2022年のBTCCイギリス・ツーリングカー選手権シーズンは、9月末の前戦シルバーストン“ナショナル”で争われた第9戦の結果により、ランキング上位3名が7点差にひしめく混戦状態となり、そこまで選手権首位を守り抜きながらもランク4位に後退した“4冠王者”コリン・ターキントン(チームBMW/BMW 330e Mスポーツ)まで、都合4名にチャンピオン獲得の可能性が残された。
そのタイトル決定戦となる第10戦が、10月8~9日にブランズハッチ“GPサーキット”で争われ、予選ポールポジション獲得から2戦連続で勝利を飾ったトム・イングラム(ブリストル・ストリート・モータース・ウィズ・エクセラー8・TradePriceCars.com/ヒョンデi30ファストバック Nパフォーマンス)が、王者アシュリー・サットン(NAPAレーシングUK/フォード・フォーカスST)やジェイク・ヒル(MBモータースポーツ・パワード・バイ・ロキット/BMW 330e Mスポーツ)らを振り切り、自身初のBTCCシリーズチャンピオンに輝いた。
TGRカローラのブッチャーが2年連続ポールから完勝。BMW、ヒョンデも勝利で大混戦に/BTCC第9戦
前戦終了直後には、ふたたびポイントリーダーの座を奪還した王者サットンが「ブランズハッチは僕らのホームサーキット。苦手のシルバーストンで選手権首位奪還を果たせたし、最終戦を楽しみにしている」と語ったとおり、週末最初のプラクティスはフォード陣営が速さを見せ、僚友ダン・カミッシュ(NAPAレーシングUK/フォード・フォーカスST)の最速で幕を明けた。
しかし続くFP2ではトヨタ時代を含めた過去6年間で、欠かさずタイトル戦線の輪に加わって来たイングラムが奮起し、フォードからトップタイムを奪還。予選でもその勢いを維持した“シルバー・コレクター”は、従来のコースレコードを0.7秒も更新する神掛かったタイムで、今季最後のポールポジションを射止めた。
「今日のこのクルマのフィーリングがどれだけ良かったか、言葉では言い尽くせないし、もっとも近いところで思いつくネガティブ要素のヒントすらない。ラップを終えた後、僕は無線でチームの仲間に『いやいや、このクルマはエゲツないほど速い!』と伝えたほどさ」と、初戴冠を狙う29歳のイングラム。
一方、NAPAレーシングUKのふたりは、前戦シルバーストンで2年連続ポールポジションを獲得し、ポール・トゥ・ウインを飾った勢いを持ち込むロリー・ブッチャー(TOYOTA GAZOO Racing UK/トヨタ・カローラGRスポーツ)にも先行され、その要因を「グッドイヤータイヤの最初のセットを、最大限に活用できなかったから」だと明かした。
「最初のセットで、僕はダン(・カミッシュ)の後ろに隠れていて、あまりうまくシンクロすることができなかった。それで2セット目は単独アタックに切り替え、マシンが僕に与えてくれるものを待ち望んでいたんだ。残念ながら2列目3番手だが、スタートさえうまく行けばトムの横に並ぶことぐらいはできるはずさ」と、自身4度目の王座に向けタイトル防衛に挑むサットン。
ランキング2位のBMWヒルも5番グリッドに着けただけに「僕らは彼を頭の片隅に置かなければならないが、焦点はトムだ。彼のスタート次第だが、作戦はフルアタック。せめて(レース1では)2位をもぎ取ることだけ考えるよ」と、僚友カミッシュも含めた総動員での逆襲を誓った。
そんなタイトルコンテンダーの中にあって、名門WSRのエースは2戦連続で今季導入の共通ハイブリッド機構に悩まされ、予選では10番グリッドに留まる結果に終わり、実質的なタイトル挑戦はここで潰える展開に追い込まれた。
■「このタイトルにどれほど意味があるか、言葉では言い表せない」と新王者イングラム
「前回同様、苛立たしい1日だ。BMW自体は良いバランスだったのに、ふたたびハイブリッドの問題に悩まされ、2周目には故障してアシストなしでタイムを刻むことになった」と続けた前人未到、5度目の王座に挑んでいたターキントン。
「問題はセッション全体の流れの欠如だ。トラックにいるよりピットで過ごす時間が長く、最高の状態でトラックにいるのが恋しいよ。完全に制御できない要因で僕らの機会は奪われた。これ以上のことはできなかったよ」
こうして迎えた決勝日は、レース1から「最高のクルマを手にした」と語ったイングラムの言葉どおりの展開となり、都合2度のセーフティカー(SC)リスタートにも動じず、ヒョンデが首位のポジションを堅守する。
その一方で、2番手ブッチャーのトヨタにも挑戦できなかったサットンのフォードは、残り2周でヒルのBMWにも襲撃され4位に陥落。5位まで挽回して来たターキントンは抑え切ったものの、この結果ランキング上位の差は6点にまで縮まることに。
続くレース2でもポールシッターの勢いは止まらず、最初のふたつのコーナーで自身の古巣、トヨタ・カローラの挑戦を退けたイングラムは15周を走破。そのTGRカローラのわずかな隙を突いたヒルが2位、そして3位にはラスト2周でふたたび這い上がってきたターキントンの表彰台となり、4位にブッチャー、サットンは5位に甘んじるリザルトとなった。
これでヒルに対し11点のリードを築いたイングラムは、最後のリバースグリッド戦に挑むと、首位発進の僚友ダン・ロイド(ブリストル・ストリート・モータース・ウィズ・エクセラー8・TradePriceCars.com/ヒョンデi30ファストバック Nパフォーマンス)が、ジョシュ・クック(リッチエナジーBTCレーシング/FK8型ホンダ・シビック・タイプR)らに対し首位を維持する背後で、サットン、ヒルを相手にテール・トゥ・ノーズの追走劇でファンを沸かせることに。
決定的瞬間はファイナルラップに訪れ、サットンに対しパドックヒル・ベンドで最後の勝負に出たヒルの、さらにインサイドにマシンをねじ込んだイングラムが、BMWを出し抜いて5番手浮上に成功。今季3勝目の僚友ロイドと、インディペンデント王座を獲得した2位クック、そして週末2回目の表彰台を獲得したブッチャーに続き、4位サットンの背後でチェッカーを受けたイングラムが、待望のBTCCチャンピオンを手にする結果となった。
「僕はこの瞬間について、文字どおり人生全体で考えてきた。これが僕のやりたかったことで、勝ち獲りたかったのはまさにこれなんだ!」と、チェッカー後に初王座の喜びを爆発させたイングラム。
「このタイトルにどれほど意味があるか、言葉では言い表せないよ。レース中には誰かに助手席に来てもらい『大丈夫、落ち着いて!』って言って欲しかったし、無線では毎ラップ、周囲の情報やギャップ、その顔ぶれを伝え続けてもらった」
「なぜレース以外の他のことをするんだろう? 僕は世界で最高のチャンピオンシップに参加していて、僕らはすべてを犠牲にして人生を捧げてきた。5歳のときにオートスポーツ・インターナショナル・ショー(ASI)でマット・ニールに出会い、僕はBTCCと恋に落ちた。この先の数週間は(現実かを確かめるため)ずっと頬が痛いまんまだろうね(笑)」
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