戦争やモデルチェンジを越えて愛されてきた名車
同じクルマが長期間に渡って販売され続けることは珍しくない。しかし、クルマの名称は世代を越えて引き継がれていくため、場合によっては半世紀も変わらないことがある。
今回は、40年以上同じ車名を使い続けている世界のクルマを30台紹介する。ただし、「クラス」や「シリーズ」という単語を含む車名は対象外とした(実際に与えられる正式名称とは異なるため)。また、フォルクスワーゲン・ビートルは第1世代には正式名称がなかったため、今回は取り上げていない。
シトロエン2CV:1949~1990年(41年間)
シトロエン2CVは、エンジン排気量が375ccから602ccに徐々に大きくなるなど、一部のディテールを除けば、生産開始から終了までほとんど変わらなかった。1930年代後半に設計されたため、本来ならもっと長寿だったかもしれないが、第二次世界大戦の勃発によって導入が遅れた。
2CVファミリーにはアミ、ディアーヌ、メアリなどがあるが、オリジナルモデルが一番の長寿だった。
ランドローバー:1948~1990年(42年間)
ランドローバーとは、もともとローバーが販売していた特定のモデルの車名だった(複数のタイプがある)。しかし、ディスカバリーの登場によって少々ややこしいことになった。
1990年、経営陣はオリジナルモデルを「ディフェンダー」と呼ぶことに決めた。そのためランドローバーは車名ではなくブランド名となり、現在に至る。
フィアット・パンダ:1980年~現在(43年間)
どちらも小型であるということ以外に、現代のパンダと1980年に登場した初代モデルとの間にはほとんど接点がない。とはいえ、パンダはフィアットが得意とするタイプのクルマである。初代モデルは1981年の欧州カー・オブ・ザ・イヤーでフォード・エスコートに惜しくも敗れたものの、2003年まで生産され続けた。
2代目はあまりパッとしなかったが、8年間生産された。3代目は2011年に登場した。
フォルクスワーゲン・ジェッタ:1979年~現在(44年間)
ほとんどの市場において、ジェッタという名称はフォルクスワーゲン・ゴルフ(3代目と4代目を除く)のセダンタイプの派生モデルに使われてきた。ヴェントやボーラといった呼び方もあるが、中国ではジェッタの名で長年親しまれてきた。
そして中国では知名度の高さから、2019年にブランド名に起用されたが、その他の地域では車名として残されている。
フォード・サンダーバード:1955~97年、2002~2005年(計45年)
シトロエン2CVがほぼ変わらずに生産されている間、フォードは全10世代にわたりサンダーバードを販売している。世代交代が進むに連れて徐々にスポーツカーのルーツから遠ざかっていき、2002年に11代目(初代以外では唯一4人乗りではなく2人乗り)が登場したが売れ行きは芳しくなく、わずか3年で生産終了となった。
一般的なメーカーからすると、45年も同じ車名を使い続けたというのは大記録に見えるかもしれない。しかし、後述するようにフォードは少なくとも6回以上この記録を破っている。
ホンダ・アコード:1976年~現在(47年)
ホンダが世界に誇る高級セダン、アコード。グローバルに展開し、北米市場などでは販売ランキング上位の常連である。
アコードは日本だけでなく、1982年後半から米オハイオ州にあるメリーランド工場でも生産されている。7代目(現在までに11代続く)では、ホンダがこれまで敬遠してきたディーゼルエンジンを初めて搭載したが、これは欧州での販売力を維持するための苦渋の決断であった。
フォードF-150:1975年~現在(48年)
フォードFシリーズは1948年から生産され続け、現在14代目にあたる。しかし、Fシリーズは総称であり、個々のモデルを指す車名ではない。
中でも多く販売されてきたのはF-150だ。このようなネーミング方式は「ヘビーハーフトン」と呼ばれる特定サイズのピックアップトラックを示すために(ハイフンなしのF150として)1975年に導入されたが、現在ではすべてのFシリーズに適用されている。2013年以降、年間販売台数は70万台を超えている。
