どんなクルマ?
text:Shigeo Kawashima(川島茂夫)
photo:Toshikazu Moriyama(森山俊一)
ロゴの後を受けて開発された「フィット」は、それまでタウン&パーソナル用途向けだったスモール2BOXを、ファミリー用途に対応できる即ちファーストカーの資質を備えたモデルとして開発された。
スモール2BOXの革新といっても過言ではない。
ファミリー用途に適応できる実用性をもたらしたのは、ロングキャビン設計とセンタータンク・レイアウトであり、これは以後のフィットに採用されるだけでなく、ホンダのコンパクトカーの基本にもなっている。
3代目となる先代ではスポーティ&プレミアムのキャラを打ち出したが、新型では再びファミリー路線の強いモデルとなった。
と言ってもスペースもキャビン機能で大きく変わった訳ではない。ホイールベースも含めて車体寸法は先代を踏襲し、室内長も同等である。
変わったのは雰囲気だ。外観の変化が雄弁だが、室内の雰囲気も違っている。
広い視界 後席の見晴らしも
一見するとフロントウインドウ周りは一般的な構造のように思える。
だが、フロントピラーはドア前に設置され、フロントウインドウとクォーターウインドウ間は細く、桟のような構造。
桟で継いだ中折れ型フロントウインドウと理解してもいい。
このフロントウインドウの開放感は独特だ。慣れるまではその晒され感で不安を覚えるほど。
しかも、前席だけでなく後席からの見晴らしも拡がり、前後席から1つの展望窓を覗いているような車内の雰囲気は独特だ。
一応、運転死角が少ないという長所もあるのだが、家族や友だちとの遊びに出掛けた時の盛り上げ効果が一番。「ドライブの醍醐味は風景だ」なのである。
ハイブリッドの仕組み
走行ハード面での注目は、ハイブリッド車のパワートレイン。
従来車は、DCTと組み合わせた1モーター2クラッチのパラレル式を用いていた。
新型ではエンジンを発電機として用い、駆動は電動モーターで行うシリーズ式をベースに、巡航用のエンジン駆動機構を備えた「e:HEV」を採用した。
もっとも、コンパクトクラス用に全面新規開発されているものの、システム構成はi-MMDと共通であり、フィットから名称をe:HEVに改めている。
これにより、特別な高性能車以外はホンダ・ハイブリッド車はe:HEVが主力となることが決定した。
どんな感じ?
お温習いがてらi-MMD改め「e:HEV」の基本構成と狙いを。
シリーズ式は発電機によって発電した電力により駆動用電動モーターを稼働、もしくは駆動用バッテリーを充電。駆動力と回生ブレーキは100%電動モーターが賄う。
構造面では発電機搭載の電気自動車と考えてもいい。
そのため電気自動車の短所である高回転域における効率低下も引き継いでしまう。
具体的には高速域での加速性能と燃費(電費)の低下だ。その弱点を改善すべくe:HEVは、高速巡航時のみエンジンのパワーで駆動輪を駆動し、この状態では状況に応じて電動モーターがパワーアシストや発電を行うパラレル式と同じように振る舞う。
エンジン駆動系の減速比はトップギア相当の固定であり、高速域でも加速などで負荷が大きくなると解除されてシリーズ式に復帰する。
フィットの場合、e:HEV車の直動中のエンジン回転数1000rpmの速度は、約40km/h(計算値)となる。
「e:HEV」の走りとは
実走行では、ドライバビリティも安定する1500rpmを超える60km/h以上が直動の実用守備レンジとなり、バッテリーの蓄電量にもよるが、巡航と緩加速の70~100km/hなら大半で直動を維持する。
ATに比べると巡航回転数が高めにも思えるが、速度と回転数が完全に一致し、CVTのようにアクセル開度で回転数が揺らがないので、余力感の高い巡航感覚を示す。
もちろん、本格的に加速に移行すれば直動解除で電動モーターのパワーを活かした俊足を示す。機能としてはAT車のダウンシフトのようなものだが、電子制御と電動の効果で僅かな“間”もなく加速に移行。
シリーズ/パラレルの切替は自然で滑らかである。
つまり、高速の燃費と余力感の「直動」、加速力や力強い踏み込み反応の「電動」。それをシームレスかつ上手に使い分けてるのが「e:HEV」のドライブフィールの特徴なのだ。
乗り心地 先代と違いは?
