こんなクルマが出るなんて……
最近のBMWのデザインには、驚いてしまうことが少なくない。グリルはますます大きくなり、エクステリアもますます派手になっている。しかし、新型BMW XMレーベル・レッド(写真)を初めて見たときの衝撃に比べれば、些細なものだろう。
【画像】いろいろな意味で驚いた市販車たち【BMW XM、テスラ・サイバートラックなどを写真で見る】 全84枚
BMW XMは、車体が非常に大きく、かつ非常に高価なハイブリッドのMモデルである。標準車でも主張の激しいクルマだが、新仕様のレーベル・レッドはさらに過激で、攻撃性を醸し出すレッドのアクセントを随所にあしらっている。
気に入るかどうかは別として、このようにわたし達に衝撃を与え、驚かせてきたクルマは決して少なくない。そして、時には感動を与えてくれるものもある。今回は、驚きを持って世間に迎えられたクルマを20台紹介したい。
ランボルギーニLM002(1986年)
2シーターのスーパーカーで知られる名門ランボルギーニが、その枠を飛び出し、SUVを解き放った。今でこそウルスはベストセラーになっているが、1986年に発表されたLM002は、にわかに信じがたいモデルであった。
LM002の開発プロジェクトは、ランボルギーニが米国陸軍向けの軍用車製造を請け負おうとしたことから始まった。はじめに「チーター」というリアエンジンのプロトタイプが作られたが、米軍の印象には残らないものだった。結果的に、AMゼネラルのハンビーが受注することになる。
しかし、ランボルギーニはチーターにかけた時間やお金を無駄にするわけにはいかず、ここで得た知識を活かして、初のSUVであるLM002を開発したのだ。
GMCサイクロン(1991年)
ローライダーのようなルックスを持つGMCサイクロンは、驚くほどのパワーを秘めたメーカー純正ホットロッドである。ソノマというピックアップトラックをベースに、専用開発された4.3L V6ターボエンジンを搭載。4速ATとの組み合わせにより280psを発揮する。
Car & Driver誌は、ゼネラルモーターズのトラック製造部門がフェラーリキラーを手に入れたと考え、その仮説を検証するためにドラッグレースに赴いた。リアバイアスの全輪駆動システムを採用したサイクロンは、1/4マイルレースで348 TSを破り名を馳せた。
ゼネラルモーターズEV1(1996年)
EV1のようなクルマを発売するのは、大手ゼネラルモーターズではなく、スタートアップ企業だと思われるだろう。その先進性は、空飛ぶ円盤のようなデザインにとどまらない。最高出力137psの電気モーターと16.5kWhのバッテリーを搭載し、アルミニウムとプラスチックにより、重量は約1400kgに抑えられている。
ゼネラルモーターズはEV1を米国の一部の州でリース販売した。しかし、このような先進的な電動車の生産で採算をとることは不可能であるとして、2003年にリースが中止された。顧客は抗議しながらも、しぶしぶクルマを返却した。全1147台のうちほとんどがリサイクルされたため、ドラマチックな陰謀説も流布され、ドキュメンタリー映画に取り上げられるほど話題になった。ゼネラルモーターズのリチャード・ワゴナーCEOは、後に「EV1プロジェクトの中止は、自分の仕事上の最大の後悔だ」と語っている。
ビュイックGNX(1987年)
「パフォーマンス」という言葉を聞いて、ビュイックを思い浮かべる人は少ないだろう。ゴルフ好きなら、ビュイックのキャディバッグを連想するかもしれないが。しかし、1980年代、ゼネラルモーターズ傘下のセミ・プレミアムブランドであったビュイックは、生活臭のあるリーガルをシボレー・カマロよりも速く走らせたのである。
グランドナショナルは、ビュイックのNASCARレースでの成功を記念して1982年にデビューした。4.1L V6を採用したが、最高出力は125psにとどまる。1983年に一旦廃止されたが、1984年に3.8L V6ターボチャージャーを搭載し、200psの出力を得て復活。その後、徐々にパワーアップし、1987年に登場したGNXは、ビュイックで最もコレクターの多いモデルの1つとなっている。
限定モデルのGNXは、書類上では最高出力276psを謳っていたが、実際には300psに近い。ビュイックはシボレー・コルベットのイメージを守るために、性能数値を低く評価していたのである。これは、ゼネラルモーターズが競合他社のことを考えるよりも、身内のブランドのことを重視していた一例である。
キア・エラン(1996年)
1990年代、徐々に自信を深めたキアは、ラインナップの最上位に位置するトップモデルを望むようになった。そこで、ロータスにスポーツカーの共同開発の話を持ちかけたところ、M100型エランの生産権を購入することになり、交渉は思わぬ展開を見せた。ロータス・エランとキア・エランの2台は外観こそほぼ同じだが、キアはセフィア(中型セダン)の最高出力151psの1.8Lエンジンを使っている。
当時、プライドのようなお買い得なエコノミーカーの代名詞だったキアにおいて、エランは大変奇妙な存在だった。結局、生産台数は1000台に満たなかった。そのほとんどは韓国で販売されたが、ごく少量が英国にも持ち込まれている。
メルセデス・ベンツAクラス(W468、1997年)
1997年のフランクフルト・モーターショーで、メルセデス・ベンツが初めてシティカー(小型車)を発表したことは大きな話題を呼んだ。スポーティでもラグジュアリーでもなく、ブランド初の前輪駆動プラットフォームに型破りなほど背の高いボディを載せている。初期のモデルは、80km/hで緊急回避運動を行う「エルクテスト」に不合格となり、それもまた大きな話題となった。
