シーズンも残すは2戦。最終盤に突入した2023年のBTCCイギリス・ツーリングカー選手権の第9戦が9月22~24日にシルバーストンで開催され、予選では今季連続ポールポジション獲得記録を更新し続けた、好調NAPAレーシングUKことモーターベース・パフォーマンスを打ち破る伏兵が登場。これがルーキーシーズンでもあるマイキー・ドーブル(カーストア・パワーマックスド・レーシング/ヴォクスホール・アストラBTCC)が最速の地位を奪取し、タイトル戦線の強豪を打ち破る鮮烈なスピードを披露した。
しかし日曜レースデイはシーズンを牽引してきた“主役級”の一日となり、小雨によるタイヤチョイスの混沌も読み切ったジェイク・ヒル(レーザーツール・レーシング・ウィズ・MBモータースポーツ/BMW 330e Mスポーツ)がレース1を制し、この時点で逆転タイトルへの望みを繋ぐ勝利を収めることに。
今季5度目のポールからサットンが完勝。イングラムとTGRカローラのブッチャーも勝利/BTCC第8戦
続くレース2では元王者アシュリー・サットン(NAPAレーシングUK/フォード・フォーカスST)が23番グリッドから圧巻の巻き返しで今季10勝目に到達。最終ヒートのレース3は古豪ウエスト・サリー・レーシング(WSR)のエース、コリン・ターキントン(チームBMW/BMW 330e Mスポーツ)がリバースグリッドの漁夫の利も得て今季4勝目、BTCCにおけるBMWの記念すべき150回目の勝利を達成している。
チームとしては開幕以降の8戦中8度、そのうち元王者サットンが実に5回のポールを奪っている今季のフォード・フォーカスST軍団だが、チャンピオンシップに向けても過去にスバル・レヴォーグGTで初制覇、インフィニティQ50BTCCで連覇と都合3冠の元王者サットンが、自身4度目の戴冠に向け最前列を確保できるか。シルバーストンの週末も、まずは土曜のグリッド争いに注目が集まった。
しかしオープニングのFP1はヒルのBMWが最速を刻むと、続くFP2ではアンドリュー・ワトソン(カーストア・パワーマックスド・レーシング/ヴォクスホール・アストラBTCC)がトップタイムを記録し、アストラが侮れないペースを示す。
そして今季最後のトップ10シュートアウトが開催された予選では、計時セッションの段階で全27台が1秒差圏内、最終10台の勝負でも2番手ターキントンが0.012秒差、3番手の王者トム・イングラム(ブリストル・ストリート・モータース・ウィズ・エクセラー8/ヒョンデi30ファストバック Nパフォーマンス)が0.030秒差、以下同様にヒルが0.045秒差、サットンが0.064秒差という緊迫の接近戦を制し、自身も「信じられない」と語ったドーブルがBTCC初ポールを奪うとともに、ここまでNAPAレーシングUK享受してきた成功に終止符を打った。
「今日はスピードがあることは分かっていたが、ポールポジションを期待してはいなかったし、自分がNAPAレーシングUKをトップの座から引き摺り降ろす役だとは思わなかった」と、2018年のダン・カミッシュ以来となるデビューイヤーでのポール獲得を果たしたドーブル。
「その点で、初ポールを獲得するのにこれ以上良い方法はないし、カギになるだろうと思っていたラップがQ2の早い段階で実現できた。自分がトップにいると聞いて、他の選手たちが僕よりも速く走れていないことに気づいた」
「それでようやく『もしかしたら自分たちにもそれができるかもしれない』と思い始め、最終的にポールを獲得するなんて本当に信じられないことだったよ」
一方、この日は「僕のオフィスである運転席では大変な一日だった」と明かしたポイントリーダーのサットンは、順調にいけばレースデイにタイトルを獲得する可能性が残るものの、選手権のアドバンテージを維持するため「トラブルに巻き込まれないようにすることに重点を置く」と強調した。
「僕らにとっては厳しい予選だった。嘘は言えないが、ポールポジションまであと0.064秒。今季初めてマシンのバランスが取れず、できることはずべてやって5番手だ。危うくQ2進出を逃すところだったし、ギリギリのところで突破できたけど、ここぞというときになんとか1周を稼ぐことができたね」と安堵の声を漏らしたサットン。
