元F1王者キミ・ライコネンの“復帰参戦”で話題を呼んでいる2023年のNASCARカップシリーズ第6戦『エコパーク・オートモーティブ・グランプリ』にて、最高峰ストックカーによる元F1チャンピオン同士の対決が実現。2009年のF1王者であるジェンソン・バトンが、リック・ウェア・レーシングのフォード・マスタング15号車をドライブすることが決定し、昨季の同プログラム実績に従ってスチュワート・ハース・レーシングがバトンのマーケティングとプロモーションのサポートを提供する。
今月末の3月24~26日に、テキサス州のCOTAことサーキット・オブ・ジ・アメリカズで開催されるシーズン最初のロード戦にて、F1通算306戦15勝を記録するイギリス出身のF1ワールドチャンピオンが、自身初のNASCARカップシリーズ参戦を果たす。
キミ・ライコネンがカムバック。F1で優勝経験もあるCOTAで昨季同様トラックハウスからNASCAR参戦へ
「僕がF1に長く留まることができたのは、そのキャリアを通じてつねに学んでいると感じていたからさ」と語った現在43歳のバトン。
「F1の現役当時、テクノロジーに関してはいつも何か新しい発見があった。そのおかげでドライビングやエンジニアリングのスキルを向上させることができたんだ。でもF1で17年目を迎えたとき、その欲求が少しなくなったように感じた。そこにはもう、新しく学ぶべきことは何もなかったんだ。でも……ここは明らかに違うよね!」と続けたバトン。
F1引退後は、日本にも活躍の場を求めてスーパーGTのGT500クラスに参戦し、2018年にはホンダ陣営のNSX-GTでシリーズチャンピオンを獲得。同じくル・マン24時間へのチャレンジと並行し、北米ではラリークロスのテストに加えて、ラスベガスで開催される恒例の『ミント400』や、世界的な名声を博す『バハ1000』など、オフロードのビッグイベントにも挑戦してきた。
さらに北米の『ナイトロ・ラリークロス(NitroRX)』では、同郷のオリバー・ベネット率いるエキサイト・エナジー・レーシングから初参戦を果たすと、今季のWEC世界耐久選手権に向けては、名門ヘンドリック・モータースポーツ(HMS)の『ガレージ56』プロジェクトにも参画。ル・マン24時間向けに仕立てられたNext-Gen車両ベースの改造版シボレー・カマロZL1をドライブする計画だ。
「明らかに、カップカーでのレースは僕が慣れ親しんだものとは大きく異なる」と続けたバトン。「パワーが低く基本的なダウンフォースがないうえ、(過去に経験してきた車両に対し)はるかに重くなっている。スロットルをブリップする必要のあるシーケンシャルギヤボックスを載せているし、非常に短い時間で学ぶべきことがたくさんあるんだ」
「だからこそ、僕はこの新しい挑戦にワクワクしている。何かに没頭するとき、僕は100%そこに入って全集中する。同時に、僕は一度限りの楽しみのためにそれをやっているんじゃない。いつだって競争力を持ちたいと願っているんだ。そして競争力を持つには、少し時間が掛かることも知っている。だからこそ、今季のカップ戦で3つのレースを戦う計画が非常に重要なんだ」
その言葉どおり、バトンはCOTAでのNASCARデビューを皮切りに、今季初開催のシカゴ市街地コースでの1戦と、伝統のインディアナポリスでのロード戦にもエントリーする。
■ガレージ56シボレー初走行時の驚きを語るバトン
「どんな状況でもコース上にいる他の人たちと同じように、クルマを最大限に活用できることを理解し、コクピットのなかで快適に過ごしたい」と、デビュー戦の地COTAでは5回のF1出走を経験するバトン。
「結果は結果であり、何が起こるか見ていきたいと思うけれど、好きなだけ遅くブレーキをかけ、高速コーナーでスピードを維持し、接近してレースできるようになる自信をつけたいんだ。僕もパックの中で“ホイール・トゥ・ホイール”の勝負ができるようにね!」
今回の挑戦でサポートを提供するスチュワート・ハース・レーシングの共同オーナーであり、言わずと知れた“レジェンド”として自身も多彩ぶりを発揮するトニー・スチュワートは、ドライバーとして未知の世界に対するバトンの試みを賞賛する。
「新しいレースの分野を試すことはつねに挑戦であり、自分自身にこうした新しい機会をもたらすことができる最善の方法は、いつだって心を開いていることだ」と続けたスチュワート。
「ジェンソンはキャリア全体でそうしてきた。F1マシンは毎年進化しており、ジェンソンはいつもそれに適応する方法を見つけてきたんだ。そしてF1を離れたとき、彼はスポーツカーに飛び乗り、別のチャンピオンを獲得した。オフロードでさえ豊富な経験を持つ彼が、レースカーで経験していないことはほとんどないね。ジェンソンにとってNASCARは初めてだが、レースは初めてではない。これは我々全員にとって楽しいものになるだろう。これを実現してくれたモービル1には非常に感謝している」
そのイギリス出身F1王者が本戦でドライブするNext-Gen車両は、バトン自身もHMSのプロジェクトを通じて構造や特性に精通する段階までラップを重ねており、すでにセブリング、デイトナ、COTAでガレージ56用シボレーを走らせている。
「ガレージ56のクルマに初めて飛び乗ったときは『これは一体、どうした!?』と思ったほどさ。それほど、このクルマはまったく違うものだった。それが最初の4周ほど続いたよ(笑)」と明かしたバトン。
「それから『ちょっと待って、これは当然レースカーなんだ。路面に触れるタイヤは4本だし、機械式のレースカーで学習には本当に適している』ってね。僕はこの挑戦を本当に楽しんでいるし、カップカーはダウンフォースが少なくて重いけれど、あのガレージ56のマシンがその方向性とともに、どのようになるかを教えてくれたんだ。これは非常に役立ちそうだよ」
10年ほど前のパドックでは、どの関係者にも「NASCARドライバーはサーキットを走り回ることができない」との固定観念が存在していたが、バトンは「彼らはそうではないと示し、それができることを証明した」とも続ける。
「僕自身、最初のレースでは予選で最前線に立つことを期待されていないし、勝利のために戦うことも期待されていないと知っている。カップシリーズでレースをしているドライバーたちには、とても敬意を払っている。オーバルコースでもロードコースでも、そこにはたくさんの才能があるんだ」と、今回のCOTAではライコネンを筆頭に、2020年カップ王者チェイス・エリオット(ヘンドリック・モータースポーツ/シボレー・カマロ)の代役として起用されるジョーダン・テイラーらとも、同じ立場で対峙するバトン。
「最近、元F1ドライバーがストックカーに乗るたびに、最初は苦労する(笑)。彼らがスピードを出すには時間が掛かるし、すぐに最前線に立つことは期待できないんだ。だからこそ、僕にとって複数のレースを戦うことが本当に重要であり、自分自身とクルマを最大限に活用することができるはずさ!」
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