三菱ギャラン:1969~2015年(46年間)
あえて言うなら、ギャランの生産は1969年に始まり、2012年に廃止されるまで43年間続いた。
ただし、ギャランの “正規” 廃止後の5年間、日本など一部市場ではランサーがギャラン・フォルティスといった名称で販売された。ギャラン・フォルティスは2015年、海外仕様のギャランは2017年に生産終了した。
フォルクスワーゲン・ゴルフ:1974年~現在(49年間)
複数のメーカーがハッチバックの車名を時折変更する中、フォルクスワーゲンは半世紀近くゴルフを守り続けた。ラビットという名称も使われてきたし、セダンモデルはまた別の名で呼ばれているが、ゴルフは1974年から健在だ。
ゴルフは、欧州カー・オブ・ザ・イヤーを2度受賞している。同様の賞歴を持つのは他にルノー・クリオのみ。
フォード・タウヌス:1939~42年、1948~94年(49年間)
旧ドイツ・フォードは1939年、フォード・アイフェルの派生モデルにタウヌスの名を使い始めた。1970年以降のタウヌスは、英国でコルチナとして販売されたクルマと同じものだった。
コルチナは1980年代初頭にシエラに道を譲ったが、タウヌスの生産はアルゼンチンで数年間続けられ、その後トルコのフォード・オトサンに切り替えられた。その意味では、コルチナ/タウヌスはモンデオの初期にも生産されていたため、実際にはシエラよりも長生きしたことになる。
シボレー・カマロ:1966~2002年、2009~現在(51年間)
カマロの名は57年前から存在するが、継続的に使用されてきたわけではない。2002年に4代で廃止され、その7年後に見た目はレトロだが中身は完全なる現代車として復活した。
カマロの生産期間は半世紀を超えたが、これ以上長くは続かないかもしれない。現行世代は2024年モデルで生産終了予定で、そこで幕引きとなる可能性がある。
三菱ランサー:1973年~現在(50年)
1973年にデビューした初代ランサーは、サファリやサザンクロスで何度も優勝するなどラリーカーとしての名声を獲得。ランサーの名はその後8世代にわたって使用された。
久しぶりにこの名を聞いたという人もいるかもしれないが、実は台湾で生き残っているのである。台湾市場ではグランドランサーとして、今も新車で購入できる。
フォルクスワーゲン・パサート:1973年~現在(50年間)
ゴルフはフォルクスワーゲンの水冷エンジンを搭載した初の前輪駆動車だが、その前には機械的によく似たK70(ほぼNSUの製品)とパサート(アウディ80のフォルクスワーゲン版)があった。
K70はもうほとんど忘れ去られているが、パサートは半世紀も続いている。フォルクスワーゲンの人気車種の中では、SUVを除いて最も大型のモデルだが、あまり人気のなかったフェートンよりは小さい。現在欧州で生産されているのはステーションワゴンのヴァリアントだけで、セダンは中国で生産されている。
ホンダ・シビック:1972年~現在(51年)
シビックは、短命に終わったホンダ1300の後継車としてスタートした。1300は、1960年代後半に小型ファミリーカーに空冷エンジン(当時すでに珍しくなっていた)を搭載するという挑戦的なモデルであったが、結果としては水冷エンジンに道を譲ることになった。
現在シビックは11代目となり、半世紀もの歴史を持つ。最近のモデルの最高出力は300psを超えるようになったが、このような数値はシビック誕生当初には誰も想像できなかっただろう。
モーガン・プラス4:1950~69年、1985~2000年、2005年~現在(52年)
モーガン・プラス4は72年の歴史を持つが、その間に2度、生産が中断されている。
初代モデルと現行モデルの外観は非常によく似ているが、中身には大きな発展が見られる。現在のプラス4はアルミニウム製プラットフォームをベースとし、エンジンは1950年の2.1L「スタンダード・ヴァンガード」ではなく、BMW製2.0Lツインターボを搭載している。
ランドローバー・レンジローバー:1970年~現在(53年)
