宮田莉朋(ロダン・モータースポーツ/TGR WECチャレンジプログラム)にとって、2024年FIA F2第10戦の舞台スパ・フランコルシャンは、LMGT3クラスにスポット参戦したWEC世界耐久選手権第3戦で走行経験があった地だ。ただ、GT3とFIA F2では景色、そして走り方も大きく異なっていた。
「レクサスRCF GT3の場合、たとえばオールージュからラディオンは新品タイヤであれば全開で行けるか行けないかという感じで、レース中は全開で抜けることが難しいです。一方のFIA F2はタイヤがどういう状況であれ全開でした。FIA F2の場合、オールージュからラディオンはコーナーではないという感覚です。そういう違いもあり、GT3で経験したことがFIA F2で生きるということはなく、まったくの別世界でした」と、宮田。
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「ただ、そういう感触を掴むのも手探りの状況でした。オプションタイヤ(ソフト)を履いたFIA F2の予選ではオールージュからラディオンまで最初から全開で行けましたが、プライムタイヤ(ミディアム)も履くレースでは、『最初から(オールージュ~ラディオンも)全開でいいのかな?』という疑問も抱きながらのスタートでした。そのため同じ参戦1年目でもFIA F3やフォーミュラ・リージョナルなどでスパの経験がある他のドライバーたちとは、最初はギャップを感じながら走っていました」
オールージュからラディオンの高速かつ高低差のある左、右、左というレイアウトは日本にはない。ただ、オールージュからラディオンの難しさはそれだけではなかった。
「ラディオンの出口(左コーナー/ターン4)はブラインドになっているため、スピンや何かがあったらドライバーも対応することが難しいです。トラックウォークをしていても先が見えないようなブラインドコーナーは日本にはほとんどないため、不安なく行けるようになる経験を積むという部分ではGT3では難しく、FIA F2でようやく感覚を掴めたという感じです」
ドライコンディションで行われた予選を16番手で終えた宮田は、ポール・アーロン(ハイテック・パルスエイト)の10グリッド降格により、15番手からスプリントレースのスタートを迎えた。しかし豪雨により7周で赤旗終了となり、順位を上げるまもなく土曜日を終えることに。日曜日のフィーチャーレースは一転してドライコンディションとなり、16番手スタートの宮田はオプションタイヤをスタートタイヤに選んだ。
「フィーチャーレースはドライコンディションにはなりましたが、路面には濡れた部分も残り、スタート時点でラディオンから先のケメルストレートなどの路面の一部が濡れていました。そのようなコンディションでプライムタイヤを履くとすぐにデグラデーション(性能劣化)も起きやすいという理由が大きいです。また、セーフティカー(SC)リスクも考えたり、F1のタイヤデグラデーションも中継映像や情報を聞いた上で参考にしました」
そんなフィーチャーレースは序盤から波乱があった。
「チームメイトのゼイン・マローニ(ロダン・モータースポーツ/ザウバー育成)のスタートがうまくいかず。オリバー・ベアマン(プレマ・レーシング/フェラーリ育成)とジョセップ・マリア・マルティ(カンポス・レーシング/レッドブル育成)に挟まれるかたちで3台が接触し、その後ろにいた僕は失速するかたちになりました。続く1周目のケメルストレートエンドのターン5ではブレーキング勝負の末にリアロックが起きて、そのまままっすぐ(エスケープに)行ってしまったという感じでした」
オープニングラップでベアマン、マルティ、そしてマシントラブルに見舞われたフランコ・コラピント(MPモータースポーツ/ウイリアムズ育成)と3台がリタイアとなりSC導入に。
さらにリスタート後にビクトール・マルタンス(ARTグランプリ/アルピーヌ育成)、ラファエル・ヴィラゴメス(ファン・アメルスフォールト・レーシング)の2台が接触によりリタイアとなり2度目のSC導入時点に。この時点で宮田は16番手だったが、ここから宮田の追い上げが始まる。
7周目に2度目のリスタートを迎えると、オプションタイヤの宮田は終始安定したペースで周回を重ね、オプションスタート勢としては最も遅い11周目終わりにプライムタイヤに交換。プライムスタート勢がソフトに履き替えるにつれて、宮田は1台、また1台とアンダーカットして順位を上げる展開となった。
