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キャデラック XT6に渡辺慎太郎が国内試乗! 付和雷同から脱却する新型SUVのススメ

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キャデラック XT6に渡辺慎太郎が国内試乗! 付和雷同から脱却する新型SUVのススメ

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なんとなくの同調に流されてはいないか

「同調現象」とは、社会心理学などで用いられる言葉のひとつで、自分が置かれている環境や社会の中である一定の見解や認識や選択が正しいとされると、それになんとなく同調してしまうという人間の心理状態を示している。

たとえ当初はそれと異なる考えを持っていたとしても、誰も賛同してくれないと次第に不安な気持ちに支配され、結局あらがうことをやめてしまい、周りの人と同じ意見や行動を選択して安心を感じる。似たような言葉に「沈黙の螺旋」があって、これは多数派の意見が蔓延すると少数派が沈黙を余儀なくされるということ。

「長いモノに巻かれる」とか「食わず嫌い」もそれらに近いところにある言葉かもしれない。「孤立の恐怖」や「反逆の苦痛」よりも「同調の安心」に人はすり寄ってしまうのだ。

これを「由々しき事態」と声を荒げるつもりなどは毛頭なく、自分だって同調することに安心感を覚えるひとりである。例えばネットショッピングをするときに、その商品に関して十分な知識を持ち合わせていないと、つい“ベストセラー”のマークが付いた商品や口コミ評価の高い商品をポチッとしてしまう。自分に確固たる信念や趣向があっても「よくわからない」という不安を払拭するには至らない場合も多く、そういうときはやっぱり多数派の中に紛れることでホッとする。

アメリカ車が少数派である理由

キャデラックの新型SUV、XT6の試乗記の冒頭でこんな話を持ち出すのは、日本の輸入車社会においてドイツ車を選ぶ人が多数派、アメリカ車が少数派になっている傾向が見られると思うからだ。

もちろんドイツ車には優れたモデルが多く、精査して吟味してドイツ車を選ぶ方が多い一方で、クルマに詳しくない人の中には「アメ車もいいなあ」と内心では思っていても「なんだかみんなドイツ車に乗ってるから」と最終的にドイツ車を選ぶ方も少なくない。特にクルマは高額商品なので、「絶対に失敗したくない」気持ちが強いから自分の好みよりも間違いない(と信じる)選択を優先してしまうのだろう。

これで“アメ車”が法外に高額で性能も大したことなければ「ドイツ車を選んで正解」となるかもしれないけれど、実際そうではない。むしろ最近のアメ車はそれはもうよく出来ていて、感心するあまり「うーむ」と声も出ないほどである。XT6を試乗する前の週に別件でシボレー カマロのコンバーチブルに試乗したが、あまりにも気持ちよくてそのまま乗って帰ろうかと思ったくらいである。

去年試したメルセデス・ベンツのG 350 dの出来の良さに卒倒して、もうこれを超えるSUVは地球上に存在しないだろうと確信し、以降はSUVの試乗を積極的に行ってこなかった。ところが、XT6で東京と軽井沢間を往復したら考えが一変した。Gクラスとは開発目標がまったく異なるベクトルを向いているとはいえ、XT6の日常領域におけるさまざまな性能レベルの高さに舌を巻いたからである。

車体寸法がもたらすエレガンス

キャデラックのSUVは、日本にすでに導入されているXT5の他に本国で販売されているXT4があって、つい先日は新型のエスカレードも発表されたばかりである。

XTシリーズは数字が大きくなるごとにボディサイズも大きくなる。全長/全幅/全高/ホイールベースはXT4が4600mm/1950mm/1628mm/2779mm(米国仕様)、XT5が4825mm/1915mm/1700mm/2860mm、そしてXT6が5060mm/1960mm/1775mm/2860mm。実はこれらのボディスペックを確認するまで、XT6のほうがXT5よりもホイールベースは長いと信じ込んでいた。見た目にも、乗った印象からも、ホイールベースの長さを感じていたからである。

キャデラックはXT5にスポーティで若々しいイメージを、XT6には重厚でエレガントなイメージを与えようとエクステリアデザインでの差別化を図り、それはうまく機能している。デザインに関する印象は個人の趣向に依るところが大きいのでこれはあくまでも自分の主観ではあるけれど、XT6のほうが全体のバランスが見事にまとまっているように思う。

全長/全幅/全高/前後のオーバーハングの比率がちょうどいいというか、部分的に長い/短い/高い/低い/大きい/小さいがなくて、均衡を保っている。各部の断面形状もやり過ぎ感がなく、例えばフロントフェンダー/フロントドア/リヤドア/リヤフェンダーとその上に乗っかっているボンネット/キャビンの前後左右のつながりが極めてスムーズだ。5m強の全長と2mに迫る全幅は物理的に長く幅広いが、全体のフォルムを美しく上質に見せるには、これくらいのディメンジョンがないと成り立たないのかもしれない。

