8月30日~9月1日、2024年MotoGP第12戦アラゴンGPが行われました。初日から路面の状況が悪く、スリッピーなコンディションを攻略したライダーが上位に入りました。それによりヨハン・ザルコが予選Q2に残り、スプリントではファビオ・クアルタラロがフランセスコ・バニャイアを抜き、決勝はマルク・マルケスがドゥカティで初優勝を飾りました。
そのほか、バニャイアとアレックス・マルケスの接触転倒もあり、物議を醸しました。また、中上貴晶は来季からホンダの開発ライダーとなることもレースウイーク前に発表されています。
特殊コースのタイヤ、KTMの新アイテム。低迷する日本メーカーに必要な作業/MotoGPの御意見番に聞くオーストリアGP
そんな2024年のMotoGPについて、1970年代からグランプリマシンや8耐マシンの開発に従事し、MotoGPの創世紀には技術規則の策定にも関わるなど多彩な経歴を持つ、“元MotoGP関係者”が語り尽くすコラム、2年目に突入して第37回目となります。
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--今回のレースは完全にマルク・マルケス選手のワンマンショーでしたね。全てのセッションをトップで通過し、スブリントと決勝レースでも圧倒的な差を付けての独走優勝でした。こういう結果になった要因として何が考えられますか?
日曜日のウォームアップ走行はアウトラップだけで終了だったから全てのセッションて訳じゃないけどね(笑)
要因については色々思いつくけれど、まずはシンプルにマルク・マルケス選手がこのコースを得意としていることが大きいかな。ほら基本的に左回りのコースはどういう訳か速いよね、ザクセンリンクとか……
後は再舗装したというトラックのコンディションが期待したほどではなかったというのがあるかもしれないね。
--確かに多くのライダーが初日からグリップ不足に困惑したようで、それが結果にも表れていましたよね。一番顕著だったのはドゥカティファクトリーのふたりだったように思います。でもグリップ不足はマルク・マルケス選手にとっても同じですよね。
これは推測の域でしか無いんだけれど、多くのライダーは想定外のグリップ不足という事態に直面して多少なりとも混乱したと思うんだよね。おそらくエンジン制御マップを変えたり、サスペンションをソフトに設定したりとか何かしらマシンを変更したと思うけれど、路面の状況は刻々と変わるしタイヤの選択も絡むと理解がいっそう難しくなるよね。
一方マルク・マルケス選手は昨年のザクセンリンクのFPでもウエットでトップだったし、基本的に滑りやすい路面で速く走る技術に長けていると言えるんじゃないかな。その証拠に「少しグリップは低かったので、他の選手は苦労してたみたいだね」とか言っていたようだし。
ウエットではめっぽう速いけれどドライでは大したことないというライダーがたまにいるけれど、彼の場合はドライでももちろんめっぽう速いので、ライダー自身の適応レンジが広いというアドバンテージが発揮されたという事だと思うよ。無暗にマシンをいじらず、自分の操縦技術で路面の変化に適応していったというのが勝因じゃないかな。
--なるほど、路面改修したのでグリップが高いはず、という思い込みが多くのライダーの混乱を招いたという事ですね。アプリリアはプラクティスでファクトリーのふたりが2、3番手を占めトラックハウスのふたりが8、9番手と初日好発進でした。しかし翌日の予選Q2ではファクトリーとトラックハウスの結果が逆転してしまいましたね。それも1秒以上の大差が付いていたのは理解に苦しみます。
まあこれも憶測でしか無いんだけど、土曜日も金曜日と同じような感じで前夜の雨で路面がリセットされてしまいFP2はFP1と同じように低グリップになってしまったんじゃないかな。恐らくファクトリーのふたりはプラクティスで好結果だったセッティングでFPを走った結果、「全然あかんやん! 昨日のフィーリングはどこ行った?」となって午後のQ2に備えてまた少しマシンのセッティングを変えた可能性はあるね。
対してトラックハウスのふたりはマシンをそんなにいじっていないと思うね。常にふたりのタイムが揃っていて、路面状態の改善分だけQ2でタイムが向上しているところからそんな感じがみてとれるんだよ。
レースではミゲール・オリベイラ選手が早々にリタイアして、その後中盤でマーベリック・ビニャーレス選手もリタイアしているから何とも言い難いんだけど、全く予選順位に見合わない結果でちょっと不思議な展開ではあったよね。
--話は変わりますが、スプリントと決勝レースのスタートではフランセスコ・バニャイア選手が大きくリヤを滑らせてヒヤッとしました。その結果順位を落としてその後もペースが上がらず苦戦していましたが、あれは何かマシンに問題があったのでしょうか?