メルセデス・ベンツはAクラスの販売を3か月間停止した後、電子制御スタビリティコントロールの導入とサスペンションの変更によってこの問題を解決した。
リンカーン・ブラックウッド(2001年)
ブラックウッドを作った理由は、「リンカーンがSUVを売れるなら、ピックアップトラックも売れるだろう」というものだった。フォードF-150をベースにしたブラックウッドは、ナビゲーターのようなフロントエンド、サイドのフェイクウッドパネルを持ち、カーペットを敷いた荷室は電動式のプラスチックカバーで隠されている。
しかし、リンカーン初のピックアップトラックは、消費者から懐疑的な目で見られた。後輪駆動しかなく、ピックアップトラックに求められる多機能性は全く無かったのだ。発売から1年余りで生産が終了し、リンカーン史上最も短命なモデルとなってしまった。
ポルシェ・カイエン(2002年)
ポルシェはカイエンを発表する数十年前から、オフロード車の製造に自信を持っていた。しかし、2000年代初頭まで、このプロジェクトを遂行するための資金がなかったのだ。ようやく完成したカイエンは、ポルシェにとって初の量産4ドアモデルであったが、それだけで純粋主義者は納得がいかなかった。
彼らはカイエンを嘲笑し、ル・マンにおける917Kの周回タイムよりも早くポルシェのブランドを壊してしまうだろうと推測した。しかし、カイエンは記録的なセールスを達成する。ポルシェが長年にわたって磨き上げてきたスポーツカー並みのパフォーマンスで、純粋主義者が間違っていることを証明したのだ。現在の3代目カイエンは、大型SUVクラスのドライバーの憧れの的である。
フォルクスワーゲン・フェートン(2002年)
フォルクスワーゲンは、定義上、人々のためのクルマ(国民車)である。しかし、BMWやメルセデス・ベンツ、そして傘下のアウディと肩を並べようと、フェートンを発表した。ドレスデンのガラス張りの工場でベントレーのプラットフォームをベースに作られたフェートンは、豪華なアメニティ、パワフルなエンジン、それに見合った価格設定を持つ、型破りな高級セダンであった。
メディアの人間は、フォルクスワーゲンのエンブレムはBMWやメルセデス、あるいはアウディなどのエンブレムに比べ、それほど高い価値(ブランド)を持たないため、販売に苦戦するだろう予想した。その予想は正しかった。フェートンは米国で失敗に終わり、欧州でも良い結果を残せなかった。だが、フォルクスワーゲンは中国での販売好調を理由に、2016年まで生産を続けた。
ボルボT6ロードスター・コンセプト(2005年)
2005年のSEMAショーで発表されたボルボT6ロードスターは、1930年代の米国のホットロッドをモチーフに、1997年のプリムス・プロウラーを思わせる奇抜なデザインで注目を浴びた。2.9L直6エンジンをはじめ、S80やC70のパーツが多数使用された。市販化が検討されることはなかったが、旅の恥はかき捨て、ベガスで起きたことはベガスにとどまる。
日産ムラーノ・クロスカブリオレ(2010年)
ジープとランドローバーは、コンバーチブルSUVを実現できる数少ない自動車会社の1つである。そのボディスタイルは彼らの遺伝子の中にあるのだ。日産は堅実な大衆車で名声を築いたが、それでも2代目ムラーノのルーフを切り落とし、「世界初の全輪駆動クロスオーバー・コンバーチブル」を作り上げた。
売れ行きは芳しくなかったため、この類のクルマはこれが最後になるかと思われた。しかし、ランドローバーが日産からバトンタッチし、レンジローバー・イヴォーク・コンバーチブルを発売。これも失敗に終わる。今後こそ最後かと思いきや、フォルクスワーゲンが2019年のフランクフルト・モーターショーで発表したTロック・カブリオレを市販化。このバトンはブランドを越えて確実に受け継がれていくようだ。
アストン マーティン・シグネット(2011年)
アストン マーティン・シグネットの発表は、UFOの目撃に近い衝撃的な出来事であった。これまでのアストンにはない小さなボディに翼のエンブレムをつけており、価格も同クラスの他車とはまったく異なっている。
アストンは、欧州の企業平均排出ガス規制を遵守し、高額な罰金を避けるためにシグネットを作ったのだと説明した。当時のCEOであるウルリッヒ・ベズ氏は、とりあえず4000台程度は売れるだろうと考えていたらしい。しかし、裕福でオープンマインドな消費者でさえ、BMW 3シリーズと同等の金額をトヨタiQのリバッジに費やすことに納得できず、結局約300台を生産しただけで終了した。
しかし、今でも時折、ロンドンの高級住宅街で見かけることがある。珍しさゆえか、価値は高く保たれている。
ランドローバー・エレクトリック・ディフェンダー(2012年)
ランドローバーブランドを代表するディフェンダーは、研究目的で4気筒ターボディーゼルをコンパクトな電気モーターとリチウムイオンバッテリーに置き換えた。四輪駆動のハードウェアはそのままに、ヒルディセントコントロールや回生ブレーキシステムを搭載している。
重さ409kgのバッテリーを積み、航続距離はおよそ80kmだが、低速のオフロード走行では8時間の航続が可能だ。ランドローバーは、2012年から2013年にかけて7台のエレクトリック・ディフェンダーを製造している。ジャガー・ランドローバーによる電動パワートレインのデータ収集に使われ、市販化が検討されることはなかったが、最終的にはジャガーIペイスで実を結んだ。
BMW i3(2013年)
BMW i3には、誰もが意表を突かれた。「究極のドライビングマシン(駆け抜ける喜び)」を標榜するBMWが、高級シティカーを発売するとは誰も予想していなかった。ミニはそのためにあるのではないだろうか?