コクピットは機能性を優先

エクステリアと比較すると、XT6のインテリアはXT5との差を意図的になくし、差別化よりも一貫性や統一感を重視したように映る。特にダッシュボードには機能性という要件が必須なため、見た目よりもそちらのほうを優先したのだろう。

メーターのグラフィックは奇をてらわず機能と視認性を重んじたものになっているし、エアコン以外の装備のコントロールはほぼすべてタッチ式ディスプレイで行える。こうなると、シフトレバーの後方に配置されたロータリー式スイッチは必要ないのでは? という気がしないでもない。ステアリングのスイッチでも主要な操作が行えるから、今回は一度もロータリスイッチのお世話にならなかった。

「ちゃんと使える」3列シート車

XT6の室内における最大の特徴は3列シートの6人乗りにある。2列目のシートを独立式のふたり掛けと割り切ったことで、2列目シートを倒してアプローチする以外にもうひとつの3列目シートへのアクセスルートを確保している。

3列目シートは身長173cmの自分でもすっごい窮屈だとは感じないレベルの空間が確保されているが、感心すべきはさらにその後方に357リットルもの荷室スペースがまだ残っている点だ。世の中には3列シートを謳っていても定員乗車すると荷物を置く場所がほとんどないクルマも多く、「3列にすればいいってもんじゃないのに」と短絡的かつユーザーの使い勝手を無視した商品企画にがっかりするクルマが少なくない。

以前、某自動車メーカーのエンジニアとこんなやりとりがあった。「最近はご近所のお子さんを乗せてサッカーや野球の練習や試合に行くという用途が多く、そういうお客様の声を反映させて3列シート仕様を作りました」「ユーザーの声を聞いてすぐに商品化するのは大変素晴らしいですね。でもサッカーボールとかバットとかはどこに置くのですか」「それはお子様の膝の上に置いていただいて」「万が一、衝突事故なんてことになったら、たくさんのサッカーボールやバットが室内を飛び交うわけですね」「・・・」

“お客様”という言葉を印籠のように持ち出すのなら、本当にお客様の身になって商品企画して欲しいと自分なんかは思ってしまう。XT6はそういう配慮にも優れたクルマである。ちなみに2列目と3列目のシートは電動可倒式で、それをすべて畳むと最大2228リットルというどれほどすごいのかわからないくらいの広大なスペースが誕生する。

自然吸気V6と9速ATの友好的関係

XT6が積むパワートレインは1種類のみ。3649ccのV型6気筒エンジンとトルコン付きの9速ATの組み合わせである。自然吸気ユニットなので、パワースペックは最高出力314ps/6700rpm、最大トルク368Nm/5000rpmと、最近の過給機付きユニットと比べると控え目な数値かつ高回転型に見えてしまう。これで2210kgもあるボディを動かすのだから、さすがにちょっと厳しい場面もあるのではないかと想像していたものの、実際にパワー不足を痛感することは一度もなかった。

理由のひとつにトランスミッションとのマッチングのよさがある。燃費向上のためにできるだけエンジン回転数を低く保って燃料消費量を少なくする目的でATの多段化が進んできたけれど、余りあるパワーとトルクがないエンジンにとってはATの段数が多ければエンジンの“おいしいところ”を常に使えるメリットがある。

そのためにはスロットルペダルの動きに対するレスポンスと最適な段数選択が不可欠で、XT6にはそれが揃っている。その上、9速ATはシフトチェンジのキレがよく、自然吸気ならではの高回転までスムーズに回る様と相まって、加速時は特に気持ちがいい。アイドリングストップや気筒休止などを総動員しても、残念ながら燃費は最近のダウンサイジングユニットに及ばないものの、「燃費がなあ」だけで諦めてしまうのは少しもったいないほど秀逸なパワートレインである。

XT6はグランドツアラー的なSUV

XT5とXT6の操縦性における特徴を端的に言い表してみると、XT5は曲がるのが得意、XT6は真っ直ぐ走るのが得意である。ホイールベースが同じで全長が異なるということは、前後のオーバーハング(今回の場合は主にリヤ)に質量の差が生じているわけで、物理的特性からもXT6のほうが若干不利なのはやむを得ない。

両車の前後軸重はXT5が1170kg:820kg、XT6が1150kg:930kgで、XT6のリヤのほうが110kgも重くその大部分がBピラーから後方に載っかっている。XT6のフロントのほうが軽いのは前後重量配分として見た場合、全長が伸びたことで前軸にかかる重量配分が後方へ移行したと考えられる。

