F1アメリカGPの決勝レースでは、タイヤの選択が2種類に分かれた。ひとつはスタート時にミディアムタイヤを履いて、第2スティントでハードタイヤを履く者。もうひとつは逆にスタート時にハードタイヤを履いて、後半スティントでミディアムを履く者。大半がこのふたつの戦略に分かれ、その中でもミディアム→ハードと繋ぐ戦略が最多だった。しかし結果的には、ハードタイヤでスタートし、ミディアムに繋ぐという戦略が、最も正しかったようだ。
決勝レースをハードタイヤを履いてスタートしたのは、全20台中ジョージ・ラッセルとルイス・ハミルトンのメルセデス勢2台、RBのリアム・ローソン、ウイリアムズのフランコ・コラピント、アストンマーティンのランス・ストロールの合計5台である。そのうちハミルトンはリタイアしたが、ラッセルが6位、ローソンが9位、コラピントが10位と、ストロール以外の全車が入賞を果たして見せた。しかもラッセルはピットレーンスタートから14台抜き、ローソンは19番グリッドから10台抜き、コラピントは15番グリッドから5台抜き……いずれも大きくポジションを上げる結果となった。
■角田裕毅、アメリカGPではチームメイトのローソンが入賞する一方で無得点「次のメキシコはすぐ……僕はもっと強くなって戻ってきます」
一体何が明暗を分けたのか?
中団グループのレースペースを分析。正解はハードタイヤ!
グラフは、中団グループのうち入賞したニコ・ヒュルケンベルグ(ハース)、ローソン、コラピントの3台と、当初入賞圏内を走りながら、入賞を逃すことになったピエール・ガスリー(アルピーヌ)、角田裕毅(RB)の合計5人のレースペース推移を、折れ線で示したものだ。
赤丸で示したのが第一スティントのペース推移。これを見ると、いずれのマシンのペースも上がっていっておらず、ほぼ横ばいで推移していることがよく分かる。
本来ならばマシンの重量が軽くなればなるほど、ペースは文字通り右肩上がりに 上がっていく。それが上がらなかったということは、重量が軽くなった分を相殺してしまうだけ、タイヤが劣化していた(デグラデーションが大きかった)ということが考えられる。
そんな中最初に音を上げることになったのが角田だ。角田は当初1分41秒フラットで走っていたが、ペースが徐々に低下。1分41秒台後半に落ちてしまった。その結果、ここには示されていないがレッドブルのセルジオ・ペレス、そしてヒュルケンベルグに立て続けに抜かれ、たまらずピットインすることになった。ガスリーも程度の差こそあれ同様で、角田と同じ18周を走り切ったところでピットイン。いずれもミディアムタイヤからハードタイヤに履き替えた。
前が開けたヒュルケンベルグは、ガスリーや角田と同じミディアムタイヤを履いていたにも関わらず、一気にペースアップ。今回のハースは、中団グループの中では一歩抜け出した存在であり、アルピーヌやRBではとても太刀打ちできない存在だった。
19周目以降は、このグラフに示された5人のうち、ヒュルケンベルグを除いた4名がいずれもハードタイヤを履くことになった。すると、いずれのレースペースも右肩上がりに上がっているのが分かる。つまり、デグラデーションが小さく、燃料搭載量が減るに連れて、ペースが上がっていっていたのだ。
ただ、本来ならばガスリーと角田のふたりは、他のふたりに比べて使用履歴の浅いハードタイヤを履いていたためペースが速いはず。しかし、4人のペースはほぼ同等だった。ガスリーと角田は、タイヤを最後までもたせるためにマネジメントしていた部分もあるだろうが、タイヤの使用履歴が若いメリットを、まったく活かせずにいたわけだ(青丸の部分)。
その結果、レース終盤にミディアムタイヤに交換したローソンとコラピントは、ガスリーや角田の近くでコースに復帰。使い古したハードタイヤと、新品のミディアムタイヤではパフォーマンスの差は歴然(緑丸の部分)……しかも残り周回数を考えれば、ミディアムタイヤとてある程度酷使しても問題ない上、燃料搭載量が少ないためタイヤにかかる負荷も小さい……ガスリーや角田としては、防戦する術は残っていなかった。
トップグループでも傾向は同じ! F1のタイヤ選択は難しい……
この傾向は、トップグループでも見て取れる。
こちらのグラフは、トップグループのレースペース推移。ラッセル以外の4台は、ミディアム→ハードという戦略。ラッセルのみが前述の通りハード→ミディアムだ。
上位4台がミディアムタイヤを履いていた時のレースペースの推移もほぼ横ばい。つまりデグラデーションの進行と燃料搭載量の減少のレベルが相殺されていたわけだ。一方で当時ハードタイヤを履いていたラッセルのペースはうなぎ上りである。逆に上位4台がハードタイヤを履いた時には、彼らのペースが右肩上がりになったものの、レースの最後までタイヤがもたないことを念頭に置き、慎重なペースコントロールを強いられたため、ラッセルほどの上がり幅ではなかったと思われる。
これらを考えると、燃料を多く搭載している時、つまりレース序盤にハードタイヤを履くのが、いずれのマシンにとっても大きなメリットになった。逆を言えば、本来のパフォーマンス差が少ないマシン同士が対峙するということになれば、ハード→ミディアムと繋がなければ、ほぼ勝ち目はなかったとも言えそうだ。
ただハードタイヤをスタートに使うのは、非常に大きなリスクが伴う。スタートでの蹴り出しはミディアムに比べれば当然悪く、ポジションを落としてしまう懸念があるからだ。
今回ハードタイヤでスタートしたドライバーは、いずれもグリッド下位に沈んだドライバーたち。つまり予選での失敗やペナルティを受けたことにより、ハードタイヤでスタートするというギャンブルを打つことができ、それが結果的に成功に繋がったのだ。
なおピレリは土曜日が終わった時点で、1ストップで決勝レース走り切るのは不可能だと断言していた。しかし終わってみればほとんどのマシンが1ストップ……ピレリですら、タイヤの挙動を読み切ることができなかったわけだ。
F1のタイヤ選択とは、実に難しい……それを露わにしたアメリカGPだったと言えよう。
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