F1は今、真の黄金時代を迎えている。世界中からF1への関心がかつてないほど高まっているのだ。
すべてのグランプリが満員になった。最近では、2024年メキシコGPの主催者が、来年10月27日に行われるグランプリのチケットが完売したことを発表した。
メルセデスF1&ウォルフ代表、FIAの名誉棄損的行動への法的措置を検討。スージーは「扇動者を突き止める」と怒り
F1史上初めて、すべてのチームの経済状況が健全になり、その価値が何倍にも高まっている。自動車メーカーの新規参入も決まり、アウディとフォードは2026年からF1活動を行い、キャデラックも参戦を目指している。
一方で、国際自動車連盟FIAと、10のチームが支持するF1団体フォーミュラワン・マネジメント(FOM)の間に、壊滅的な内戦が起こり得る兆しが見えている。
■FIAとFOMの立場の違い
FIAは原則としてF1世界選手権の所有権を有しているが、100年契約で商業権をFOMに貸与している。最初にFIAからその権利を借り受けたのは、バーニー・エクレストンだった。彼は後にリース契約をキャピタルファンドCVCに売却し、そのボスの座に就いた。2016年にCVCはアメリカのリバティ・メディアに権利を売却、リバディ・メディアはすぐさまエクレストンと袂を分かち、チェイス・キャリーを起用した。2020年にフェラーリの元チーム代表ステファノ・ドメニカリがキャリーの後を引き継ぎ、現在リバティ・メディアのためにF1の運営を行っている。
世界で最も金がかかるスポーツといわれるF1では、商業権は非常に重要であり、FIAはそれほど大きな権限を持っていない。
エクレストンはしばしばF1の組織を劇場に例えた。それを今のF1に当てはめると、役割分担は次のようになる。FIAは劇場の建物を所有しているが、それをFOMに貸し出している。FOMはビッグスター(F1チームとそのドライバー)と協力して、ショーを行い、財政的なリスクを負う。
しかし現在FIA会長を務めるモハメド・ビン・スライエムは、劇場の運営に干渉し始めていると、FOMは感じている。そのためにFOMと10のチームが、自分たち専用の劇場を持った方がよいのではないかと考え始めることが懸念されているのだ。
もしもそうなれば、劇場オーナーのビン・スライエムは、スターが出演したがらない、出し物のない建物を抱える危険性がある。彼には、それほど有名でない“俳優”が出演する小規模なショーを開催することはできるが、大きな収入を得る機会は失われるだろう。F1からの収入はFIAの財政にとって極めて重要だ。
■FIA会長の行動に不信を深めるF1側
FOMがビン・スライエム会長にうんざりしている理由はいくつかある。彼は2021年に新会長に選出され、当初は協力関係はうまくいっていた。しかし、最初は控えめだったビン・スライエム会長が、今年に入って、何度かFOMの経営陣を苛立たせる行動を取った。
1月に、イギリスの新聞『タイムズ』が、ビン・スライエムの個人ウェブサイトの文章をいくつか掘り起こして引用したことから、問題が持ち上がった。その文章のひとつ「自分が男性より賢いと思っている女性を、私は好きではない。なぜなら彼女たちはそうではないからだ」は、実際には20年も前のものだったが、それでも不快に聞こえる。ただこれは、小さな危機であり、すぐに忘れ去られた。
しかし、リバティ・メディアに対し、F1の商業権に200億ドル(約2兆8000億円)以上のオファーがなされたと報じられた際に、事態は悪化した。ビン・スライエム会長が、その報道に対して「暴騰した価格への懸念」を示すコメントをSMSで発信したためだ。
FOM、そしてリバティ・メディアと同社の株主たちは、当然ながら、権利にできるだけ高い評価がつくことを望んでいる。FOMの弁護士は、ビン・スライエムに対し、強い言葉をつづった書簡を送り、FIAと会長は財務問題に干渉すべきでなく、会長の発言がリバティ・メディアの評価を傷つけた場合、連盟は責任を問われる可能性があると通達した。
FOMと10チームは、FIA会長が新チームに対してF1への扉を開いた時にも、彼に対して激怒した。既存チーム側は、もしひとつかふたつ、新たなチームが参入し、F1の収益における分け前を受け取ることになれば、現在の財政的に健全な時代が危機に瀕する可能性があると考えている。FIAはアンドレッティ・グローバルの申請を許可したが、アンドレッティはFOMと交渉して承認を得る必要がある。
■「F1にFIAは必要か?」
シーズン全体を通じて、F1側が不満を抱く出来事は他にもあった。
カタールGP決勝で、ルイス・ハミルトンはマシンが走行中にコースを横断し、戒告を受けたが、その後、FIAはその件について再調査を行った。ラスベガスでの記者会見で、フレデリック・バスールとトト・ウォルフが「不適切な言葉」(それはギュンター・シュタイナーの好きな単語だった)を使ったとして、警告を受けた。ほとんどの人々は、これらは不運な出来事で、処罰は必要ないという考えだった。
ビン・スライエムが70歳の南アフリカ出身の元ジャーナリスト、ディーター・レンケンを個人アドバイザーとして雇い入れた後、最近、彼をFIAと10チームの交渉の責任者に任命したことも、驚きを持って受け取られた。レンケンは、F1関係者から尊敬を受けているとはいえず、一部の人々は彼の就任に不信感を持っている。新しいコンコルド協定(FIA、FOM、10チームの間の基本契約)の交渉が始まれば、レンケンの起用がビン・スライエム会長にとってプラスになるかマイナスになるのかがはっきりするだろう。
FIA対、FOMと10チームの間の緊張関係を示す出来事は、シーズン終了後にも起こった。FIAが評判のよくない雑誌の報道をもとにして、ウォルフ夫妻に不正の疑いをかけたのだ。イギリスの雑誌『Business F1』は、メルセデスのトト・ウォルフ代表が、妻でありF1アカデミーの責任者スージー・ウォルフを通して、FOMの内部情報を手に入れている可能性について、複数のF1チーム代表たち(名前は伏せられていた)が不満を抱いていると伝えた。
F1関係者で『Business F1』の記事を真剣に受け止める者は少ない。ところがFIAは、この問題を調査するという声明を発表した。当然のことながら、ウォルフ夫妻は憤慨して反論、他の全9チームがこれを支持した。その直後にFIAは調査は終了したと発表。これもまた、FIAおよび会長と、FOMと10チームとの間の溝を深める、不必要で恥ずべき出来事だった。これにより、ますます多くの人々が、「F1にFIAは必要なのか」という疑問を持つことになったのだった。
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