レンジローバーの扱いは複雑だ。レンジローバーとは基本的にランドローバーのサブブランドであり、近年ではスポーツ、イヴォーク、ヴェラールに使われている。
しかし、1970年に初代が登場して以来、最上級モデルは常に「レンジローバー」と呼ばれてきた。そのため、レンジローバーは1つの車名でもあり、半世紀以上の歴史を持つものとして今回取り上げた。
トヨタ・ハイラックス:1968年~現在(55年)
ハイラックスという名称は「ハイ・ラグジュアリー(high luxury)」に由来し、1968年3月に初めて使用された。設計はトヨタが行ったが、開発と生産は日野自動車が担当している。トヨタは2001年、日野の株式の過半数を所有するようになった。
そのときすでにハイラックスはすでに6代目に突入していた。現行の8代目は2015年に発売され、2017年からは日本にも導入されている。
トヨタ・ハイエース:1967年~現在(56年)
ハイラックスと並ぶトヨタの代表的な商用車がハイエースだ。1967年10月、ピックアップトラックとワンボックススタイルで発売された。
ハイエースは多くの市場から姿を消してしまったが、日本では2004年発売の5代目が未だに販売され続けている。2019年に登場した6代目モデルはオーストラリア、メキシコ、東南アジアで販売されているが、日本ではグランエースと呼ばれている。
ヒンドゥスタン・アンバサダー:1958~2014年(56年間)
アンバサダーは、ヒンドゥスタン・モーターズがインドで製造したモーリス・オックスフォードの最後のモデルである。それまでのモデルはいずれも数年間しか生産されなかったが、アンバサダーは1958年から2014年まで、何度かアップデートを受けたものの、エクステリアデザインはほとんど変更されることなく販売され、インド市場での地位を確立した。
最終版はアンバサダー・アンコールと呼ばれ、その長寿ぶりが伺える。
フォード・ファルコン:1960~2016年(56年間)
フォード・ファルコンは北米では1970年代まで、アルゼンチンでは約31年間生産されている。他と比べると短いが、オーストラリアでは独自の進化を遂げた。
1960年から1971年まで、オーストラリア向けのファルコンは米国仕様とそれほど変わらない現地生産版に過ぎなかった。しかし、その後の世代ではオーストラリア独自のインプットが増えていき、本国を抜いて2016年まで生産が続けられた。もしフォードがオーストラリアでの自動車生産を終了し、他国から輸入するという決断をしなければ、もっと長生きしていたかもしれない。
トヨタ・カローラ:1966年~現在(57年間)
カローラの歴史は、1966年の初代の発表から始まった。一部の市場ではオーリスと呼ばれることもあったが、57年間、世界のどこかで常に新しいカローラがオーナーを待っていた。
トヨタは2021年、カローラの累計世界販売台数が5000万台に達したと発表している。現行のカローラは初代とはまるで違うクルマになったが、世界で最も売れた車名であることは議論の余地がない。
フォード・トランジット:1965年~現在(58年)
トランジットの名は、1950年代にドイツ・フォードが生産した商用バンに初めて与えられたが、正式名称はタウヌス・トランジットであったため、今回のカウントには含めていない。
しかし、そのタウヌス・トランジットを差し引いても、トランジットというクルマは58年にわたって生産され続けており、現在は4代目である。フォードはこの名称を相当気に入っているようで、フィエスタベースのトランジット・クーリエと、トランジット・コネクトという2つの小型バンにも与えている。
フォード・エスコート:1955~61年、1968~2003年、2015年~現在(59年)
フォードの初代エスコートは、スクワイアの廉価版であり、プリフェクトのステーションワゴン版であった。エスコートの名は一時的に使用されなくなったが、一連の欧州モデルで復活し、後に北米でも採用されるようになった。
21世紀初頭に一度生産終了したが、2015年にフォーカスをベースとして2度目の復活を遂げ、現在も中国で生産されている。
フォード・マスタング:1964年~現在(59年)