「ここでは乱戦が多発するし、トラブルに巻き込まれないようにしなければならない。明日はその渦中に身を置くことになる。誰かのためにドアを開けっ放しにしたり、愚かなことをしたりするわけにはいかないんだ」
迎えた日曜レース1はスタートを前に雨が舞い始め、各チームはどのタイヤを使用するかで悩まされることに。ここでサットンとイングラムがともにスリックタイヤを履いたなか、BMWのヒルはウエットタイヤをチョイスして王座争いのライバルに対抗する構えを見せる。
さらに混乱のドラマは続き、前日に初ポールを獲得したドーブルは濡れた路面が影響したか、グリッド位置で止まり損ねて追加周回を強いられ、ここで最後尾へ回り早くも予選の主役が姿を消してしまう。
シグナルグリーン直後、ウエットのパターンとコンパウンドを活かしたヒルがイングラムらを撃破してトップに躍り出る一方、オープニングラップで接触に見舞われたターキントンは戦線離脱。コンディションが悪化するにつれ、スリックタイヤを履いていたクルマたちは順位を落とし、サットンもイングラムもスピンを喫して後方へ沈む展開となる。
これで終盤のドライアップもマージンを維持したヒルが勝利を挙げ、ダニエル・ロウボトム(NAPAレーシングUK/フォード・フォーカスST)とワトソンのヴォクスホールが続く表彰台となった。
■オープニング23番手から怒涛の追い上げでトップチェッカー
続くレース2で最前列スタートを切ったヒルは、逆襲に向け「ポイントを倍にしようと」奮闘を見せるが、ここでBMW 330e Mスポーツにミスファイアの症状が出始め、徐々に後退していくことに。
代わって勢いを披露したのがオープニングで23位まで沈んでいたサットンで、共通ハイブリッド機構のエクストラパワーも得たNAPAフォーカスは、レース中盤にデブリ回収のイエローが出た時点で6番手にまで躍進。リスタート後にはワトソンとヒルを抜き去りトップ4とする。
ここから“定位置”を奪還するのにさほど時間は要さず、まずは3番手のロリー・ブッチャー(TOYOTA GAZOO Racing UK/トヨタ・カローラGRスポーツ)をパスすると、アダム・モーガン(チームBMW/BMW 330e Mスポーツ)やアーロン-テイラー・スミス(カーストア・パワーマックスド・レーシング/ヴォクスホール・アストラBTCC)を立て続けに仕留め、24周を走破してトップチェッカーを受けた。
「正直に言って言葉が出ないよ。厳しい戦いになることは分かっていたが、見た目からしてジェイク(・ヒル)がエンジントラブルを抱えていたこともあり、僕らに有利になったね」と喜びを語った選手権首位のサットン。
「予選では(使用可能な配分がなく)痛かったが、レース1の結果でハイブリッドの配分がフルに解禁になり、それを最大限に活用した。計画では追い抜きが難しいと思われるクルマにこのシステムを利用するつもりだったが、今日は最後のヴォクスホールがそうだった。昨晩からクルマに施した変更が最大化できて、本当に満足だよ」
そしてトップ12リバースの最終レース3は、序盤でモーガンのBMWとブッチャーのTGRカローラが接触してセーフティカーが導入されると、そのリスタート後にダン・ロイド(オートブライト・ダイレクト・ウィズ・ミラーズ・オイル/クプラ・レオンBTCC)らをパスしたターキントンが首位に浮上。
前戦レース2ではサットン同様に怒涛のチャージを見せて3位に喰い込んでいたイングラムが2番手に続き、タイトル戦線に待ったを掛けたかったが、フィールド後方からまたもサットンが浮上。最後は僚友ロウボトムにもポジションを譲られ、3位表彰台に上がる結果となった。
これでイングラムとの差を45点に拡げ、現役最多記録に並ぶ4度目のBTCCタイトル(ターキントンが保持)に挑むサットンは、直接対決に絞られたシーズン最終戦に向け有利なリードを確保。天王山となる今季BTCC最終第10戦は、ブランズハッチのGPレイアウトにて10月6~8日に決着のときを迎える。
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