昨年、スーパーフォーミュラとスーパーGT・GT500クラスのいわゆる国内2大トップカテゴリーで共にタイトルを獲得し、今季はFIA F2に参戦している宮田莉朋。F2では苦しい戦いが続いているが、その要因について、元レーシングドライバーで現在はTOYOTA GAZOO Racing ヨーロッパ(TGR-E)の副会長を務める中嶋一貴氏に聞いた。
TOYOTA GAZOO Racingのドキュメンタリー動画『INSIDE GR』の中で、宮田はこう語っていた。
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■「このまま日本に居続けるのは違う」WECスポット参戦で世界への想いを一層強めた宮田莉朋。TGRヨーロッパをうならせた“速さ以外”の要素
「恥ずかしいことですが、泣く日も増えました。こんなに上手くいかないんだなって」
「去年良かったから、今年はそのツケでたくさん苦労しなさいと言われている気がします。その先には明るい未来が見えている気がしますが、こんなにキツいのかというくらい、キツいです」
かねてよりF1に参戦したいという強い思いを口にしてきた宮田は、史上最年少での“国内二冠”という華々しい実績を引っ提げ、“TGR WECチャレンジプログラム”の一環として、F1直下のF2で戦うチャンスを得た。開幕のバーレーン戦ではフィーチャーレース(※)で9位入賞を果たし、3大会目のアルバートパーク戦ではスプリントレース、フィーチャーレースで共に5位に入るなど順調な滑り出しに見えたが、以降の9ラウンド18レースではわずか3回の入賞にとどまり、最終2ラウンドを残してランキング19番手に沈んでいる。
(※FIA F2は1大会2レース制。土曜に予選結果の上位10名が逆順グリッドでスプリントレースを行ない、日曜に予選結果通りのグリッドでタイヤ交換義務のあるフィーチャーレースを行なう)
そんな宮田のF2シーズンについて「良いところと苦戦しているところと、それぞれあるとは思っています」と切り出した中嶋副会長。さらにこう続けた。
「バーレーンやバルセロナなど、しっかりテストできたところでは彼自身の本来あるべきパフォーマンスを出せていると思います」
「また、F2は日本のレースに比べると荒っぽいというか、荒れる部分も多く、そこにどれだけマージンを取るかという部分が最初は課題だったとも思いますが、大きなミスなく来れていると思います。バクーはちょっとアクシデントがありましたが、あれは攻めた結果だと思いますし。ちゃんと周りと自分の状況を把握しながら、うまくコントロールできていると思います」
「予選は特に苦戦しがちですが、レースペースに関してはすごく力強いレースが非常に多いので、やはり走れば走るほどパフォーマンスを出していっているという印象があります。そこは結果に出ていない部分もありますが、すごくよく戦っているんじゃないかと思います」
「逆に言うと、特にサーキットの経験値だったり、タイヤスペックが複数ある中でのソフトタイヤでのアタックの経験(の不足が大きい)ですね」
「そもそもフリー走行の時間も40分ほど(45分)と限られている中で、今のピレリタイヤはプッシュラップ1周ごとにクールダウンラップを挟まないといけないので、40分あっても実際にアタックできる回数は正味4周くらい。その状況の中、予選で初めてソフトタイヤを履いてアタックするので、合わせ込むのは非常に難しいと思います。そこは彼の中で一番の課題になっていると思います」
「あとはレースウィークの中で、予選、レースに向けてマシンバランスの面で何をどう変えるかという部分に関しても、彼自身はすごく研究熱心で、自分で考えて『ああしたい、こうしたい』と言うタイプなのですが、ベースになる経験値がない中で、どういう方向性にしていくべきかをうまく詰めきれずにいる側面もあると思います」
「やはりベースになる経験値が不足しているというところ。そこが一番の難しさではあると思います」
宮田にとっては、F2とヨーロピアン・ル・マン・シリーズを戦う今季が欧州カテゴリーでの初のシーズン。一方でF2のライバルたちは、FIA F3や欧州のフォーミュラ・リージョナルでピレリタイヤを経験しているドライバーがほとんどであり、開催サーキットの多くが勝手知ったるサーキット。こういった経験値の差は、宮田をかなり苦しめているようだ。