フォードが成功した車名に長くしがみつく習性があることは、もう明らかだろう。その最も極端な例がマスタングで、現在も同社の最長記録を更新し続けており、当分の間覆されることはなさそうだ。
マスタングの名は常にスポーツカーに与えられてきた。最近では電動クロスオーバーのマスタング・マッハEにも使用されているが、根本的には関係の薄いモデルである。本家のマスタングは2022年に7代目へと生まれ変わった。
ポルシェ911:1964年~現在(59年)
もしプジョーが、中央に「0」を含む数字3桁の車名をフランスで使用する唯一の権利を持っていると抗議しなかったら、我々はポルシェ901の長寿について語っていたかもしれない。
ポルシェは、同じクルマを国によって異なる名称で販売するのではなく、911に統一し、それ以来脈々と受け継いできた。ポルシェファンの間では世代名で呼ばれることもあるが(現行モデルは992)、正式名称は常に911である。
ミニ:1959年~現在(64年)
1959年に登場したBMCの画期的な小型車は、当初オースチン・セブンまたはモーリス・ミニ・マイナーとして販売された。セブンとマイナーはすぐにカタログから落ちたが、ミニの名は最終的に41年も使用されている。
その後すぐにBMWに引き継がれ、現在は大文字で「MINI」と表記されている。正式にはブランド名であり、コンバーチブル、クラブマン、クロスオーバーといった車種があるものの、ハッチバック(3ドア、5ドア)は単にミニ(MINI)と呼ばれているため、60年以上の歴史があると捉えていいだろう。
トヨタ・ランドクルーザー:1954年~現在(69年)
ランドクルーザーの原型は、BJと呼ばれるジープのような軍用車に遡る。BJは1951年に生産開始され、3年後の1954年からランドクルーザーの名称が採用され、現在に至る。
従って、クルマとしての歴史は72年と数えることができるが、ランドクルーザーという名称は69年となる。1984年に発売された70系は現在も発展途上国を中心に生産され、最近日本でも再再販が決定した。
シボレー・コルベット:1953年~現在(70年)
コルベットは、何世紀も昔から小型の軍艦を表す言葉として使われてきたが、シボレーで2番目に長く続いている車名でもある。コルベットは米ケンタッキー州ボーリンググリーンに専門の博物館が建てられるほど、過去70年にわたって成功を収めてきた。
7代目まではエンジン(通常は大排気量V8)をフロントに搭載してきたが、2020年モデルから導入された現行モデルは初めてミドシップとなり、伝統からの脱却を表している。
モーガン4/4:1936~39年、1946~50年、1955~2018年(73年)
本稿執筆時点で70年以上にわたって使用されている車名は3つしかないが、そのうちの1つがモーガンのものであることは、おそらく英国人にとって喜ばしいことだろう。初期の4/4(4シーター、4気筒エンジンを搭載していたことからこの名がついた)の生産は1930年代半ばに始まり、第二次世界大戦によって中断された。
1950年から1955年まで再度中断されたが、その後数世代にわたって生産され、累計で73年を数える。後継車の話は出ていないが、いずれ登場しても不思議はないだろう。
シボレー・サバーバン:1934年~現在(88年)
1934年に発売されたモデルの正式名称がキャリーオール・サバーバン(写真)であったため、2、3年の差を考慮したとしても、サバーバンが世界の自動車史において最も長く続いている車名であることは間違いない。1942年から1945年までは第二次世界大戦のため一般販売されていないが、軍用として製造が続けられた。
もともとは事実上のミニバンであったが、1960年に登場した5代目モデルでは四輪駆動が設定され、SUVへと変貌を遂げた。現在のサバーバンは、フルサイズSUVのシボレー・タホのロングホイールベース版である。また、同じゼネラルモーターズ傘下のGMCからはユーコンXLとして販売されている。
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