「エンジニアがタイヤに優しいセットアップを考えてくれて、僕もそのクルマにしっかりと対応できたことが要因だと思います」と、宮田。
その後全車がタイヤ交換義務を消化した17周目時点で宮田は7番手に浮上し、オプションタイヤを履く8番手アンドレア・キミ・アントネッリ(プレマ・レーシング/メルセデス育成)、9番手アムーリ・コルデール(ハイテック・パルスエイト)と激しいポジション争いを展開する。
3台の中で一番前に位置した宮田はDRSが使えない。対するアントネッリ、コルデールはDRSの後押しも得て宮田の背後に着く。ただ、この3台の戦いの中で一番追い込まれていたのは宮田ではなくアントネッリだった。
「僕のDRSに入られていたのはわかっていました。ただ、(背後についたアントネッリよりも)コルデールの方が速いんじゃないかなと勝手に思っていました。というのも、ハイテック・パルスエイトはいつもレースペースがいいからです。アントネッリとコルデールがやりあってくれたらベストだなとは思っていました」
「また、路面のコンディション改善が進んだとはいえ、オプションタイヤはアウトラップの2~3周を抑え切れば大丈夫だろうという予想もありました。あそこで後続を抑えられたのが今回のレースのポイントでしたね。アントネッリに前に行かれていたら、また抜き返すのにタイヤを使わなければいけなくなるので」
展開は宮田の理想通りに動き、レース終盤までタイヤのグリップをマネジメントし続けた宮田が7番手の座を守った。さらには6番手を走るチームメイトとのマローニとのギャップを1周1.5秒縮めて更なる順位アップを狙ったが、チェッカー時点で0.6秒届かなかった。
「もう1周あれば6位に行けていたと思いますし、さらにいえば5位になったリチャード・フェルシュフォー(トライデント/プライムスタート勢の最上位)も終盤はオプションタイヤでペースがガクンと下がっていたので……。と言っても仕方がないですね。ただ、ポジティブな一戦になりました」
7位でチェッカーを受け6点を獲得した宮田は、総獲得点数は29点、ドライバーズランキング18位という順位でサマーブレイクを迎えることになった。
「日本を離れて1年目、やはり簡単な世界ではありませんね。環境も言葉も日本とは違いますし、FIA F2はレースに向けて行われる公式テストも少ないです。少ない時間、限られたタイヤセット数でレースに臨むということは非常に、本当に難しいです」と、これまでの10戦20レースを振り返った。
「ヨーロッパでキャリアを重ねてきたライバルたちは、そういう事情も鑑みて、FIA-F4などのキャリア初期から準備し、F1に上がる前の最後のステージであるFIA F2でポテンシャルを発揮できるように逆算して取り組んできています。そんな彼らとの戦いとなるので、本当に難しく大変な挑戦なんだという実感は常にあります」
「ただ、そんな戦いに臨むなかで速さや強さを証明している部分はあり、そこはチームも評価してくれています。そんなチームには感謝しかないです。困難な戦いのなかで結果を残すことは大変ですけど、今はとても充実した時間を過ごすことができていると感じています」
2024年シーズンのFIA F2も残るは4戦8レース。宮田はFIA F2終盤戦、そしてその先に向けた思いを話した。
「FIA F2の残る4戦はサマーブレイクも含めて、ラウンドの間のスパンがかなり開きます。ただ、僕はELMS(ヨーロピアン・ル・マン・シリーズ)もあるので、他のドライバーと比べればサマーブレイクも短いかとは思います。残る4戦では自分がこれまでに経験したことをしっかりとレースに繋げたいです」
「また、他のFIA F2ドライバーの多くは5月、6月には2025年シーズンのことが決まっている状況で、すでに来年以降に向けた戦いも始まっています。自分はまだなにも決まっていませんが、残る4レースでは来年だけではなく、将来に繋がるレースを繰り広げたいと思います」
FIA F2第11戦は8月30日~9月1日に、イタリアのモンツァ・サーキットで開催される。宮田にとって初走行となる地だが、ハンガロリンク、スパ・フランコルシャンに続く3大会連続の入賞に期待したい。
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