これはハーレーか否か?「Vツインではない、並列2気筒のXシリーズ」
ハーレーダビッドソンはこれからバイクに乗る若年層をメインターゲットとするエントリーモデルを2023年10月20日発売した。普通二輪免許でも乗れる350ccのX350と、大型二輪免許が必要となる500ccのX500の2モデルで、X350:69万9800円、X500:83万9800円という低価格も話題を集めている。
ハーレーダビッドソンジャパンは2モデルとも「軽量都市型コミューターモデル」と説明しているが、試乗を行ったプロライダーの鈴木大五郎氏によれば「意外にスポーティ」とのこと。
ということはベテランライダーにも魅力がある!? 以下、試乗レポートをお伝えしよう。
【画像35点】ハーレーダビッドソンX350とX500を写真で解説「足着き、エンジン、足まわり、全ボディカラー」
食わず嫌いは良くない。
ハーレー未経験のスポーツバイク大好きライダーに試乗を薦めてみても「興味なし!」と返答されること数多し。しかし、一度「食って」みてその面白さにハマるというのはよくある話だ。
ただこのパターンは、今回の僕の試乗インプレッションにはあてはまらない。スポーツバイク好きではあるが、ハーレーはもともと大好きなブランド。過去にはハーレーのバイクを所有していたし、ハーレー専門のカスタムショップに勤務していたこともあるほどだ。今回発表されたX350/X500には、そんなハーレー愛が強い人ほど「食わず嫌い」な拒否反応を示すだろう。Vツインのハーレー以外をハーレーと認めていいのか? しかし結果的には、この2台をテストした後、冒頭の言葉が僕の頭に浮かんできたのである。
ハーレーダビッドソン X350「XR750をオマージュしたフラットトラッカースタイル」
ハーレーはスポーツバイクとはあまり縁がないように思われることが多いけれど、フラットトラックというアメリカ伝統のレースシーンにおいては長きにわたり頭を張ってきたブランドでもある。
そのレジェンド的マシンであるXR750にも似たイメージを持つのがX350。一方、X500はスポーツスターシリーズの流れを組んだスタイリングを採用。2台はともに水冷並列2気筒エンジンを搭載する。発表当初は同じ車体をベースに異なる排気量のエンジンと外装を載せたものだと思っていたが、実際には共通部品がほとんどない。普通二輪免許でも走らせることが可能なX350は明らかにコンパクト。
重量感は良い意味での重さがあり、またがった瞬間、鈍重なハーレーのイメージは消し去られた。フラットトラッカーイメージのスタイリングとしたためか、シートも座面がフラットな形状で、幅は広め。足着き性が多少犠牲になっているが、フレンドリーな印象に変わりはない。
走り出すのに儀式的な重々しいクラッチ・アクセル操作は必要なく、免許取り立てのライダーにも手強さなど感じさせないイージーさだ。吹け上がりは心地良く、パワフルではないものの、それでいて市街地では不満のないトルク特性である。郊外ではアンダーパワーに感じる機会もあるかもしれないが、想像以上に使えるエンジンと感じられる。しっかりと回して走らせる機会がたびたび訪れるのも、これまた今までの「ハーレーらしさ」とは異なった楽しさだ。
あいまいなスロットルワーク領域でややギクシャクする傾向があった点を除けば、予想以上の仕上がりには驚かされた。正直ハーレーらしさを感じられなかったのだが、先入観であるとか、ブランドを崇拝するような感情がない人にはまったく関係のない話かもしれない。コーナリングにおける振る舞いにも不安要素はいっさいなく、体を委ねていける安心感がある。
ハーレーダビッドソン X500「大排気量車に劣らない汎用性があるモデル」
X500はX350よりひと回り大柄で、乗り味のしっかり感も高まる。無論、その分重量感も増すが、エンジンパワーとのバランスは悪くない。厚みのあるトルクがアイドリング付近から確保されている。ややザラリとしたエンジンフィーリングが心地良く、乾いた排気音を伴って回転上昇していく。こちらもアクセル操作にやや過敏に反応する領域があるものの、期待以上のパワー感と味わいを持っていた。
360度クランクの並列2気筒エンジンからは、鼓動感であるとか、ハーレーのバイクということから想像できるようなフィーリングは感じられなかったが、エンジン特性としてはこれはこれで楽しく、心地良さだけでなくパワフルさも併せ持っている。また、バンク角も含めて十分スポーツライディングできる車体設定でもある。より大排気量のモデルに劣らない汎用性が備わっていることを確認できた。
スペックだけで語れない魅力があるのはハーレー的と言える
乗ったフィーリングだけでこの2台をハーレーと断定するのは難しい。個人的には、トライアンフがこの排気量のマシンを作ったらこんな風になるのでは?と思ったほどだが、ハーレーというブランドにさほど思い入れの強くない人であればすんなり受け入れられるのではなかろうか?
