コンパクトなスポーツカーの方程式
text:Simon Charlesworth(サイモン・チャールズワース)
photo:Will Williams(ウィル・ウイリアムズ)
translation:Kenji Nakajima(中嶋健治)
すべてが濃密で、運転の喜びを直接感じることのできる、理想的なスポーツカー。それは実用性や定員、快適性、洗練性、あるいは雨風を凌ぐという機能ですら、最低限が確保できれば充分という、ストイックな考え方にも展開しえる。
ホンダS800とフィアット・スポーツ・スパイダー、MGミジェットというコンパクトな3台も、その流れに沿うだろう。法定速度内でのドライブを濃密にする、最小のボディとエンジンを備えつつ、誰しもが運転を楽しめる。
シンプルこそ美徳という、レス・イズ・モアで成り立っている3台は、限られた馬力を最大限に活用することで、ドライバーへ至福の時間を味わわせてくれる。スピード違反というリスクを犯すことなく。
このコンパクトなスポーツカーという方程式を、うまく活用できた国は限られる。方程式自体を発案したといえるのは英国。イタリアはその方程式を展開し、洗練性を加えた。
1960年代までは、この2カ国のクルマが花形だった。ジミ・ヘンドリックスが鮮烈なデビューを果たしたように、新しいスポーツカーが日本からやって来るまでは。
ホンダから発表されたクルマには、常識にとらわれない発想が盛り込まれていた。同時に、第二次大戦後の苦しい名残りも見られた。
小さなボディに、高回転型1.0Lユニットをマウント。だがラダーフレームのシャシーを採用し、チェーン駆動という方式をとっていた。
本田宗一郎が生み出したS800
ホンダS800のオリジナルは、1962年に発表されたS360。本田宗一郎が、日本市場向けに考案した小型車のプロトタイプだ。宗一郎はエンジニアへ、S360に競争力を持たせるように指示。若い人が欲しいと思えるクルマを目指した。
プロトタイプは量産に至らなかったが、日本市場向けとしてS500へと進化する。S360には、T360トラック用の356cc 4気筒エンジンが選ばれていたが、S500が積むのは44psの531cc4気筒だった。
1964年になるとS600が登場。オープンボディに加えて固定ルーフのクーペも追加された。エンジンは57psを発生する606ccへと拡大している。
このS600は大量生産され、左ハンドル市場へ輸出される初のホンダ車となった。1966年には、71psを発生する791cc4気筒エンジンを搭載したS800が登場。1967年に英国での販売が始まっている。
1968年には、よりクリーンで安全なS800Mが登場。北米市場を意識したクルマだったが、最終的にアメリカ大陸への上陸はかなっていない。
大排気量エンジンを積んだガスイーターを愛した北米の人たちは、小さなホンダは環境に悪いと主張したようだ。不思議な話だが。S800Mの生産は1970年に終了している。
今回登場願った、ライトブルーのホンダS800は1967年式。ニール・バーバーがレストアをしたクルマで、あちこちにミジェットからのヒントを見て取れると話す。コレクションの中でも特にお気に入りの1台となっている。
ホンダを高回転域まで回す楽しみ
ひと回り車内は小さいものの、ややオフセットしたドライビング・ポジションと、スカットルシェイクのわずかな振動は、MGオーナーならお馴染みの内容。一方でS800のドライビング体験は、存在感の強いエンジンが中心となる。
レブカウンターは1万1000rpmまで切ってある。クルマ好きなら、ニヤリと頬を緩めるに違いない。走り始める。初めのうちは、ギアのメカニカルノイズに、カムのカチカチというノイズが重なる。
4速MTのシフトレバーは小さいが正確。トグルスイッチを弾くように、変速が決まる。クラッチを踏む際は、アクセルをしっかり離しておかないといけない。