フットワークは改良型の印象が強い。
車軸周りの細かな揺れや路面当たりの強さは改善され、乗り心地は穏やかで落ち着いているが、バネっぽい収束感の甘さや揺れ返しなど、乗り味に従来車とよく似た部分がある。
ただ、乗り味の質感で新味は薄いが悪い気はしない。クルマのキャラと走りの嗜好が一致していて自然に受け入れられた。
前述の先代短所の改善だけでなく、フットワーク全体を和やかなドライブ向けにシフト。
ファントゥドライブにこだわるホンダ派は日和った印象を覚えるかもしれないが、和気藹々のドライブを中心としたクルマのある生活には似合いだ。
ホームは「買い」か?
まったくクルマに興味がない友人夫婦と一緒にドライブに出掛けた後に、友人夫婦に「うちもクルマを買おうか」と思わせる。多分、フィットが目指したのはそういうクルマだろう。
フィットには試乗グレードの「ホーム」以外に「ベーシック」「ネス」「リュクス」「クロスター」が用意され全5グレード構成となる。
装備の違いもあるが、いわゆる松竹梅的なレベルを示す設定ではなく、嗜好的な差異に基づく。その点ではグレード展開ではなく、トッピングされるキャラ設定の差と考えていい。
一応、ネスがスポーティ、リュクスがラグジュアリーとなっているが、基本機能や性能に大きな違いがある訳ではない。大径タイヤと専用サスで最低地上高を25mm増としたクロスターが、その外観どおりに悪路対応力を向上させているくらい。
また、ネスの「スポーティ」はスポーツドライビング向けという意味ではなく、アスリート志向のアウトドア派のための意。クロスターとともに撥水加工シートを採用するが、ネスの場合は汗をかいた身体でも気兼ねなく乗れるようにとの配慮である。
ユーザーのライフスタイルに合わせた最後のフィッティングを考えたグレード設定なのだ。
ハイブリッド車では値ごろ
試乗した「ホーム」はその名のとおりタウン&ファミリー用途向けのウェルバランス仕様。
フィットの基本コンセプトに忠実なモデルといえる。
ホンダコネクトを含むナビ装着用スペシャルパッケージはOP設定になってしまうが、利便快適装備はネス以上と共通。
全車速ACCと走行ライン制御型LKA(レーンキーピングアシスト)を含むホンダセンシングを標準採用し、燃費と動力性能に余裕のあるハイブリッド車なら高速長距離適性も向上する。
価格は206.8万円(FF)である。
ガソリン車との価格差は約35万円であり、スモール2BOX車としては高価だが、汎用性の高いハイブリッド車としてはかなり手頃。
生活の場から遠出まで楽しい思い出を作るための投資としては安いくらい。クルマの存在価値を再認識させてくれるモデルである。
試乗車スペック
ホンダ・フィットe:HEVホーム(FF)
価格:206万8000円
全長:3995mm
全幅:1695mm
全高:1515mm
最高速度:-
0-100km/h加速:-
燃費(WLTC):28.8km/L(16インチ/ナビPKG:27.4km/L)
CO2排出量:80.6g/km(16インチ/ナビPKG:84.7g/km)
車両重量:1180kg
ドライブトレイン:直列4気筒1496cc+モーター
使用燃料:ガソリン
最高出力(エンジン):98ps/5600-6400rpm
最大トルク(エンジン):13.0kg-m/4500-5000rpm
最高出力(モーター):109ps/3500-8000rpm
最大トルク(モーター):25.8kg-m/0-3000rpm
ギアボックス:電気式無段変速
乗車定員:5名
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みんなのコメント
アイドリングストップしない、燃費数値がどんどん下がると
レポートされてたけど、実際に買ったユーザーの皆さん、
この猛暑の中で実際の燃費はどうですか?