2022年のスーパーGT・GT300王者となったリアライズ日産メカニックチャレンジ GT-Rの藤波清斗とジョアオ・パオロ・デ・オリベイラのドライバーズ選手権獲得ポイントは『52』。これは、2005年のスーパーGT発足以降のGT300王者のなかで、飛び抜けて小さな数字だ。良く言えば接戦、悪く言えばどの陣営も取りこぼしが多かったことになる。実際、今季のGT300クラスにおいて、全戦でポイントを獲得したドライバーはいない。
埼玉トヨペットGB GR Supra GTも、年間を通して大量得点のチャンスはありながらも、それを取りこぼしてきた1台だ。近藤收功エンジニアの言葉を借りれば、「本当にタラ・レバの多いシーズン」だった。
第8戦もてぎでクラッシュを喫したマッハ号、プリウスともに大きなダメージ。マッハ号は全損か
「開幕の岡山ではかなりのポイントが獲れそうでしたが、シフトコンプレッサーが壊れてしまいました。第2戦富士では(2度の給油義務を済ませていたなかでは首位を走っていたたため)余裕で優勝していたところ、まさかの赤旗でレースが終了。鈴鹿では2位でピットから出せたのですが、セーフティカー(SC)明けでコースオフして4位に沈んだり……」と近藤エンジニア。夏場の富士、鈴鹿ではフロントのチンスポイラーが構造的なダメージを受け、本来のダウンフォースが得られないなど、さまざまな要因で大量得点のチャンスを逃がしていた。
しかし第7戦オートポリス、「もちろん狙ってはいましたけど、まさか優勝できるとは思っていなかった」(近藤氏)という勝利により、なんとか最終戦でのタイトル争いに踏みとどまる。首位とのポイント差は15(川合孝汰のポイント。吉田広樹は欠場ラウンドあり)。最低でも2位でフィニッシュすることがマストという厳しい条件で最終第8戦の舞台、モビリティリゾートもてぎに入った。
そんな埼玉トヨペットはシーズン全体の流れを象徴するかのように、最終戦の決勝でもその最終盤に、逆転タイトル候補へと急浮上することになる。そこには、「これしかない」という戦略が存在した。
■戦略で手に入れた“裏の1位”
似たような気象コンディションの3月にテストを行った際にはいいフィーリングも得られていたが、それ以降参加条件により吸気リストリクターが絞られたことにより、第8戦の公式練習・予選は厳しいものとなってしまう。スタートポジションは9番手となった。
「以前のリストリクターの時と比べるとタイムが遅く、これはもうどうにもならないな、と。普通に8台抜くことは不可能でしたので、ピット戦略で前に行くしかなく、事前にさまざまなシチュエーションに対して準備をしていました」と近藤エンジニア。
上位浮上のきっかけとなったのは、多重クラッシュによるSCの導入だ。「もてぎは給油時間の長い、燃費の悪いサーキット」(近藤氏)であるため、2度目のピットでの給油時間短縮を狙い、SC中に給油のみのピット作業を行い隊列へと復帰する。フレッシュタイヤへの交換はせず、トラックポジションを重視した。
そしてSC明けの24周目、2度目のピット作業で『ドライバー交代と同時にタイヤ4輪を交換する』という規則上の義務をクリアすると、短い給油時間の利点を活かし、目論みどおりポジションアップ。この時点で、ピット作業を終えた車両のなかでの先頭、いわゆる“裏の1位”のポジションを掴み取った。あとは、ピットインを引っ張っている車両との位置関係がカギとなった。
コースに出ていった吉田は、「最初、燃料が(たくさん)入っている状態では、タイヤが良くても思ったほどペースが上げられなかった」という。ライバル勢の前には出られたものの、ミラーのなかでは65号車LEON PYRAMID AMGと10号車TANAX GAINER GT-Rの姿が大きくなる。残りは30周強。吉田は「厳しい戦いになるな」と覚悟した。
「ただ、自分たちは燃料が軽くなってきたときのゲインが大きいので、最初を耐えらればワンチャンあるかな、という望みで走っていました」
■残り6周で“3台同ポイント”の緊張感
全車がピットインを済ませると、埼玉トヨペットは2番手に浮上していた。少し展開が落ち着いたスティント中盤、背後のライバル勢も徐々にタイムを落とし、大逆転タイトルの芽は少しずつ大きくなっていった。
「正直、10号車に対しては、GT500や周回遅れが絡むタイミングだけ気をつければ、なんとか耐えられるのかなと思っていました。でも残り13周くらいから、左フロントタイヤが厳しくなってしまって……。その後、僕の後ろでは10号車がJLOC(87号車Bamboo Airways ランボルギーニ GT3)に抜かれた。もう、JLOCは全然ペースが違ったので、あっという間に追いつかれて、あとはどれくらい耐えられるかな……って思ってました」
TANAXが5番手にまで順位を下げた54周目終了時点で、埼玉トヨペットとTANAX、そしてリアライズの3台が同ポイントで並ぶという状況。ポジションを守り抜けば、ペースを大幅に落としているTANAXの順位次第で埼玉トヨペットと川合の大逆転タイトルが俄に見えてくる状況となった。
だが、37周目まで義務ピットを遅らせたことで相対的にフレッシュなタイヤを履く87号車の松浦孝亮は、57周目の90度コーナーで吉田の虚を突く動きに出た。
「あの90度コーナーでは、いつもより距離が近いなとは感じていたのですが、勝負はもう少し先、ラスト2~3周かなと思っていました」と吉田。
「イン側でブレーキしてミスったりしたくなかったので、『油断していないぞ、隙は見せないぞ』という意味を込めて少しだけインに寄せつつ、でも自分のラインはキープしてアウトに戻ったら、まさかその距離から飛び込まれるとは……という感じで抜かれてしまいました。僕もクロス(ライン)をかけようと思ったのですが、向こうもコース上で止まるくらいの勢いだったので、かけられなくて。そこから先はもう、ペースは厳しかったですね」
埼玉トヨペットは、60周目のチェッカーを3位で迎えた。チーム、ドライバーともにベストを尽くしたが、あと一歩タイトルに届かなかった埼玉トヨペット。吉田は「やっぱり僕らにはペースがなかったので、FCYとかSCとか、何かのチャンスを拾って前に出て耐える、という戦い方しかありませんでした」と最終戦を総括する。
「その展開を狙っていた中では、近ちゃん(近藤エンジニア)もシミュレーションどおりにコントロールしてくれたし、メカもタイヤ交換作業をしっかりやって送り出してくれた。あとは何ができたかといえば、僕らがコース上でもう少し(耐えられれば)……という部分しかなかったです。チームは本当に、この限られたチャンスを生かしたレース展開を組んでくれたと思います」
吉田&川合コンビとなってGRスープラをデビューさせた2020年に続く、2度目のランキング2位。チームとしての力も確実に上がっているなか、来年こそは取りこぼしなく頂点を目指す構えだ。
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