過去にハーレー製のエンジンを搭載したスポーツバイクを販売していたビューエルは、あえてハーレーをブランド名に取り入れなかった。X350/X500の2台も、ブランド名を変えるという選択肢があったと思われるが、セールス面からか、やはりネームバリューの大きいハーレーの名前は使いたかったのだろう。
一方でVツインの伝統とブランドの重みがあり、また一方では、アジア市場を中心としたこれまでとは異なったターゲット層への訴求などが必要とされる現状がある。悩ましいながらも新たな1歩を踏み出したハーレー。それが吉と出るか凶と出るかはまだ分からないものの、テストした身から言えることは、ブランドにかかわらず、これらが楽しいマシンであったということである。
本当にガソリンエンジンのバイクがなくなる日が来るかは未だはっきりしないが、空冷・Vツインを愛するライダーだけに付き合うのをやめるのは、会社を存続するためには不可避だったのかもしれない。しかし、スペックに現れないライディングの本質を持っているのは、これまでのハーレー同様であった。Xシリーズが今後どのような位置付けとなるのか、メーカーの未来同様に気になる存在となっている。
「ハーレーXシリーズ、ここが気に入った!」
良好なエンジンテイストと守備範囲の広さが魅力。
それぞれのエンジンに気持ち良さや味わいが存在している点は高評価。意外とパワフルでスポーティに走らせることも許容するキャラクターもいい。排気音はしっかりと消音されながら音質も悪くない。車体がコンパクトで使いやすく、日常的使い方からツーリングシーン、軽めのスポーツライディングまで汎用性が高いのも○。
「ハーレーXシリーズ、ここが気になる」
ハーレーが独自に手を加えた部分があるようだが、ベース車は他メーカー製なので、エンジンの「ハーレーらしさ」は非常に薄い。同じ排気量でハーレーオリジナル設計のマシンにも期待。足まわりの作動性は課題点。価格など加味すると及第点だが、ギャップなどでの突き上げがやや強い。あとはハーレーらしいカスタムパーツが欲しい。
レポート●鈴木大五郎 写真●山内潤也
ハーレーダビッドソン X350主要諸元
【エンジン・性能】種類:水冷4ストローク並列2気筒 ボア×ストローク:70.5×45.2mm 総排気量:353cc 最高出力:27kW<36.7ps>/9500rpm 最大トルク:31Nm<3.2kgm>/7000rpm 燃料タンク容量:13.5L 燃料消費率:20.4km/L 変速機:6段リターン
【寸法・重量】全長:2110 全幅:785 全高:1110 ホイールベース:1410 シート高:777(各mm) 車両重量:195kg タイヤサイズ:F120/70ZR17 R160/60ZR17
【カラー】
パールホワイト、ダイナミックオレンジ、スーパーソニックシルバー、ドラマティックブラック
【価格】
69万9800円
■倒立式のフロントフォークはインナーチューブ径41mmで伸側減衰力の調整が可能。フロントブレーキはウェーブ形状のダブルディスク。
■リヤサスペンションは車体右面にマウントされるモノショックでリンクレス。プリロードと伸側減衰力を調整可能。
■シンプルな円形のメーターは外周にアナログ指針式速度計、下部に液晶モニターというレウアウト。液晶には回転系、オド・トリップ、時計を切り替えで表示できる。
■灯火類はすべてLEDを採用。ヘッドライト中央には「HARLEY-DAVIDSON」のロゴが入る。ウインカーは鋭角的な形状。テールライトはシートカウル後端にビルトインされ、シャープなリヤ周りのデザインを構築している。
ハーレーダビッドソン X500主要諸元
【エンジン・性能】
種類:水冷4ストローク並列2気筒DOHC4バルブ ボア×ストローク:69×66.8mm 総排気量:500cc 最高出力:35kW<47.6ps>/8500rpm 最大トルク:46Nm<4.7kgm>/6000rpm 燃料タンク容量:13.1L 燃料消費率:20.4km/L 変速機:6段リターン
【寸法・重量】全長:2135 全幅:875 全高:1150 ホイールベース:1485 シート高:820(各mm) 車両重量:208kg タイヤサイズ:F120/70ZR17 R160/60ZR17
【カラー】
パールホワイト、ダイナミックオレンジ、スーパーソニックシルバー、ドラマティックブラック
【価格】
83万9800円
■倒立のフロントフォークはインナーチューブ径50mmと極太!伸側減衰力の調整が可能。フロントブレーキはダブルディスクで、X350よりも大径のものを装備する。
■リヤサスペンションは車体右側にマウントされ、リンクレスのモノショック。プリロードと伸側減衰力の調整が可能で、プリロード調整はダイヤルを回すだけで簡単に操作できる。
■灯火類はすべてLEDで、ヘッドライトはX350と同様。一方、ウインカーはレトロな印象の丸形となる。一見テールライトが無いように見えるが……ウインカーがテールライトとして機能する。ハーレーダビッドソンの大排気量モデルでも用いられている手法だ。
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