バック・トゥ・ザ・フューチャーで一躍有名に
text:Richard Bremner(リチャード・ブレンナー)
translation:Kenji Nakajima(中嶋健治)
タイムトラベルのアドベンチャー映画が上映されていなければ、ステンレス製のボディにガルウイング・ドアを備えたデロリアンDMC-12は、今ほどの知名度は得ていなかっただろう。
デロリアンのデザインは、フラックス・キャパシターがなくても充分に個性的。それだけでなく、クルマが備える欠陥や、開発者が犯した犯罪は、ちょっとした物語級の面白さがある。
世界中で好まれているバック・トゥ・ザ・フューチャーは、御存知の通り3部作。テーマパークのアトラクションにもなっている。だが、DMC-12の開発ストーリーも同じくらい興味深いと思う。実際、映画にもなった。
DMC-12の開発が行われたのは、1981年から1983年という短期間。もっとも、映画の存在がなければ、開発の裏話も旧車マニアや北アイルランドの歴史好きに受けた程度だったかもしれないけれど。
1979年、英国政府はデロリアン・プロジェクトを進めるため、5,300万ポンド(71億5500万円)という資金援助を行った。失業者対策として。しかしすぐに、数百万ポンド(数億円)に及ぶ資金の使途不明利用が発覚する。
ロータスの関与や、タイミングの良いコーリン・チャップマンの死去。創設者、ジョンZデロリアンによる180万ドル(2億円)のコカイン取引など、逸話やスキャンダルも絶えないのが、デロリアンでもある。
GM最年少のスピード出世からの起業
創設者のジョンZデロリアンは、1960年代、最も華やかに自動車業界で活躍した人物の1人だった。40歳でゼネラル・モータースとして最年少の部門マネージャーに昇格。GM内でもトップ級の仕事をこなした。
マネージャーにしてはカジュアルな風貌に、少なくないテレビ出演など、お硬い幹部の間での評判は良いわけではなかった。1973年にはマネージャーを降り、フロリダのGMディーラーで働くようになった。
その後、ジョンZデロリアンは新たな事業に乗り出す。デロリアン・モーター・カンパニーを立ち上げ、彼の名を冠したスポーツカーを計画。英国政府は北アイルランドに、製造工場を準備した。
当時の政府は、経済的に厳しかった北アイルランドでの雇用拡大の手段として、デロリアンに大きな期待を寄せていた。創業後しばらくは、政府の期待通りの成果を挙げていた。
新しいスポーツカーは、バックボーン・シャシーを備え、ボディはステンレスを用いたコンポジット・パネルが採用された。レイアウトはリアエンジン・リアドライブ。ルノー製のV型6気筒エンジンが動力源だった。
イタリアのカーデザイナー、ジョルジェット・ジウジアーロのドラマチックなスタイリングは、ガルウイング・ドアが最大の目印。だが、会社の運命も負けじとドラマチックだ。
創業者の信用失墜とともに会社も倒産
180万ドル(2億円)のコカイン取引容疑により、ジョンZデロリアンはFBIの捜査を受け、デロリアン社は望まぬ注目を集めた。当時の英国首相、マーガレット・サッチャー首相が決定した資金援助に対しても、不信感は高まった。
ジョンZデロリアンは最終的に無罪となるが、彼の弁護士は、警察がしかけた罠にはまった、と主張した。しかしデロリアン・モーター・カンパニーは、創業者の信用失墜と合わせるように、1984年に倒産してしまう。
その翌年、1985年に公開された映画、バック・トゥ・ザ・フューチャーはDMC-12を銀幕の世界へと押し上げた。ハリウッド出演がもう少し早ければ、もしかすればデロリアン社は立ち直れたかもしれない。
工場へ大きく依存していた当時の北アイルランドでは、数千人が大きな影響を受けた。デロリアンの開発から製造に関わった、多くの努力は忘れ去られつつあるが、クルマ自体は今も高い注目を集めているのが対照的だ。
このDMC-12は、現在は未来の自律運転技術の開発用車両としても選ばれている。アメリカ・スタンフォード大学では、EVのデロリアンを開発し、事故を回避するために意図的にドリフトさせるアイデアを研究している。
テスト車両はテールスライドのマルチ・アクチュエーターのベース車両となっている。フラックス・キャパシターの研究だけではない。
デロリアン工場の施工に携わった内装職人
熱い期待を集めていたクルマを実現するために、全力を投じた人々。工場の建設に関わった人。潰れかかったデロリアン社を、画期的な計画で立て直そうとした人。今回は、ジョンZデロリアンの背後にいた人物を、インタビュー形式で紹介したい。
ジョー・マレー 内装職人
内相職人のジョー・マレーは振り返る。「わたしは室内装飾を担当していました、つまり、社内のあらゆる場所に立ち入れました」 豪華なカーペットが敷かれた、ジョンZデロリアンのオフィスも施工したという。
「ユニークだと思ったのが、個人用のバスルームがあったことと、トイレにも電話が設置されていたこと。とても印象に残ったことの1つです」 と話すマレー。
ジョンZデロリアンはアメリカの芸能界とも人脈があり、テレビ司会者のジョニー・カーソンが工場を訪れたこともあったという。現地、アイルランドのコメディアンではなく。
デロリアン社は、マレーにとって重要な仕事先だった。多くの従業員も同様だろう。マレーの妻は、DMC-12のシートを製造していたそうだ。
デロリアン社へ対する献身的な気持ちは今も変わらない。今でも彼は、かなりの量のカタログや写真、記念品や資料を収集している。デロリアン・プロジェクトに対する強い思いと、失敗に終わった悲しみもが伝わってきた。
後編では、開発に関わったロータスのCEOを務めていた人物と、デロリアン社の従業員から話を聞いてみたい。
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みんなのコメント
クルマのデロリアンの話ではなかった。(だから、実車が出てきたのは最後だけ。)