英国ならキットカーとして購入も可能
text: Alan Taylor-Jones(アラン・テイラー-ジョーンズ)
translation:Kenji Nakajima(中嶋健治)
家の中から出られず、青い空と太陽を眺めている読者も多いはず。ひと目を気にせず思い切り運転したいと、ウズウズしているクルマ好きも少なくないだろう。
ネットショップで、プラモデルやレゴ・ブロックに手を出すのも悪くない。でも空いたガレージを持っていれば、英国ならキットカーを手に入れるという方法もある。ケーターハム・スーパーセブン1600だ。
英国ではケーターハムから、クルマのコンポーネント丸ごとを自宅へ送ってもらえる。375ポンド(5万円)を追加で払えば、必要なツールも送ってくれる。組み立てに要する時間は、通常80時間から100時間ほど。
自ら組み立てる自信がないのなら、2395ポンド(32万円)でケーターハムが組み立ててもくれる。クルマは登録済みとなり、すぐに乗れるカタチで最寄りのディーラーへ届けられる。
今回試乗するスーパーセブンをご紹介しよう。スズキ製3気筒を載せたスプリントとスーパースプリントに続いて登場した、レトロをテーマにしたケーターハム・セブンだ。
ベースとするのは、4気筒の270と呼ばれるモデル。フロントタイヤを隠すのはサイクルフェンダーではなく、トラディショナルなフレアタイプ。レトロ感を強めるため、スペアタイヤをリアに背負っている。価格は通常の270より、わずかに上乗せとなる。
ツイン・スロットルボディには、K&N社製のエアフィルターを装備。元気な吸気ノイズが耳に届く。
レトロ感を漂わせるレザーシートは黒が標準。他の色はオプションで選べる。ウッドリムのモトリタ製ステアリングホイールも、オプションではある。
これほど情報量の多いスポーツカーはない
シャシーのサイズは2種類。標準のものと、SVバージョンと呼ばれる、ひと回り長く広いタイプ。背の高いドライバーへ、若干の余裕を与えてくれる。
自然吸気1.6Lのフォード・シグマ・エンジンはわずかにチューニングが入り、136psを6800rpmで発生。0-96km/h加速は5.0秒と素早い。スーパースプリントに積まれた抑揚の少ないスズキ製の3気筒ターボより、操る楽しさでははるかに上だ。
ボンネットの中に収まるツイン・スロットルボディのエンジンは、低回転域でのアクセルレスポンスの柔らかい感触が、レトロな体験にぴったり。5速MTはストロークが短く、機械的な質感が味わえる。
アクセル操作でエンジンの回転数は鮮明に高まり、リミッターまで一気に吹け上がる。吸気ノイズを徐々に大きく響かせながら。
ステアリングやブレーキにはパワーアシストがつかない。満足感のある走りを楽しむには、ドライバーにも準備と心づもりが求められるタイプだ。
かなりクイックなステアリングは、手のひらへ路面の細かな状況を刻々と伝えてくれる。コーナリング時はフロントタイヤのグリップ状況も、すべてが掴める。どのクラスの、どの価格帯のクルマでも、これほどの情報量を持つスポーツカーはない。
もちろん、スーパーセブンはアルピーヌA110ほど安楽ではない。高速域で耐えるための筋力は不要でも、低速域での操舵には筋力が必要。
ブレーキは普通の減速時なら、強い力を必要としない。しかし本域で攻め込んでいる時は、強く蹴飛ばさなければならない。現代のクルマのように、ABSやトラクション・コントロールはない。
必要以上に恐れず、運転を楽しめばいい
必要以上の緊張はいらない。少なくとも路面が乾燥していれば、細身のタイヤはしっかりグリップしてくれる。かなりプッシュしなければ、グリップの限界は迎えない。
コーナリング中にアクセルを深く踏み込みすぎても、テールスライドの挙動は掴みやすい。恐れなくて大丈夫。低い着座姿勢で楽しめば良い。
ボディロールはほとんどない。サスペンション・ストロークはかなり短いが、舗装の荒れた郊外の道でも、充分な柔軟性がある。メーカーによれば車重は540kgと軽量だから、ほかのクルマには真似できない鋭さで向きを変える。
快適性は見てのとおり。オプションのサイドガラスを装備しても、頭部の風の巻き込みは小さくない。オプションのファブリック・ルーフを装備しても、隙間風が入ってくる。風切り音も大きい。
高速道路を110km/hで走行すれば、エンジンの叫び声に重なり、タイヤのロードノイズが届く。車内での会話は楽しめない。耳栓をした方が良いかもしれない。リラックスして走りたいのなら、マツダMX-5(ロードスター)を選ぼう。
試乗車のシャシーは標準サイズだが、一回り大きいSVサイズを選んでも、実用的になるわけではない。クルマへの乗り降りすら簡単ではない。ルーフを外せば楽になるが、閉じたたままでは難しい。身長にもよるけれど。
スーパーセブンの車内は居心地が良いとはいえないだろう。SV版でも。シートは長時間座っていても平気だし、ボディサイドの囲まれ感も少ないが、間違いなく小さくて狭い。
背の低いドライバーには、シートの前方へのスライド量が不足気味。位置調整自体にも、かなりの力がいる。
ドライバーを陶酔させ満たしてくれる
2000ポンド(27万円)のオプションとなるベージュ色のレザーは見栄えが良いが、装備は必要最低限。メーターパネルはなく、ウインカーはトグルスイッチ。ライトやワイパーなど、すべてがスイッチ。1970年代のままといった感じだ。
インフォテイメント・システムもない。ラジオすらない。
荷室はシート後ろにある、ビニールカバーがされた小さなボックスだけ。プレススタッドを外して、カバーを開ける。布製のカバンなら2個入るかもしれないが、ルーフをしまうと余地はさほど残らない。
事故を避けるには、ドライバー自らのスキルが何より求められる。事故にあった場合、ドライバーを守ってくれる装備はほとんどない。どんなスポーツカーの基準で見ても、うるさく、実用性に欠け、安全性も乏しい。
ケーターハム・スーパーセブンを購入するのに、分別のある理由はいらない。スポーツカーの運転を全身で楽しみ、強く体感するために買うクルマだ。すべての弱点とリスク、可能性を理解したうえで。
多くのドライバーにとって、マツダMX-5(ロードスター)の方が、選択肢としては適している。スピードや生々しさで及ばなくても、より手頃な価格で、楽しいドライブが味わえる。しかも、人間の乗り物らしい安全性と快適性が付いてくる。
マシンと完全に一体となり、息を合わせながらドライブしたい、熱烈なエンスージアストの選択肢がケーターハム・スーパーセブン1600。ドライバーを陶酔させ、満たしてくれる、ほかに類を見ないスポーツカーだ。
ケーターハム・スーパーセブン1600(英国仕様)のスペック
価格:3万9665ポンド(535万円)
全長:3180mm
全幅:1575mm
全高:1090mm
最高速度:196km/h
0-100km/h加速:5.0秒
燃費:-
CO2排出量:-
乾燥重量:540kg
パワートレイン:直列4気筒1595cc
使用燃料:ガソリン
最高出力:136ps/6800rpm
最大トルク:16.8kg-m/4100rpm
ギアボックス:5速マニュアル
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