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4949ccか5752ccか フォード・マスタング ボス302とマッハ1 規制前夜のポニーカー 前編

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4949ccか5752ccか フォード・マスタング ボス302とマッハ1 規制前夜のポニーカー 前編

ワイルドな魅力へ徐々に惹き込まれる

やはり場違いだった。グレートブリテン島のカーブが続く狭い道で、1970年式マスタング・ボス302を運転していると、ストレスが溜まってしまう。もっとも、それはクルマのせいではない。これ以上に完璧なマッスルカーは限られるだろう。

【画像】4949ccか5752ccか マスタング・ボス302とマッハ1 シボレー・カマロ 現行モデルも 全138枚

お腹の底で共鳴するサウンドを体感していると、壮大な自動車映画のワンシーンが蘇ってくる。年齢によって「ブリット」かもしれないし、「60セカンズ」かもしれない。とはいえ、どちらも牧歌的なノース・ヨークシャー州が舞台の作品ではなかった。

前を走る初代マスタング・マッハ1のテールでは、純正オプションだった大きなリアスポイラーが風を切る。筆者がドライブするボス302も、前後をシャープなスポイラーで武装している。

ロックファンなら、ドアーズのボーカル、ジム・モリソン氏がマスタング GT500を愛したことをご存知かもしれない。このクルマのBGMに「月光のドライヴ」はピッタリだと思うが、理想的には広大な乾燥地帯を突っ走っていたい。

そんな葛藤のなかで、ワイルドな魅力へ徐々に惹き込まれていく。ゴツいハーストのシフターを握り、押し込むように次のギアを選ぶ。右足へ力を込めると、通称シェーカー・スクープと呼ばれる、ボンネットを貫くエアインテークが大きく揺れる。

V8エンジンの轟音が周囲を満たし、ボス302があざ笑うように猛然とダッシュする。洗練された印象ではないが、クルマ好きなら夢中になること請け合いだ。

レース・ホモロゲーション仕様だったボス302

マスタング・ボス302が発売されたのは1969年。今回のクルマのモデルイヤーは1970年式になる。1968年式の390GTや、マイナーチェンジ後のアイコニックな1971年式マッハ1の間に提供された。

これら初代マスタングが現役だった、1960年代後半から1970年代前半は、デトロイトのV8エンジンは自由だった。規制前の夢のような時代といえた。

筆者の前方を走る初代のマッハ1も、ボス302と同時期に作られた。クリーブランド・ユニットと呼ばれる、フォード製の351cu.in、5752cc V8エンジンを搭載している。両車は基本設計を共有するが、ドライビング体験は大きく異なる点が面白い。

その違いを生んだ理由が、ボス302はレース・ホモロゲーション仕様だったのに対し、マッハ1は幅広いドライバーを対象にした特別仕様だったこと。V8エンジンも、ボス302は302cu.in、4949ccと、ひと回り小さい。

1964年に初代マスタングが発売されると、北米では熱狂的な支持を集めた。それに刺激を受けたゼネラル・モーターズ(GM)は、1967年にシボレー・カマロをリリース。フォードは激しい巻き返しを受けた。

1968年には、カマロ Z/28がトランザム・ロードレース・シリーズで優勝。モータースポーツ活動をマーケティングへ結びつけていたフォードにとって、喜べない結果だった。そこで、競争力を高めるべく開発されたのがボス302だ。

カマロ Z/28のように、スポーツカー・クラブ・オブ・アメリカの規定に則り、排気量は305cu.in(4998cc)以下に設定。公道を走れる市販モデルも、一定数生産する必要があった。

ナンバー付きのレーシングカーといえた

1969年、ニュージャージー州の工場で仕上げられたボス302は、ナンバー付きレーシングカーといってよかった。特にV8エンジンは専用開発で、同時期のマスタングでは排気量が小さめながら、性能は大幅に引き上げられていた。

5800rpmで達した最高出力は294ps。最大トルクは4300rpmで40.0kg-mに届いた。

エンジンブロックは軽量化のために肉薄で、フロントノーズへ掛かる負荷を減らした。シリンダーヘッドは、後のマッハ1にも搭載される、クリーブランド351ユニット用。バルブが排気量としては大径で、ハイパワー化へ一役買った。

トランスミッションは、フォードの通称トップローダーという4速マニュアルが、今回の例には組まれている。オプションのリミテッドスリップ・デフも備わる。

操縦性も磨かれていた。同社の主任シャシー技術者だったマット・ドナー氏は車高を落とし、専用のフロント・ブレーキディスクを与えた。アンチロールバーは通常より太く、ダンパーの取り付け剛性も高められた。

ボス302では、スタイリングの差別化も重要だった。それを任されたのは、GMから移籍したデザイナーのラリー・シノダ氏だ。

クロームメッキのボディトリムを変更し、ランボルギーニ・ミウラにも似た、大きなフロントスポイラーとリアウイングで引き締めた。リアウインドウには、スポーツスラッツと呼ばれるブラインドもオプションで装備できた。

アルミホイールは、専用のマグナム500。15インチで幅が7Jと当時としてはワイドで、存在感のある容姿を完成させた。

1970年のトランザム・シリーズで総合優勝

シノダは、この特別なマスタングへ名前を与えた人物だといわれている。彼をフォードへヘッドハンティングした、社長のシーモン・バンキー・クヌッセン氏へ敬意を表し、「ボス」と名付けられたようだ。

かくして、ホモロゲーション・マスタングのボス302は、発表当初から印象的な評価を残した。自動車雑誌のカー・アンド・ドライバーは、次のように紹介している。

「ボス302は、ディアボーンで生産されるフォード車で、間違いなく最も操縦性が素晴らしい。デトロイトで作られるクルマの、新基準を作ったといえるかもしれません」

数字上の性能も誇らしいものだった。0-97km/h加速を6.9秒でこなし、0-400mダッシュは14.6秒。0-160km/hも、約15秒で処理した。

ところが、当初はトランザム・シリーズでの活躍が振るわなかった。クルマの仕上がりは悪くなかったものの、ピットクルーの仕事が足を引っ張った。期待の掛かった1969年シリーズは、GMが優勝をさらっている。

これを受けフォードはチーム体制を見直し、ボス302は本領を発揮。1970年シーズンは、総合優勝を掴み取っている。

他方で、販売は当初から好調。1970年にマスタングは19万1522台も売れているが、そのうちの7013台はボス302が占めた。価格は3720ドルで、訴求力は高かった。

オプションは多彩で、リアスポイラーは20ドル、タコメーターは65ドル、ハイバック・バケットシートは84.25ドル、リミテッドスリップ・デフは13ドルで指定できた。最も高価だったオプションは、AM/FMラジオ。214ドルしたという。

この続きは後編にて。

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