ビデオを見直してみると全く同じようにスピンしてスライドしているので、バニャイア選手にしては珍しく学習効果が発揮されていない感じでちょっと驚いたよ。
最近のシステムの事はよく知らないけれど、ローンチコントロールが走行中より許容スリップ率を大きめに設定しているのかもしれないね。スプリントも決勝レースもドライコンディションだったけれど、どちらも午前中はウエットだったからその影響でグリッド付近の路面はグリップが低かったのかも。
それとバニャイア選手がイン側は不利なので早くアウト側に進路変更したいという気持ちが強くて、無意識にステアリング操作に力が入ってしまったとも考えられるね。いずれにせよ、バニャイア選手らしくないミスと言わざるを得ないね。
--らしくないと言えば、レース後半でアレックス・マルケス選手を抜こうとした際にラインが交錯してふたりともクラッシュしてしまいました。レーシングインシデントとしてお咎めなしという事らしいですが、今後のチャンピオンシップの行方を左右しかねない後味の悪い出来事でしたね。
あれは残念ながらバニャイア選手のミスと言っていいんじゃないかな。
レース後半でアレックス・マルケス選手を追い詰めていたので、抜くのは時間の問題かと思ったけれど、アレックス・マルケス選手が頑張ってペースアップしたので少しイラついていたのかな。あのラップはアレックス・マルケス選手もかなり無理していたから、あのコーナーではアウトに膨らむのが予想できたはず。
いつものバニャイア選手はインから抜くケースが多いんだけれど、今回はアウトから強引にかぶせてしまった結果の接触だね。
--確かに仕掛けるのはもう少し様子を見てからでも良かったような気がしますね。やはり焦っていたのかな、いつものバニャイア選手らしくない感じでしたね。
まあ色々事情はあったと思うけれど、FP1の21位は衝撃的だったよね。それでも公式予選で3位までなんとか持ち直したのはさすがだったけれど、タイム的にトップから0.8秒差という昨今珍しいほどの大差だった。その上、スプリントではスタート失敗から今まで滅多に絡む事が無かったファビオ・クアルタラロ選手に競り負けるという異常事態だからね。メンタル的にはさすがのバニャイア選手もかなり参っていたんだろうね。
アレックス・マルケス選手を猛追した結果、自分のタイヤも限界に来ていて、早めに勝負を仕掛けるしかなかったのかも知れないけれど、やはり現チャンピオンとしてのプライドが邪魔したのかもね。
--たしかに今回のマルク・マルケス選手はともかくとして、弟にまで負けるというのは現チャンピオンとして受け入れ難かったんでしょうね、分かりますその気持ち。ところでペドロ・アコスタ選手が久々に表彰台に戻って来ましたね。オーストリアでは散々な目に会いましたが、今回はプラクティスで少し出遅れたもののQ1を勝ち抜けてQ2ではマルク・マルケス選手に次ぐ2位とどんどん調子を上げて行きました。
スプリントと決勝レースの両方で3位と獲得ポイント的には前半戦のアメリカGPに次ぐ好結果だったね。個人的な見解なんだけど、この成績の波は才能ある新人が受けるべき通過儀礼のような気がするね。最初は新しい環境、新しいマシンに慣れようと必死に学習し適応しようと頑張る。
それである程度結果が付いてくると、今度は更に欲が出てマシンを自分に合わせる事に没頭する。ファクトリーマシンはそれが出来る環境にあるからね。
で、情報過多で自分を見失ってしまっていた結果、成績が低迷していた事にはたと気が付いて初心に帰り、マシンも原点回帰した結果として結果が上向く。彼の現在地はそんなところじゃないのかな(笑)。
--ホンダのヨハン・ザルコ選手がプラクティスで10位と久々のダイレクトQ2進出を果たしました。スプリントでは1ラップ目にクラッシュと残念な結果でしたが決勝レースでは14位、中上貴晶選手12位、ジョアン・ミル選手15位と3名がポイントを獲得しました。ホンダのマシン開発が着々と進んでいると見るべきなのでしょうか?
ザルコ選手が公式予選で10位というのは、マルク・マルケス選手同様に滑りやすい路面での適応能力が優れているという事が言えると思う。そうは言っても3人が揃ってポイント獲得圏内でフィニッシュしたのはポルトガルGP以来だから明るい兆しではあると思うね。
ただね、ルカ・マリーニ選手にいまだに上向く気配が見られないのが個人的には一番の気がかりなんだよね。
--一方のヤマハのクアルタラロ選手は期待外れに終わった前回のオーストリアGPを下回る出だしでした。ところがスプリントでは好スタートを決めて最後はバニャイア選手に競り勝って8位となりました。
調子が悪かったとはいえ、現チャンピオンに競り勝っての8位は低迷するヤマハにとっては明るいニュースだったと言えるね。でも決勝レースでは序盤に呆気なく単独転倒というのがなんとも悲しい、スプリントで調子が良かっただけにプッシュしたんだろうね。
唯一の救いはアレックス・リンス選手が上位陣の脱落があったとはいえレースを9位でフィニッシュした事かな。いずれにせよこんなレベルで喜んでいてイカンのだけどね。
--クアルタラロ選手のマシンには今回からリヤアームにエアロパーツが取り付けられていましたが、あれの狙いはどんなところにあるのでしょうか?
ミサノのプライベートテストで良いアイテムがあったというのがアレなのかな。
オーストリアGPでポル・エスパルガロ選手のマシンにもリアヤームにエアロパーツが装着されていたね。狙いとしてはKTM機同様に整流効果と若干のダウンフォース付加が狙いかな。
時期的にはあれを見てインスパイアされたという訳でもなさそうだね。ただ、リンス選手は使用していないし、むしろエキゾーストパイプがロングタイプに戻っているのが気になったね。
--最後になりますが、来季のライダー体制がやっと固まりましたね。Moto2からはふたりのアジア人ライダーが昇格します。日本人の小椋藍選手は来季ホンダのテストライダーに就任する中上選手の後任と見られていましたが、アプリリアに移籍が決定し、中上選手の後任はタイ人のチャントラ選手が起用されることになりました。
うん、いいんじゃないかな。中上選手にとってはやや不完全燃焼的なところはあるかもしれないけれど、テストライダーしての責任は重大だよね。来季は日本でテストした物を海外に持ち込んでアレイシ・エスパルガロ選手とテストする訳だから、意見の対立もあったりと大変だとは思うけど頑張って欲しいね。
小椋藍選手の事は正直良く知らないけれど、移籍先のトラックハウスは良い選択だったと思うよ。マネージャーのダビデ・ブリビオは日本人との付き合いが長いし、穏やかな性格でとても面倒見が良いから彼の事を大事にしてくれるんじゃないかな。
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