶつけあった。可夢偉をわずかにワイドに押し出すと、ビアンキはアクセルを踏み込んでコーナーを出たが、今度は自身のリヤがすべり、可夢偉のマシンに3回目の衝突をし、明らかにフロアにダメージを負わせた。

 これはすべて私の目の前で行われた出来事だ。圧巻の見ものであっただけでなく、私はこの時点で彼らがポイントを獲得できるチャンスがあることを知った。ポイントは何百万もの価値に繋がり得る。

 ビアンキは13位まで順位を上げていたが、12位になれるチャンスがやってきた。ジャン・エリック・ベルニュ(トロロッソ)がピットストップから危険なリリースを行ったためにペナルティを科されたのだ。

 一方、マシンにダメージを負った可夢偉はロマン・グロージャン(ロータス)と、チームメイトのマーカス・エリクソンに追い抜かれ、後退していた。

 この時点ではザウバーが非常に順調に見えた。エステバン・グティエレス(ザウバー)は9位で、戻ってきたライコネンに抜かれたとしても、フェリペ・マッサ(ウイリアムズ)がピットストップ後に順位を落としていたので、重要なポイント獲得のチャンスがある。

 それから数周後、バルテリ・ボッタス(ウイリアムズ)がメルセデスエンジンにしては珍しいトラブルによってリタイアを喫し、グティエレスはポイント圏内でのフィニッシュが約束されたかに見えた。

 しかし、私のすぐ目の前で彼はラスカスのイン側のバリアにぶつかり、レースをリタイアした。これによりビアンキは10位に上がり、ポイント圏内に入った!

 ビアンキが、議論を呼ぶようなポイント圏内入りを果たして間もなく、ケビン・マグヌッセン(マクラーレン)がヘアピンの動きで判断ミスをしたため、ライコネンはフロントウイングを損傷する。

 2台のマシンはしばらく停滞し、ビアンキは8位まで順位を上げたところでレースが終了した。ビアンキには5秒ペナルティが課されて9位に落ちはしたものの、マルシャチームは気にせず、まるで彼らがレースで優勝したかのように喜んでいた。

■分配金が天と地ほどの差を2チームに与えた
 先頭集団の争いはニコ・ロズベルグ(メルセデス)がルイス・ハミルトン(メルセデス)を制して優勝を飾った。負けたハミルトンは「何かが目に入りよく周りを見ることができなかった」と不満を言っていた。

 ハミルトンは記者会見で私のデスクの前を通り過ぎるとき、目をこすってみせたが、目に入ったゴミがどれだけの違いを生み出したのか判断するのは難しい。だが、この日はロズベルグがハミルトンに対して納得の勝利を収めた数少ない1日だということだけは確かだった。

 マルシャが喜ぶ一方で、ケータハムの状況はまったく違っていた。レース後に可夢偉のグループインタビューセッションに行ったが、彼ははっきりとビアンキについて不満を露わにした。

 可夢偉はビアンキがシケインで2回以上接触してディフューザーを壊し、そのせいでパフォーマンスに大きな影響が出たと主張した。そしてラスカスでの接触で可夢偉のマシンは大きなダメージを受け、最終的にドライブ不能な状態になったと続けた。

 ビアンキがケータハムのマシンにダメージを与えていなかったら、可夢偉もポイント圏内でフィニッシュできたのは確かだっただろう。

 モナコに夜の帳が下りると、私はいつものように仕事を切り上げて、パドックの横にあるパブ『Stars and Bars』へ行った。毎年、他のジャーナリストたちとそこで夕食をとりながらインディ500を観戦しつつ、私たちが見たレースについて議論する。

 私はレース後にハミルトンがロズベルグと言葉を交わしていないことに気づいていたが、これが2016年末まで続く対立関係のスタートであり、ロズベルグは世界タイトルを獲得した後にF1を引退することになるとは、このときの私たちには知る由もなかった。

 もうひとつ当時の私たちが知らなかったことは、このモナコGPが最終的にケータハムF1チームを崩壊させることになるレースであり、それを目撃していたということだ。

 マルシャもケータハムも生き残るためにはチャンピオンシップでトップ10内でフィニッシュする必要があった。モナコでの結果が意味するところは、ケータハムが生き残るためには、ザウバーに対してポイント圏内でフィニッシュすることだった。

 レースが終わった翌朝、ケータハムチームのオーナーのトニー・フェルナンデスは、このあとのレースでチームがポイントを獲得するチャンスがほとんどないことを分かっていたためにチームを売りに出した。

 もしもあのときビアンキが可夢偉のマシンにダメージを与えていなかったら、ザウバーが財政トラブルに陥る可能性が高かった。そして、ケータハムがあの日モナコでポイントを得ていたら、彼らは今もグリッドに残っていたかもしれない。

 あの日ビアンキが獲得したポイントはマルシャがチャンピオンシップを9位でフィニッシュするのに役に立った。分配金を得たことで、マノー・マルシャはF1に2016年末前まで生き残ることができたのである。

 このレースはF1の歴史にとって極めて重要なものだったことが証明された。だが残念なことに決め手となった可夢偉とビアンキのバトルはラスカスでの決定的な動きだけが放映され、テレビでその全容は放映されていない。

 だが、あの戦いの一部始終は私のなかで素晴らしい思い出として残っている。

※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ 

サム・コリンズ(Sam Collins)
F1のほかWEC世界耐久選手権、GTカーレース、学生フォーミュラなど、幅広いジャンルをカバーするイギリス出身のモータースポーツジャーナリスト。スーパーGTや全日本スーパーフォーミュラ選手権の情報にも精通しており、英語圏向け放送の解説を務めることも。近年はジャーナリストを務めるかたわら、政界にも進出している。

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みんなのコメント

1件
  • ケータハムの最後の年は、このモナコでの一件といい、醜悪なノーズといい、コンサバに作り過ぎて、大柄でポテンシャルが低過ぎたシャーシといい、いいところ無しだったね。
※コメントは個人の見解であり、記事提供社と関係はありません。

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