女性ドライバーだけのガチンコレースとして、近年注目度が上昇中のKYOJO CUP。そんなKYOJO CUP出場ドライバーの素顔を探るべく、2024年シリーズ第2大会前の富士スピードウェイにて、全日本スーパーフォーミュラ選手権に参戦する坪井翔(VANTELIN TEAM TOM’S)の妻としても知られる斎藤愛未(#17 Team M 岡部自動車 D.D.R VITA)に、自身のルーツや夫である坪井との出会いなどを聞いた。
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一度目指した警察官からレーサーへ。沖縄のカート場育ちで原動力は”感謝の心”【KYOJO CUPインタビューVol.1/翁長実希】
⎯⎯まずは5月に行われたKYOJO CUP第1戦の感想について教えてください。
斎藤愛未(以下、斎藤):結果は悔しい2位でした。今年はチームMさんに移籍させていただき、はじめての開幕戦になりました。どんな結果が出るかなと未知数な部分はあったのですが、開幕戦ではしっかりとポールポジションを獲ることができました。決勝は最終ラップに抜かれてしまいましたけど、それまではすごく流れが良かったので、開幕戦として上出来とは言わないですけど、できる限りのことはしたのかなという感じでした。
いままでは自分自身がドライバーとして行うことが多く、走りに少し集中しづらい部分がありました。ですが、今年は三浦(愛)監督がしっかりサポートして下さっているので、安心してレースに臨めるという部分が大きく違うかなと思っています。
⎯⎯KYOJO CUPの他のカテゴリーと比べての難しさ、面白さを感じている部分を教えて下さい。
斎藤:私はKYOJO CUP以外の四輪カテゴリーに参戦したことがなくて、他のカテゴリーと比べることができません。難しさというものがあまり分からないのですけど、楽しい部分はたくさんあります。KYOJO CUPは女の子たちだけなので、女子校みたいな感じで和気あいあいと楽しくレースをできることは良い部分だなと思っています。また、みんな協調性がすごくあり、そういった面では女性が集まるスポーツだな、ということは率直に感じていますね。
プロドライバーが集まるカテゴリーだと、レースだけをしている人が多いのですけど、私たちKYOJO CUPに参戦している女性ドライバーたちは、いろいろな経緯でこの場に来た人がたくさんいます。なので、そういった話を聞くことも、かなり刺激的だなと思います。
⎯⎯職業のお話が少し出ましたが、レースのない日はどのようなお仕事をしているのですか?
斎藤:パートで働いています。やはりレースはお金がかかるので、しっかりと自分で稼ぎ、レースの費用は自分で払いたいです。なので、その部分は主人(坪井)に甘えず、平日は働いています。仕事はレースとはまったく関係ない受付で、時給で選びました。
⎯⎯ご自身のモータースポーツのルーツについて教えてください。レースを始めたきっかけ、そして職業として関わりたいと思ったタイミングはいつだったのでしょうか?
斎藤:一番最初に取り組んだモータースポーツはレーシングカートです。私が5歳のときに母が遊園地と間違えて(笑)、キッズカートに乗ることができる中井インターサーキットに連れて行かれて『せっかく来たんだから乗ってみたら』みたいな感じで乗ることになりました(笑)。もっとメリーゴーランドなどに乗る姿を想像していたのに『ゴーカートは怖そうだな』と思ったのですが、いざカートに乗ったらすごく楽しくて、やめられなくなりました。
職業としてやっていきたいなと思ったのはKYOJO CUPに出場したのがきっかけです。KYOJO CUPに参戦したことで窓口がすごく広がったといいますか、職業としてもやっていけるスポーツなのだと知ることができました。また、主人のことも見ていたので、そのことも大きく関係はしています。レーシングドライバーとして食べていけるのは、ほんのひと握りです。ですが、5歳からずっとやってきたことですし、死ぬまでずっとレースで食べていけたらいいなと思ったのは、主人とKYOJO CUPがきっかけですね。
⎯⎯レースが大好きということがよく分かりました。では、斎藤選手はレースのどういった部分に引き付けられたのでしょうか?
斎藤:自分の走りが満足できることは、プロでもあまりないと思います。つねに速く走るために日々考えて走っていると思うので、そういった面では『見えないものを追っている』ことと同じです。ですが、私は前の自分をどんどんと追い越せていくような感覚、どんどんと速くなれる実感がすごく楽しいです。あとはレースでポールポジションを獲得したり、優勝したとき、周りも喜んでくれるあの雰囲気がすごく嬉しいです。
⎯⎯レース“観戦”はされるのでしょうか?
斎藤:子どものころはF1しか見たことがありませんでしたけど、主人が参戦しているレースを見るようになったことがきっかけで、いろいろなレースを見るようになりました。もともと、私(のレースキャリア)はカートで終わりだと思っていました。でも、主人やカートのときに一緒に走行していた人が四輪にステップアップしていく姿を見て、そこで初めてスーパーGTやスーパーフォーミュラなどを知りました。
⎯⎯ちなみに夫である坪井選手と出会ったのはいつごろなのでしょうか?
