小松礼雄は、ハースF1のチーム代表に就任して最初のシーズン、最初のレースをまもなく迎える。
その小松新代表はバーレーンGPの際に取材に応じ、今の想い、そして彼が目指す”リーダー像”について語った。
■ハースF1に嬉しい驚き。レース重視も開幕戦でいきなり予選Q3進出。ヒュルケンベルグ「決勝が勝負……でも昨年より良い状況」
チームの創設以来代表を務めてきたギュンター・シュタイナーの後任として、今年の1月からハースを率いることになった小松。日本国籍のチームを除けば、日本人がF1チームの代表に就任するのは初めてのことである。
今年から日本GPは4月開催。そんな母国GPにチーム代表として挑むことをどう考えているかと尋ねると、小松代表は「忙しすぎて、まだ考える余裕がない」と明かした。
「日本GPに行くのは、間違いなく楽しみですよ」
「でもあまりにも忙しすぎて、チーム代表として日本に戻るということを、きちんと考える時間がないんです。おそらく95歳かそのくらいになって、その時僕がまだ生きていれば、そういうことを振り返ることができると思います」
「でも、新しい役職に就いて日本GPに行くのを楽しみにしています。すごくです。こういう機会をいただけたことにとても感謝していますから、とても楽しみです。でも、今は忙しすぎるんで、あまり考えられていないんです……」
チーム代表に就任して以来、小松はできるだけ多くのメンバーと話すように務め、現在に至っているという。
「1月10日に代表に就任した直後に、イタリアに行きたかったんです。でも、その前にイギリスで過ごす必要がありました」
「その後の数日は、全員に話しかけるようにしました。そして同時に、できるだけ多くのマネージャーや主要な人物と1対1で話をし、正直なフィードバックを得て、そこから感じ取るように務めました」
「その後でイタリアに行ったんですが、まったく同じことをしました。両方のことができるように、1日を組み立てたんです。全員で同じ認識を共有するために、グループで話すことも必要でした。そして同時にひとりひとりと話をして、仕事をする上で何が難しいことなのか、そして私が何をする必要があるのかを理解し、お互いのことも理解するために努力する必要があります」
「でも正直に言って、働き方について誰かを説得する必要がなかったというのは、素晴らしいことでした。なぜならコミュニケーションであれ、エンジニアリングであれ、トラックサイドであれ空力であれ、我々が経験してきたモノは、本質的には全て同じだったんです。我々はみんな、満足していませんでした。そして皆が同じモノを望んでいたんです」
「そのことは本当に良かったですし、ポジティブなことでした。『こうやってやらなきゃいけない』『そうだね、でもさぁ……』ということになっていたら、説得する必要があるわけですから、かなりのエネルギーを消耗することになってしまいます。でもそうじゃなかったんです。『これをいい機会にしよう』『そうだね。その通りだ。そうやらなきゃいけないね』という話し合いができたので、とてもポジティブでした」
小松新代表は、チームのメンバーと話をすることで様々な理解を進めることができたと明かす。
「調べれば調べるほど、改善できる点がどんどん出てくるんですよ」
そう小松新代表は言う。
「以前は特定の部分について理解していましたが、一部は推測する必要がありました。今では実態が分かったので、状況をより正確に評価して、先に進むことができます」
「僕は本当にたくさんの人を頼りにしています。だから、最初の日から常にこう言ってきました。『僕はあなたの代わりにあなたの仕事をするつもりはない。それではうまくいかない。皆さんには才能がある。自分が何をしているのか知っているはずだ。そのための環境を提供するために、僕が何をしなければいけないのか、それを教えて欲しい』ということです。その点については、全員が同じ認識を持っていると思います」
■細かい指示はしない。スタッフを信頼している
小松新代表はエンジニア出身。そのため、何か特定のエンジニアリング面の話にのみ深入りしないように務めているという。
「それについては意識しています」
「例えばテスト中は、特定のコミュニケーションに巻き込まれないようにする必要がありました。彼らが、何か特定の決定について、僕に相談してくるのはとても自然なことです。ガレージにいる時は特にです。でも僕は、彼らに対してこう言っていました。『いや、それは誰々のところに行って話をするべきだ』というようなことです」
「僕は一方では、数歩下がってバックグラウンドにいなければいけないんです。それを意識していないと、特定の決定を下す必要がある時に正しい決定を下すことができません。しかし、毎日特定の部分の決定を僕が下すべきではないです。皆がそういう決断を下せると僕は信頼していますし、彼らは自分たちのレベルを高めていっていますから。素晴らしいことです」
小松新代表は、自分のことをどんなリーダーだと考えているのか? そう尋ねると、彼は次のように語った。
「どんなリーダーかって? 僕は模範を示して、チームを引っ張っていきたいと思います」
「でも繰り返しですが、僕らがチームとして何をしているか、それを明確にするだけです。そして皆とうまくコミュニケーションを取れるようにしたいと思っています。このチームが何であるのか、3年後、5年後、そして今シーズンこのチームで何をするかということを、皆に理解してもらうためです。そして10年後に向けたビジョンについての戦略を考え、そのためのコミュニケーションができるようになりたいと思っています」
「また、先ほども言った通り、僕は細かいマネジメントはしません。そういう意味で、皆に力を与えたいと思っています。人々を信頼し、適切な人材を適切な場所に配置し、彼らに力を与えるんです」
「僕は、こうするべきだと言うことはしません。僕が彼らに対して何をすべきか、それを僕に言う必要があるのは彼らなんです」
小松代表は、メディアにどう対応する必要があるのかということについても重要視していると明かす。
「一貫性を保つ上でも、それは重要なことです。チームのスタッフも、報道を読んでいますからね」
「僕がインターネット上の記事で言っていることと、社内に対して言っていることが別だった場合、混乱を招く可能性がありますからね」
「一貫性があるというのは、重要なことだと思います。トラックサイドではない人にとっては、それは特に重要なことです。ニコ(ヒュルケンベルグ)のコメント、ケビン(マグヌッセン)のコメント、そして僕のコメントを読んだ時、そのコメントの方向性が完全にバラバラだったら……と想像してみてください。それを読んだファクトリーの人たちは、『なんてことだ! 彼らは団結していない』と言うでしょうね」
「そういうことは事前に説明するわけではないんです。でも、スチュ(ハースのコミュニケーション責任者であるスチュワート・モリソン)が、あることをテストの時に送ってくれました。それを読んだ時、僕は『皆が同じことを言ってくれるのは嬉しいね』と思ったんです。そういうことは、我々が一丸となって進んでいるという自信を与えてくれます」
昨シーズン、ハースはコンストラクターズランキング最下位に終わった。そこからの復活、そして成長を遂げられるかは、小松新代表の両肩にかかっている。
小松礼雄の新たな1ページは、もう既に始まっている。
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世の中の管理職の皆さんも、見習ってみてはどうかな。