XT6はステアリングを切ると、それまで意識していなかったボディの長さと後端の重さがクルマの挙動に影響していると実感するようになる。ただしこれはワインディングロードなど、ステアリングの操舵角が大きい時のみであって、高速道路くらいの小さなRのコーナーではほとんど感じない。高速巡航時は操舵応答遅れもなく、車線変更も迅速かつスムーズに行えたから、「曲がらない」ストレスはまったくなかった。XT6はまさにグランドツアラー的性格を持つSUVである。

4輪駆動システムはドライブモードによって前後駆動力配分を最適化するタイプで、ツーリング/AWD/スポーツ/オフロードの4種類から選べる。ツーリングがノーマルに相当するモードで、基本的には前輪駆動が主体。スポーツでは状況に応じて4輪駆動となり、迅速なトラクションの確保のみならず、トルクベクタリングを使って曲がりやすくする制御が働いているようだった。だからもし、XT6を運転していて「もう少し曲がって欲しい」と思ったらスポーツモードを選ぶといいだろう。

GM自慢のアシがもたらす快適な乗り心地

グランドツアラーと称したのは、乗り心地や静粛性もそれにふさわしいものだったからだ。ダンパーはGMの誇る磁性流体式リアルタイムダンピングシステムで、路面状況に応じて連続的に減衰力を可変する。

キャデラックだけでなくシボレーにも採用されるこのシステムは、極端に言えば路面からの入力の大小を問わず、乗員まで伝わってくる突き上げや振動はほとんど同じというアクティブサスペンションにも似た優れた代物で、スポーツカーからSUVまで幅広く対応できる。

XT6の場合、ばね下はこのシステムで、ばね上はボディの重量で、それぞれの動きを抑制するから常に快適な乗り心地を享受できるというわけである。XT5よりもホイールベースが長いと信じ込んでしまったのは、この乗り心地のよさのせいでもあった。

キャデラック独特の「静けさ」

XT6は静粛性も高い。クルマの“静粛”にも種類があると自分は思っていて、それを“静粛感”と勝手に呼んでいる。XT6の静粛感は独特で、ドイツ車にも日本車にも似ていない。これを具体的に説明するのはなかなか難しいのだけれど、あえて言うなら騒音低減のやり方にキャデラック独自の方針があるように思える。

騒音低減には遮音と吸音という2種類の方法があって、騒音の種類や場所によってそれを使い分ける。振動周波数とその原因から、騒音を遮断するか騒音を吸収するかの選択はおおむね決まるので、例えばドイツ車の静粛感はなんとなく似ている。

ところがXT6に限らずキャデラックはどのモデルも遮音と吸音が一般的なセオリーと異なるのではないかと考える。まるで、本来なら吸音するところを遮音したり、それほど騒音が発生していないところにも吸音材を忍ばせたりしているかのようで、とにかく耳に届く静けさの種類が独特なのである。音があまりしないのにキャデラックとわかる空気感は漂っている、そんな印象を受けた。

良心的なXT6の値付け

全幅(とトレッド)が広いので、そこは終始気を遣ったものの、それ以外で顔をしかめたくなるところはひとつもなかった。むしろ想像していたよりもはるかによかった。自分なんかは50歳を超えてからしゃかりきになる運転より、ゆったりと心地よいドライブを楽しみたいと思う気持ちのほうがずっと強くなってしまったので、アジリティだのスポーティだのをウリにしていないXT6みたいなSUVには好感が持てる。

もうひとつ好感が持てるのは価格。同等のボディサイズ/3列シート/6気筒のドイツのライバルと比較すると、アウディ Q7(55 TFSI)は955万円、BMW X7(35d)は1099万円、メルセデス・ベンツ GLS(350 d)は1261万円で、XT6の870万円が破格の値付けにすら思えてしまう(今回の試乗車は特別仕様車で装備が通常よりも充実していたものの、それでも910万円)。

キャデラックXT6は、同調現象から抜け出そうか迷っている貴方の背中をきっと押してくれるはずである。

REPORT/渡辺慎太郎(Shintaro WATANABE)

PHOTO/峯 竜也(Tatsuya MINE)

【SPECIFICATIONS】

キャデラック XT6 ナイトクルーズ エディション

ボディサイズ:全長5060 全幅1960 全高1775mm

ホイールベース:2860mm

車両重量:2110kg

エンジン:V型6気筒DOHC

総排気量:3649cc

ボア×ストローク:95.0×85.8mm

最高出力:231kW(314ps)/6700rpm

最大トルク:368Nm/5000rpm

トランスミッション:9速AT

サスペンション:前マクファーソンストラット 後マルチリンク

駆動方式:4WD

タイヤサイズ:前後235/55R20

【車両本体価格(税込)】

XT6 ナイト クルーズエディション:910万円

【問い合わせ】

GMジャパン・カスタマーセンター

TEL 0120-711-276

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