また宮田は語学堪能な両親の影響も受け、コミュニケーションに支障がないレベルの英語力をつけた状態で渡欧しているが、日本時代のようにエンジニアと“阿吽の呼吸”で仕事をしたり、“突っ込んだ議論”ができるかと言われれば、そう簡単ではないだろうと中嶋副会長も言う。「やっぱり、いきなり行ってポンと結果を出すことは難しいと思います」と改めて語った。
中嶋副会長は自身がF1デビューを果たす前、現在のF2にあたるGP2に参戦していた。ただその当時とは、ドライバー全体のレベルも上がっている感触があるという。
「今のF2のグリッドを見ていると、ドライバーのレベルも全体的に非常に高いなと思います」
「自分の時や、数年前までのF2は、ドライバーのレベルが2段階に分かれていたような印象があります。でも今のF2はほとんどがコンペティティブなドライバーだと感じています。(ウイリアムズのフランコ)コラピントがいきなりF1に乗ってあれだけ走るのを見ていると、そういうコンペティティブさが(宮田にとって)相対的に難しくさせているところもあると思いますね」
■宮田はF2に継続参戦するのか?「これで終わり、というのは正しい状況ではないと思う」
そして気になるのは、宮田が来季もF2に継続参戦するのかということだ。特にトヨタはハースとの提携を通して、育成ドライバーをF1テストに送り込み、ゆくゆくはF1レギュラードライバーを輩出することを目指すと発表したばかり。ただ、そのF1テストに参加するドライバーは誰になるのかについても、現時点で明言が避けられている。
中嶋副会長は宮田の来季について「今は検討中としか言えませんけど……」と前置きしつつ、個人的見解として次のように述べた。
「さっきも言ったように、やっぱり1年でぱっと結果が出せるほど甘い世界ではないとは思います。あくまでも個人的な意見しか今は言えないですけど、これで終わり、というのは正しい状況ではないだろうなとは思うので、続けていけるのが理想的だとは思っています」
「逆に言うと、続けていくことができれば、彼の真価を発揮できるだろうという期待はあるので。ただ、今は色々調整中のところもたくさんありますので、まだまだこれからのことだと思います」
■宮田莉朋は一体何がすごいのか?
国内カテゴリーで若くして実績を残し、TGRのバックアップもありつつ海外に挑戦している宮田。改めて、レーシングドライバーとしてどんなところに強みを感じているのか? そう尋ねると、中嶋副会長は次のように語った。
「本当に研究熱心ですし、あとは自分の気持ちがすごく明確で、そこに対して自分が何をしなきゃいけないか、そこがしっかりしているところですね。自分がこうだと思ったことに貪欲に取り組めるのは強さだと思います」
「レースに向けた振り返りや準備のところも、すごくシステマチックにやれる印象があります。あまりそういうドライバーは多くない気がしますし、僕自身そうではなかったのもありますが、すごくしっかりしているなと思います」
「逆に言えば、自分の中である程度蓄積ができて、うまく結果に結びつけていくようになると、あっという間に状況が変わっていくんじゃないかなという期待もあります」
また、日本という島国から旅立つドライバーが苦戦しがちなのは、やはり英語でのコミュニケーションと言える。しかし宮田は前述の通り、海外でのレースフル参戦経験がなかったにもかかわらず、英語を習得してしっかりと準備をしていた。その点も、中嶋副会長は高く評価しているという。
「言葉の問題に関しては、日本の環境の中で(他言語の習得を)やることは難しいのですが、とはいえ努力できるところでもあります」と中嶋副会長は言う。
「これは本来そうあるべきなのですが、僕が莉朋のことを本当にすごいと思っているのは……ほとんど日本でしかレースをしていない中で、少なくとも『これくらい話せればなんとかなる』というところからスタートしたことです。当たり前のことかもしれませんが、少なくとも僕には莉朋しかそういうことをしていないように見えたので。そこは大きいと思います」
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