2023年から、WEC世界耐久選手権とIMSAウェザーテック・スポーツカー選手権の双方においてポルシェのワークスチームとしてポルシェ963を走らせているポルシェ・ペンスキー・モータースポーツ。WEC専用のファクトリーはドイツのマンハイムに置かれ、これまで秘密のベールに包まれてきたが、このほど報道陣への公開が行われ、その内部が露わとなった。
フランクフルト国際空港から南に約80kmのところに位置するこのファクトリーは、ホッケンハイムリンクへは約20km(20分)と至近なうえ、シュトゥットゥガルト近郊のヴァイザッハにあるポルシェ・モータースポーツまでも約100km(約1時間強)と、ポルシェ関係者らの往来という面でもアクセスが非常によい。また、設備の面でも最新・最良のものが備えられている。
華やか、かつ緻密。ポルシェ・ペンスキーの最新ファクトリーに特別潜入
ポルシェでLMDhファクトリーモータースポーツ・ディレクターを務めるウルス・クラトルは、このファクトリーの存在意義を次のように説明する。
「特にドライバーにとっては、ある意味WECにおける実家のような存在なのではないだろうか。レースで実際にマシンを動かしているチームのあるファクトリーへ来て、疑問に思ったことやトラブルについてなど、エンジニアやメカニックらとレースウイーク以外に直接じっくりと話し合いができる」
「WECはル・マンを代表とする欧州ラウンドも多いし、テストでも欧州内を多く移動する必要があるだけに、車両やパーツをしっかり保管、メンテナンスする場所があるということは、チームにとっても、我々ポルシェにとっても、非常に重要な存在であることは間違いない」
ペンスキーはハイパーカークラスへの参戦に備えるため、2022年のWEC序盤3戦にLMP2車両でエントリーしたが、当時は「ここが完成するまで、家がない状態」だったとクラトルは説明する。
「家族がバラバラになっていたような感じだった。レースが終わった後にはマシンやパーツ類はもちろんのこと、このWECに携わるポルシェ・ペンスキー・モータースポーツのすべての人々に『帰る家』があり、次のレースへの準備を整える場所があるのとないのとでは、大きな違いだ」
6号車ポルシェ963をドライブし、2024年開幕戦のカタール1812kmで優勝を飾ったアンドレ・ロッテラーも、ドライバーの立場からこのマンハイムの拠点の意義を説く。
「ペンスキーのWECのチームはまだ誕生して浅く、チーム全員が一緒にいる場所があるということは、それだけで充分な意味がある。さまざまなセクションに関わる人々の作業場所があり、ピットストップ練習をする場所があるというのもレースの要となるポイントでもある。このファクトリーがあるおかげで、ピットストップの速度も精度もかなり上がっている」とロッテラー。
「そしてドライバーを『いつでもどうぞ』と迎えてくれるベースがあるのは非常にありがたいし、レースがない期間にこのファクトリーでドライバーとチームが共に過ごす時間は多く、メカニックやエンジニアと直接ディスカッションできるのは大きな利点だと思う。もちろんオンラインで会議することもあるけれど、直接顔を合わせて話すのとは大きな違いだ」
先ごろのフォーミュラE東京大会には、TVレポーターとして来日していたロッテラー。ワールドワイドに移動する機会の多い彼らトップドライバーにとっても、マンハイムのアクセスの良さは利点となっているようだ。
「フランクフルト空港~マンハイム~ヴァイザッハ間はどれもあまり離れていないので、僕はヴァイザッハのシミュレーター・セッションとマンハイムのファクトリー訪問をセットにしていることが多い。フランクフルト空港で降り、レンタカーを借りて走ってくれば、とても便利だ」
「ハイパーカークラスのチームの中でも、これほどの設備を持ったベースを持っているのは、ポルシェ・ペンスキー・モータースポーツ以外はさほど多くないのではと自負している。拠点がきちんとあるおかげで、シーズンオフに車両や機材、パーツを整備や準備をしっかりできるし、何度も確認を繰り返せるので、実際にサーキットで作業する場合の意志疎通もスムーズになり、レースでのミスが減っているんだ」
■ル・マン優勝は『究極の証明』。自身4度目の制覇を目指す
かつてはアウディのLMP1マシンをドライブし、2011年、2012年、2014年とル・マンを3度制しているロッテラー。今年43歳を迎える彼は、当然ながら自身4度目のル・マン総合優勝を、ポルシェのマシンでつかみとることを目標に据えている。
「ル・マンでは誰もがその頂点に立ち、歴史の1ページを刻みたいと強く思いながら挑むものだ。将来的にその勝利が意味するものは何なのか、ル・マンで勝つということが今日どんな意味を持つのか、未来のル・マンは一体どうなっているのか──。自動車メーカーにとっても、ドライバーにとっても、その勝利はさまざまな意味を持つし、さまざまな思いが込められているのは間違いない」とロッテラー。
「僕は幸運にも何度かル・マンのポディウムの頂点に立つ事ができた。チームとともにそれを成し遂げ、あのポディウムの頂点に立つことが意味するものは『究極の証明』だと思う」
「もちろん勝つまでのプロセスも大切だし、WECのシリーズチャンピオンを獲得するということも大切だ。だけど、ル・マン24時間レースで頂点に立つことは、WECのシリーズ戦の何よりも難しいし、何よりも大きな意味と価値があることは誰もが知っている。ポルシェが挑み続けた精神、そして過去の大会を飾った数々の勝利を再び僕らの手で……そう強く願いながら今年も挑んでいるし、それは一番の目標だよ」
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