スバルとスバルテクニカインターナショナル(STI)は2022年12月15日、富士スピードウェイで2023年5月18日から21日に開催されるニュルブルクリンク24時間レースに参戦するため新開発したVB型のWRX S4のレース仕様車両の公開シェイクダウンテストを行なった。
最大のトピックは、ようやく現行WRXモデルをスイッチしたことだ。STIは近年のニュルブルクリンク24時間レースにはVA型WRXでの出場を続けていた。もうすでに生産を終了したモデル、EJ20型エンジンを使い続けてきたのだから待望のニューマシンということになる。
2023年型WRX レース車両のポイント
なおこのWRXは従来と同様に左ハンドル仕様だ。現行のWRXは新たにスバルグローバルプラットフォーム(SGP)を採用するとともに、搭載エンジンは直噴ターボのFA24型が搭載されている。
レース車両として初となる2.4LのFA24型が採用されたことは画期的といえる。ただし、排気量2.4Lになったため24時間レースではSP3TクラスからSP4Tクラス(2.0L~2.6Lのターボ・エンジン)にクラス替えとなる。ただし、最低車両重量は両クラスとも共通となっているが、現実には新開発されたWRXは最低重量より約80kg重い状態だ。
FA24型エンジンのレース用としての開発は予想以上に順調に進み、ベンチ上での36時間耐久テストを複数回実施し、期待された以上の十分な出力と耐久信頼性が確認されている。レース仕様では高強度ピストン、コンロッド、大容量インテークマニホールド、大型ターボチャージャー、高効率インタークーラーなどを新規設計して採用。
その一方で、クランクシャフト、バルブ駆動システム、直噴用の高圧燃料ポンプなどは市販車用がそのまま使用されている。
補機類では、より高効率のフジツボ製の等長エキゾーストマニホールドと、レースの規則に余裕を持って適合するサイレンサー、吸気ダクト、専用クラッチ、そしてトランスミッションやデフのオイルクーラーなどが新らたに採用されている。またエンジンオイルはMOTUL製のレース用に特化した高粘度オイルとラジエーター冷却剤を使用している。
ニュルブルクリンク24時間レース用のエンジン出力は、従来の2.0LのEJ20型が340ps程度であったが、2.4LのFA24型は排気量アップの効果が大きく、380ps以上になっているという。当然ながらトルクも増大しており、低速域から高速まで扱いやすくなっている。
辰己総監督は、「400cc分のパワー、トルクのアップは実現していますが、車両重量がやや重いため、動力性能は従来とそれほど大きな違いはないです。ただトルクが大きくなっているのでそれを生かせばより速いといえるかもしれないです」と語る。
ボディ、シャシー、エアロダイナミクス系はスバル技術本部の設計部門が協力し開発を主導した。まずボディ・フレームではSGPのコンセプトを生かし、フロントからリヤまで荷重をリニアにより俊敏に伝達できることを目指している。
ボディ全体のねじり剛性をむやみに高めず、前後曲げ剛性、平面曲げ剛性を重点的に向上させるためにボディのフロント・ストラットタワー部−バルクヘッド−フロア外側のNo.1縦フレームとそれより内側のNo.2フレーム−リヤ・ストラットタワー部を一体的に縦方向に強化する大きな補剛材を新たに追加している。いかにフロント・サスペンションからリヤ・サスペンションへの荷重が遅れなく伝達できるかを重視していることが分かる。
ただしホワイトボディ重量では従来のVA型に比べ今回のVB型では50~60kg重くなっているということで、この点はレースでは不利な条件となっている。
フロント・サスペンションのリンク、リヤのリンク類もニューボディに合わせて新設計された。その他では、2022年のニュルブルクリンク24時間レースでのリタイヤの原因となったフロント・ハブのロワ・ボールジョイントはサイズアップと強化を行ない、実際の使用では寿命管理を徹底することにしている。
使用するタイヤは、従来は18インチ径×11インチ幅のホイールに総幅280mm幅のファルケン・スリックタイヤを使用していたが、このニューマシンでは総幅285mmまで拡大させている。今やGT300用のタイヤ幅に近い。
パワートレイン系は、従来のトランスミッション、4WDの機構と制御などを継承している。ちなみにニュルブルクリンク24時間レースに出場する70台以上のレース車両で4WDを採用しているのはWRXだけなのだ。天候が急変したり、荒れた路面や滑り安い路面が連続するニュルブルクリンクのコースでは、やや重量が増加しても4WDが絶対的に有利な技術とスバルは位置付けている。
ボディのエアロダイナミクスでは、フロント、リヤのホイールハウス内のエアの排出、フラットなフロア下面などの手法を継承しながら、現行WRXのボディ形状に合わせたダウンフォース強化を行なっている。
ボンネット先端部の導風シールルーフ最前端部の導風シール従来は鮫肌塗装による抵抗軽減が図られていたが、今回は鮫肌塗装はバンパー部などに限られ、逆にボンネット前端、ルーフの前端に縦方向の微小な溝を持つシート状の空力デバイスに変更されている。これはボンネット先端からルーフ上により滑らかに気流を流し、気流のルーフからの剥離をできるだけ抑えて、ルーフの曲面に沿って流速の速い気流をリヤ・エンドのウイング下面に導くというコンセプトである。実際にこのコンセプトによりダウンフォースはより強化されているという。
左ハンドル仕様のコックピットコックピット右側。エンジン制御はモーテック製ECUこの新開発レース車両は、群馬の本社製作所内のテストコースで辰己英治総監督自ら基礎的な確認テストを行ない、その後にサーキットでの短時間の走行を行なっているが、2023年用のタイヤなどもそろった状態での本格的なテストは今回が初めてとなる。
チーム体制
チーム体制では、今回からプロジェクトリーダーとして渋谷直樹氏が起用され、その下に辰己英治総監督、沢田拓也監督がレース・チームを統括。その下でレース・エンジア、各ユニット担当エンジニア、そしてメカニックという構成になっている。
左から辰己英治総監督、渋谷直樹プロジェクトリーダー、沢田拓也監督、平岡泰雄STI社長と、開発ドライバーの佐々木孝太、井口卓人、山内英輝選手渋谷プロジェクトリーダーは、2023年ニュルブルクリンク24時間レース参戦の目的は「今回はクラス優勝することで走りの確かさを実証する、技術開発の推進と人材の育成、そしてスバル・ファンとのコミュニケーションを向上すること」としている。
またレースにおいては、「SP4Tクラス優勝、予選ラップタイム8分51秒」を目指している。ただしSP4Tクラスはプラベートチームのポルシェ・ケイマンなどで競合車両が少ないため、ひとつ上のSP8Tクラスをも凌駕することを目指している。
今回はドライバーは、開発ドライバーとして山内英輝、井口卓人、佐々木孝太選手が紹介された。正式にニュルブルクリンク24時間レースでWRXのステアリングを握るドライバーは東京オートサロンで発表されることになっている。
今回のシェイクダウン・テストでは山内英輝選手、佐々木孝太選手が担当し、レースカーのフィーリングや操縦性、タイヤとのマッチングなどをチェックしていた。
そして今回は北海道スバル、宮城スバル、山形スバル、福島スバル、富士スバル、千葉スバル、東京スバル、京都スバルのディーラーのメカニック8名がレース・メカニックとして参加することになっている。
今後のスケジュールは、辰己総監督は今回はまったくのニューマシンのため、2023年3月末のLNS(旧呼称はVLN)レースに出場して性能確認をしたいと語っている。その後は4月のクォリファイング・レースを経て本番の24時間レースを迎えることになる。
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