斎藤:出会いは、小学校5年生のときに同じレースに出場したのがきっかけです。そこからはレースで交わることはなかったのですが、一緒に戦った仲間なので、友情はずっとありましたね。
⎯⎯斎藤選手のお母さんが間違えて遊園地ではなくサーキットに行ったことが、将来の職業と旦那まで決めたということですね。
斎藤:そうですね。全然(レースを)知らなくて分からなかった人間が、ちょっとしたきっかけで人生が変わってしまいました(笑)。その母もよく分かっていないのですが、すごく喜んでくれています。
■女性のレース参戦で課題となる“瞬発的な筋肉”。憧れのドライバーは夫ではない?
⎯⎯憧れのドライバーをお聞きしたいのですが、やはり旦那様になるのでしょうか?
斎藤:いや、私は憧れのドライバーを作ってないといいますか、あえて見ないようにしています。『誰にでも挑める』という気持ちでレースをやっているので、つねに戦闘態勢です(笑)。もちろん主人のドライビングを見て学ぶこともありますし、尊敬する部分もたくさんあります。でもあえて言うと“憧れ”ではないです!(笑)
⎯⎯そうなのですね(笑)。では、自分自身のドライバーとしての長所、そして課題と思う部分を教えてください。
斎藤:長所は、バトルにおいて頭をよく使えると思うことと、ひとりで走行すると速く走れるところです。短所は細かい部分になってしまうのですが、クルマを旋回させる、向きを変える最初のきっかけの作り方があまり得意ではありません。それが今の課題で、三浦監督にも「そこを直しなさい」と言われてるので、一生懸命努力中です。
⎯⎯ドライビングに関して、夫の坪井選手には相談はしないのですか?
斎藤:相談することもありますが、やはり“天才的な部分”があります。教える言葉が少し難しくて理解できないので、そういった意味では三浦監督がすごく噛み砕いて教えてくれるので、ある意味で頼りにしてるのは三浦監督です(苦笑)。
⎯⎯KYOJO CUPを含めて、年々レースに参加する女性が増えています。女性がレースに参戦することの難しい点、そしてメリットと思われる点を教えていただけますか?
斎藤:やはり体力面ですね。あとは圧倒的に男性が多い職業なので、そのなかでいちばんになることは大変です。でも、男性のなかでもいちばんにならないとプロになることができないのが現状だと思っているので、その部分は同じくシビアな世界なのかなと思っています。最近は女性を応援する世界的な試みが増えてきているので、注目度は男性より多いと思っています。実際にYouTubeの再生回数は、インタープロトシリーズよりKYOJO CUPが多くなってきていて、そういった面では女性のほうが注目されやすいのはメリットだと私は思っています。
⎯⎯体力面で難しい部分をもう少し具体的に教えていただけますか?
斎藤:体力面の課題というのは、瞬発的な筋肉のことだと思います。男性と体格が異なる分、もちろん筋肉の大きさが違うので、いざというときに難しい部分があるのではないかなと個人的に思っています。男性と戦い、男性よりも速く走りたいという気持ちはありますけど、体力面の課題は事実です。なので、その部分はしっかりと受け止め、自分のできることをやっていこうかなと思っています。
⎯⎯今季の目標はもちろん、KYOJO CUPのチャンピオン獲得だと思いますが、その先について、どういったドライバーになりたいというビジョンはありますか?
斎藤:スーパーGT GT300クラスで走りたいという夢がいちばんにあります。でも、それと同じくらいこのKYOJO CUP、女性のカテゴリーを育てていきたいという気持ちも大きくあるので、そのふたつが“2大目標”です。
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このインタビューの直後、スーパーフォーミュラと併催となったKYOJO CUP第2戦で初優勝を飾り、翌日の第3戦も連勝を飾った斎藤。同じ週末には夫の坪井もスーパーフォーミュラで4年ぶりの優勝を飾り、前代未聞の“夫婦優勝”を飾ることになった。さらに斎藤は8月18日のKYOJO CUP第4戦もポール・トゥ・ウインで制し、ランキング2位との点差をさらに広げた。果たしてこのままランキングトップを守り続けることができるのだろうか。斎藤、そして夫の坪井とともに、今年は夫婦での成績が楽しみになりそうだ。
⚫︎Profile
斎藤愛未(さいとう・あいみ)神奈川県出身、8月18日生まれ。
2020年からKYOJO CUPに参戦し、2022年、2023年においてはシリーズランキング3位を獲得している。今季2024年シーズンからTeam M 岡部自動車 D.D.R VITAにチームを移籍し、第2戦、第3戦、第4戦を制して3連勝を成し遂げている。第4戦終了時点でのポイントランキングは1位。
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