戦時中に開発へ着手したイシゴニス
75年前の英国人にとって、日常的なクルマといえたのがモーリス・マイナーだ。かといって、それは評価を下げるようなものではない。価格はお手頃だったが、遥かにモダンな設計やメカニズムが採用されていた。
【画像】1948年のゲームチェンジャー ポルシェ356とモーリス・マイナー ミニや電動版356も 全125枚
この企画でご紹介する6台には、水冷式だけでなく空冷式のエンジンも含まれ、シャシーや駆動系のレイアウトも多様。進化の過程で起きるパッケージングの収束以前のモデルであることが、その理由の1つになるだろう。
そんななかで、現代の一般的なクルマに近い位置にあったのは、このマイナーだった。発表は1948年10月のロンドン・モーターショー。2ドアサルーンと2ドアコンバーチブルという、2種類の展開でスタートを切った。
エンジン以外の開発が始まったのは、戦時中の1943年。実質的には、非常に短い時間で設計が進められた。その指揮を取ったのは、技術者のアレック・イシゴニス氏。たった3名のチームで、コードネーム「モスキート」という新モデルに取り組んだ。
才気溢れるイシゴニスは、多くの新機能をモスキートに与えようとしたが、モーリスによって否定された。それでも、モノコック構造と独立懸架式のフロント・サスペンションには、彼の先見性の片鱗が現れている。
モノコック構造が生むソリッドさと洗練性
どちらも英国車として初採用ではなかったものの、市民の移動手段を前提とする安価な量産車としては目新しかった。1930年代といえば、フロントにもリジッドアクスルが多く採用されていた頃で、特に英国車はその構造へ依存するメーカーが多かった。
しかし、この2つの特徴を備えたマイナーは、結果的にモデルライフを伸ばした。時代を先取りしたクルマだったといっていい。
初期のモノコック構造らしく、剛性を確保するためグラスエリアは小さい。そのかわり、セパレートフレーム構造を持つ同時期のクラシックカーと乗り比べると、ソリッドさや洗練度の高さには驚かされる。
ステアリングラックも新しかった。この頃は、スポーツカーでも遊びが多いウォーム&ローラー式が珍しくなかったが、マイナーではラック&ピニオン式を採用。ダイレクトで情報豊かな操舵感を備えていた。
今回ご登場願ったのは、1950年式の初期型、マイナー MM。ステアリングホイールを握ってみると、反応に若干ためらうような重さが生じている様子。
「ラジアルタイヤを履いていた時は、こんな感じはありませんでした」。と説明するオーナーのローリー・グリフィス氏は、当時物のクロスプライ・タイヤが一因ではないかと考えている。
それでも、独立懸架式サスペンションのおかげで、狙ったラインをマイナーは正確にトレースする。路面の起伏を超えると、リジットアクスルのリア側は暴れるが、フロント側は落ち着きを失わない。
安価で小さなクルマでも誇らしくあるべき
優れた印象は、容姿にも現れている。同時期のシトロエン2CVと比べると、上級感は間違いない。クロームメッキが随所に散りばめられ、塗装の光沢は深く、ダッシュボードも美しく仕上げられている。
手頃な価格の小さなクルマでも誇らしくあるべきという、英国車としてのプライドを感じる。ミッドセンチュリーの英国人気質にも通じるのだろう。
918ccの4気筒エンジンは戦前に設計されたサイドバルブで、上品とはいえない。イシゴニスは水平対向4気筒を希望したが、モーリスの上層部が頭を縦に振ることはなかった。スーパーチャージャー付きの2ストローク・ユニットは、実現しなかった。
とはいえ、モーリスとオースチンはBMC(ブリティッシュ・モーター・コーポレーション)として1952年に合併。今でも傑作として評価されるAシリーズ・エンジンの搭載が可能になり、開発が無駄になることは避けられたといえる。
反面、戦前のモーリス・エイトから受け継いだサイドバルブ・エンジンは信頼性に優れ、マイナーの評価を高めることにつながった。当時は、時代錯誤に古い設計でもなかった。
1950年代には、まだサイドバルブ構造が珍しくなかった。フォードは1959年までアングリアに採用していたほど。
1952年にマイナー・シリーズIIへ搭載されたAシリーズは、803cc。動力性能は向上しておらず、合理主義とみなされ、当時の試乗テストでは望むような評価を得られていない。1956年のシリーズIIIでは948ccと1098ccへ拡大され、歓迎された。
ミニ・マイナーなどの開発にもつながった
グリフィスのマイナーもサイドバルブ・エンジン。市街地の速度域では活発にボディを動かし、60km/h前後までの加速ではパワー不足を感じない。シフトフィールも好ましい。
現代の基準でいえば間違いなく遅い。それでも、グレートブリテン島に高速道路が敷設されたのは、マイナーが誕生してから10年後のこと。少なくとも80km/h前後でのクルージングは、まったく問題ない。
洗練されたサスペンションとステアリングが生むマナーは、今回の6台では最も親しみやすい。気張ることなく運転できる。
革新性では、際立つ部分はないかもしれない。しかし、当時の優れた自動車技術を融合させ、優れたパッケージングと信頼性で仕立て、手頃な価格で提供したという功績は大きいだろう。
モーリス・マイナーは1971年までに160万台が生産され、可愛らしいスタイリングは今でも世界中で人気がある。技術者のイシゴニスの認知度を高め、ミニ・マイナーやADO16という、ベストセラーの誕生にもつながった。
英国車のレガシーとして、見過ごせない存在だと思う。
協力:モーリス・マイナー・オーナーズクラブ
モーリス・マイナー MM(1948~1953年/英国仕様)のスペック
英国価格:359ポンド(新車時)/1万5000ポンド(約241万円)以下(現在)
販売台数:161万9958台(マイナー合計/1948~1971年)
全長:3759mm
全幅:1524mm
全高:1524mm
最高速度:99km/h
0-97km/h加速:36.5秒
燃費:14.2km/L
CO2排出量:−g/km
車両重量:749kg
パワートレイン:直列4気筒918cc自然吸気
使用燃料:ガソリン
最高出力:27ps/4400rpm
最大トルク:5.8kg-m/2400rpm
ギアボックス:4速マニュアル
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みんなのコメント
発表はトヨペットがちょうど1年早い1947年10月。ボディは、デザインは共にヤーライ型流線型タイプと思われるもので、全長全幅ともトヨペットが数センチ大きい。エンジンは、共に水冷直列4気筒サイドバルブで最高出力も同じ27ps。排気量はトヨペットが995ccで少し大きい。駆動系のレイアウトも共にFRだが、トヨペットの変速機は3速。サスペンションに、まだ前後ともリジッドが主流な時代に独立懸架を採用したあたりもまた似ているが、トヨペットは四輪独立懸架とするより挑戦的な選択をした。
一番の違いは、トヨペットはモノコックでなくバックボーンフレームのプラットフォームなところ。しかし、重量が、シャシの違いだけが原因とは思えない200kg近く重い940kgになってしまっているのは、各部の洗練度の違いだろうか。