回転域の中心より下のあたりに、若干フラットな領域がある。だがツインカム・ヘッドとクワッド・キャブレターのおかげで、鋭さをすぐに取り戻し、2速で5000rpmまで回すと56km/hに届く。
低回転域ではロータリーエンジンのように荒々しく、小悪魔のよう。レブカウンターの針を9000rpm目指してアクセルを踏み込めば、急襲戦闘機のようなけたたましい高音を響かせる。
ホンダは5速目がない。いや、いらない。高回転域まで回す楽しみが削がれてしまう。折角の興奮が薄れてしまう。
バイクがシフトアップする間際のような、鋭いサウンドを響かせるホンダ。その響きは、英国人も魅了することになった。
ブレーキはシャープで良く効くが、フィーリングはイマイチ。ステアリングのように。コーナーへ侵入しスロットルを戻すと、弾けるようなオーバーラン・ノイズが放たれる。
ベルトーネ・デザインの850スポーツ
乗り心地は良い。幅の狭いS800はコーナーでわずかにロールするが、巻き込むように旋回し、フロントが僅かに浮き上がる程度。
動的な性能は悪くはないものの、シャシーの主な仕事は、エンジンの個性を引き出すこと。今回の3台では最小の排気量から、最大のパワーを引き出すためにある。
一方のイタリアでは、自動車チューナーとコーチビルダーが、メーカーの作ったクルマを素材に良い仕事を展開していた。スポーツカーの輸出に目が向けられていたフィアットも、その事には気づいていた。
アバルトやシアタ、モレッティといった多くの企業が、フィアットをベースに新しいボディを装着したり運動性能を高め、オリジナルモデルを生み出していた。生産台数は限られていたけれど。
そんな中で、1965年に誕生したフィアット850スポーツのベースとなったのは、プロジェクト100G。1955年のフィアット600から、850へと進化したモデルで、シムカ1000へ対抗する目的で設計された。
フィアット850にはサルーンのほか、ムルティプラの後継モデルとして1ボックスのファミリアーレも存在した。このれらの850はフィアット社内での設計・製造だったのに対し、843ccの小さなクーペとスパイダーは、ベルトーネ社によって設計から製造までが行われている。
今回のスパイダーは、英国からの特別注文でのみ購入できたことも特徴。艷やかなボディは、リアエンジンのレイアウトを、最大に活かしていることがわかる。
イタリア流のドライビング・ポジション
低いフロント部分はエレガントなラインを描き、今回のトリオの中では最も際立つ美しさ。クリーンなボディは1968年以降、わずかに手が加えられてしまったが、ヘッドライトは大きくなり位置が見直されている。
同時にエンジンは52psを発生する903ccへと変更。シングルのツインチョーク・キャブレターと、オーバーヘッド・バルブを採用している。
ティム・ミルズの黄色いフィアット・スポーツ・スパイダーは1973年式。フィアットX1/9と並行して製造された、北米市場向けのシリーズIIIとなる。製造期間はモデル末期の数ヶ月と短い。
30年ほど前にレストアを受け、フロントブレーキはアップグレード。背もたれの高いX1/9用のシートと、124スパイダー用のアルミホイールを履いている。クルマは日常的に乗っているという。
だいぶ手の入ったスパイダーだが、3台の中でも特徴的なスタイリングは変わらない。運転姿勢はイタリア流で、ペダルレイアウトは狭く、助手席側へ大きく右にオフセットしている。
ウッドパネルの張られたダッシュボードは、フロントエンジンのモデルとは異なる洗練性を醸している。ステアリングホイールは膝に触れそうだ。
スポーツ・スパイダーのステアリングは、ホンダよりもシャープでクイック。切り込む途中の不自然な変化もなく、ロックトゥロックまで一貫した感触がある。ボール・ナット式で、ラック・アンド・ピニオンのような情報量はない。
ボディロールは最小限。フロントに重量物がないから、路面の起伏や隆起部分でわずかに跳ねる。
この続きは後編にて。
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