i3は小型ハッチバックであると同時に、テクノロジーのショーケースでもある。電動パワートレイン、サイズ、スタイリングにおいてBMWのラインナップの中でも際立っているが、これは同社が1990年代初頭から温めてきたアイデアの集大成なのだ。特に、1991年のフランクフルト・モーターショーで発表されたバッテリー駆動のコンセプトカー「Z11」は、i3によく似ている。
ジャガーFペイス(2016年)
ジャガーとランドローバーは、1967年から1984年まで、そして2000年から現在に至るまで兄弟会社として共存し、ジャガーがセダン/ワゴンを、ランドローバーがSUVを生産するという不文律が長く守られてきた。しかし、SUVの人気の高まりは、それまで参入を考えていなかったジャガーのようなブランドにも、新たなチャンスをもたらした。
ランドローバーの縄張りを徘徊するほど大胆なジャガー初のSUV、Fペイスの登場だ。意外なことに、この方程式はうまくいっており、AUTOCARはFペイスを兄弟車レンジローバー・ヴェラールよりも高く評価している。
ジープ・グランドチェロキー・トラックホーク(2017年)
ジープは舗装されたサーキットではなく、トレイルで活躍するためのクルマを作り続けているが、グランドチェロキーに6.2LのV8スーパーチャージャー「ヘルキャット」を詰め込むという誘惑には勝てなかったようだ。結果、ポルシェ911をドラッグレースで打ち負かすことができる最高出力710psのSUVが誕生した。
まるで長靴にイケアのキッチンを突っ込んだような、無茶苦茶なクルマだ。また、最大3300kgまで牽引することができる。グランドチェロキー・トラックホークは、マッスルカーをサーキットまで牽引できるマッスルカーなのだ。試乗してみると、驚くほどシリアスで、しかもかなり洗練されたクルマだと結論づけられた。
アルファ・ロメオ・ドーフィン(1959年)
アルファ・ロメオ・ドーフィンは、経済的な理由で生まれた。一方のルノーは、イタリアで乗用車を販売する費用対効果の高い方法を探していた。もう一方の、当時イタリア政府が所有していたアルファ・ロメオは、労働者をきちんと働かせるために量販車を求めていた。両社の目論見が一致し、アルファはミラノ工場でルノー・ドーフィンを製造することに合意し、ルノーはフランスのディーラー網を通じてアルファのモデルを販売することを約束した。
イタリア製のドーフィンは、フロントとリアナンバープレートの上にブランド固有のエンブレムを付けるなどの細かい点を除けば、フランス製と同じ外観である。機械的には、電気系統がルノーの6Vから12Vに変更されている。
アルファは、ドーフィンの上級バージョンであるオンディーヌも生産した。ルノーは1964年に提携を解消しており、ルノー側が約束を守った形跡はない。
テスラ・サイバートラック
テスラのピックアップトラックは当初、ハイテクを駆使したスマートな外観のマシンになると業界では予想されていた。それこそ、リビアンのように。しかし、わたし達が目にしたのは、まるでエイリアンの宇宙船で運ばれてきたかのようなマシンであった。
テスラからのサプライズには慣れてきたところで、これまで以上におかしな発進加速タイムや、これまで以上に充実した自動運転機能などは想定の範囲内である。しかし、サイバートラックは、ピックアップトラックのあり方を完全に再構築した、別次元のものであった。公道ですれ違う日が楽しみである。
BMW XMレーベル・レッド(2023年)
標準のBMW XMは2022年秋に登場し、全長5110mmというサイズと14万5000ポンド(約2400万円)という価格で注目を集めた。しかし、今回新たに登場したレーベル・レッド仕様は、出力が19%引き上げられ、0-100km/hの加速時間は3.8秒となり、最高速度は290km/hに達するという。
価格は17万1000ポンド(約2850万円)となり、さらに赤を基調とした専用デザインが施されているため、前を走るほとんどのクルマがすぐに道をあけてくれることだろう(それが狙いなのかもしれないが)。
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