2016年6月8日、ボッシュ・ジャパンはウド・ヴォルツ社長が出席し、恒例の2016年次報告記者会見を開催した。そこで、2016年CES(アメリカのコンシューマーエレクトロニクスショー)でワールドプレミアされ、日本初公開となる「HMIビジョン2012」のデモンストレーションが行なわれた。
記者会見では、まずヴォルツ社長が2015年度のボッシュ・グループの事業を総括し、同年度に9兆4800億円を売り上げ、利益は6148億円に達し、成長路線を歩んでいることを報告。また日本における事業は、中国経済の減速の影響を受け売り上げは前年度よりやや減少し270億円だった。2016年はABS、ESC、マルチメディア部門などの売り上げが加速し3~5%の売り上げ増を目指しているという。
次にヴォルツ社長は、現在のボッシュ・グループの大きな戦略となっているコネクトビリティ、つまりネット常時接続によるIoT化の強力に推進していることを説明した。大きな柱としては、スマートホーム(ネット端末を使用して家庭の電気機器やセキュリティを一元管理できるシステム)、スマートシティ(自動パーキング、クラウドと接続された都市部の駐車情報サービス)、コネクテッド・インダストリー(ドイツ主導の国家プロジェクト:インダストリー4.0)、コネクテッド・モビリティ(ネット接続によりクラウド情報を生かした安全なクルマの実現)が上げられている。
こうしたビジネス戦略は、センサー類、ソフトウエア、システム開発キット販売やクラウド・サービスという各カテゴリーのすべて網羅しているボッシュの強みが、大きなアピールポイントになっているという。ボッシュのクラウドは、グローバルに展開する方針で、すでにEUではオープンしており、日本でも渋谷の本社に支援チームを発足させたという。
ヴォルツ社長の基調報告に続き、カーマルチメディア部門の部門長・水野敬氏が、コネクテッドカーの次のステップを示し、同時にネット常時接続や、高度なドライバー支援システムを採用したクルマに最適な次世代のHMI(人間-クルマのインターフェース)のコンセプトモデル「HMIビジョン2021」のデモンストレーションを行なった。
次世代のネット常時接続を前提としたクルマは、クラウド情報と通信で連携することで様々なドライバー支援やサービスが実現する。現在開発、あるいは運用開始間近のサービスは次のようなものがある。
まず1番目は、車載のセンサーでは検知できないはるか前方の交通情報や天候、道路環境は、クラウドからの通信で予知することができる「コネクテッド・ホライゾン」。これにより走行するクルマの安全性、効率性が大幅に高めrことができる。
2番目は、2018年からヨーロッパで全面導入されるeCall(緊急時の自動通信サービス)だ。ボッシュはすでに41カ国で自動緊急通報サービスを展開しており、日本でも2016年末からこのサービスを運用開始する。さらに、eCallを装備していない現在のクルマにも簡単に装着できる後付用eCALL(スマートフォンと連携して使用)も設定されている。
3番目は、クラウドのリアルタイム情報を生かし、高速道路などを逆走するクルマを発見すると10秒以内に自動的に周囲のクルマに警報を発信する「逆走警告システム」。これは2016年末からヨーロッパ、アメリカで利用可能になる。
4番目は、主としてヨーロッパを対象としたコミュニティベース・パーキング、自動バレットパーキングだ。コミュニティベース・パーキングは都市部での駐車可能スペースをクラウドがリアルタイムで蓄積し、そのデータを利用してすばやく駐車することができるサービスだ。自動バレット・パーキングは、駐車場内でドライバーがクルマから降り、スマートフォンで自分のクルマを入庫させる、あるいは出庫させるサービスで、これもクラウドにある駐車場データを使用して運用される。
5番目は走行中のクルマのECUをクラウドがモニターすることで、そのクルマのトラブルの予兆を発見し、ドライバーとディーラーのサービス工場に通報する予測診断機能だ。このサービスにより、サービス工場はいち早く部品やツールを用意でき、効率的な修理ができ、一方で自動車メーカーにも情報は配信され、メーカー側もそのクルマのソフトウエアのアップデートを迅速にすることができる。
このように、クラウドと接続した次世代のコネクテッドカーの利便性や従来では考えられなかった可能性は大きく広がるが、すでのこれらの開発、準備は着々と進行している。
■■コンセプトカー「HMIビジョン2021」
そしてこうした次世代のコネクテッドカーに必須とされるのが、新しいクルマとドライバーのインターフェースだ。なぜなら、クラウド接続によりクルマにはこれまでとは比較にならないほど多くの警報や情報が流れ込み、それらをすべて表示することは煩雑過ぎるのだ。取捨選択してわかりやすく表示すること、つまり新しいHMI(人間-マシンのインターフェース)が課題になっている。
今回披露されたコンセプトカー「HMIビジョン2021」は、名称通り2021年を想定したインテリアとなっている。クルマが適切なタイミングで適切な情報を表示し、ドライバーは簡単な操作で情報を選択できることはもちろん、ドライバーの運転を幅広くサポートするアシスタントとして、さらには走行中の室内でより効率的に仕事ができたり、自宅のリビングにいるようにリラックスしてエンターテイメントを楽しむことができることを狙って作られたコンセプトカーだ。
網目状の骨格は3Dプリンターで作られ、また運転席から助手席に広がるディスプレイは3分割され、ドライバーは簡単なジェスチャーで3画面と、それぞれの表示内容を切り替えできる。そして、クルマのスタート時のドライバー認証、自宅のセキュリティ確認など、重要項目はセンターコンソール部の、触覚式(ハプティック)液晶ディスプレイ(名称はネオセンス)で、指紋認証と操作の切り替えなどが行なわれるのが特徴だ。
また運転に最重要な項目、車速や進行方向ガイドなどはヘッドアップディスプレイに表示され、クルマに危険が迫っている場合の警告は、大きな赤いディスプレイとなるなどのシステムも採用されている。
こうした新しいHMIは、自動運転レベルが現状のレベル2からレベル3に引き上げられる段階では、積極的に採用されると考えられている。なおこの頃にはコネクテッドカーが使用する通信回線は5G回線に進化すると想定されている。
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