11月17~19日、2023年MotoGP第19戦カタールGPが行われました。ファビオ・ディ・ジャンアントニオやルカ・マリーニなどの活躍、チャンピオン争いは決勝でホルヘ・マルティンが失速するなど最終戦のチャンピオン争いに向けてのトピックスがありました。
そんな2023年のMotoGPについて、1970年代からグランプリマシンや8耐マシンの開発に従事し、MotoGPの創世紀には技術規則の策定にも関わるなど多彩な経歴を持つ、“元MotoGP関係者”が語り尽くすコラム第24回目です。
決勝10位のマルティン、後退の原因をリヤタイヤと説明。「まるでウエットコンディション」/第19戦カタールGP
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--今回も終わってみれば、スプリントも決勝レースもドゥカティの圧勝と言う結果になりましたね。初日はアプリリアとKTMの好調ぶりが目立ったんですが、公式予選以降はやはりドゥカティ強し、と言う感じでした。
ドゥカティの圧勝ではあったけれど、その顔ぶれがいつもと違って、グレシーニチームのふたりがやたらに元気良くてチャンピオン争いをかき回している感じだね。
ダークホースが活躍するのは、レースを見ている側にとってはウェルカムだけれど、コメントを求められたドゥカティのボスは予想外の展開と結果に明らかに表情が硬かったよ(笑)
--前回のマレーシアGPではアレックス・マルケス選手がスプリント優勝でレースが2位、今回はファビオ・ディ・ジャンアントニオ選手がスプリント2位でレース初優勝と大暴れしていますね。
まさかレースでトップを走るフランセスコ・バニャイア選手を抜くとは思わなかったよ。2位にとどまっていれば、バニャイア選手とマルティン選手のポイント差は21では無くて26になるはずだったから、その辺りの忖度は全く無しってことだね。
スプリントではマルティン選手を抜かなかったので忖度したのかと思ったけど…… その辺りが表情の硬かった理由だな(笑)
--VR46のルカ・マリーニ選手もポールポジションからスプリント3位でレースも3位と、突然の覚醒という感じですが、何があったんでしょう?
さあ、何があったんだろう(笑)
スプリントではリヤタイヤのグリップが4周で終わってしまったので、それが無ければ優勝も狙えたはずと思っているようだから、今までマルコ・ベゼッチ選手の活躍と対照的に存在感がイマイチだったのとは大違いだ。
噂ではマルク・マルケス選手の後任としてレプソル・ホンダへの移籍が濃厚という事だけど、そういう事も心理的に後押ししている要因かもしれないね。
--マリーニ選手のレプソル・ホンダへの移籍は実現しそうですか?
異父兄のバレンティーノ・ロッシに相談したら、「絶対に止めとけ」と言うんじゃないかな。彼がヤマハに移籍を決めた当時のホンダと、今のホンダとそれほど変わったようには見えないし(笑)
ただ兄弟といっても年齢が18歳も違うし、マリーニ選手にとってはその存在が偉大過ぎるが故の苦悩みたいなものは有るかもしれないな。現在の恵まれた環境も、偉大な兄の七光りのおかげと陰口を言われる事もあるだろうし、兄の庇護の下から離れて、自分なりの挑戦をしてみたいという思いがあっても不思議ではないよね。
確かに今のホンダのマシンは、誰にも乗りこなせない難しい代物だし、それが来シーズンから劇的に変化するとも思われない。とすると、少なくとも2年契約でなければ結果を出すことは難しいけれど、当のホンダは2025年以降の選択肢を広げるために1年契約を提示しているらしいから、それで他のライダーとも話がまとまらないらしいよ。
つまり、マリーニ選手がホンダと合意に至るには、ホンダが彼に対して、その場しのぎではないしっかりとしたビジョンを示すかどうかに掛かっていると思うね。
--今回初優勝を飾ったジャンアントニオ選手も候補に挙がっていたようですが、今回の優勝でまた交渉が復活する可能性はあるんでしょうか?
どうだろう?
ジャンアントニオ選手にしてみたら、何があってもMotoGPに留まりたいという思いはあるだろうけれど、その場しのぎの使い捨てみたいな扱いは嫌だろうし、やはりホンダが1年契約にこだわっていると話はまとまらないような気もするね。
ホンダとの直接契約ではないけれど、LCRとの2年契約でホンダに乗ることを決めたヨハン・ザルコ選手のように、来シーズンは苦労するけれど2年目に賭けるという覚悟が必要だし。
--ところで、スプリント優勝と強いマルティン選手が戻って来たと思ったのも束の間、レースでは本来の走りが出来ずに10位という不本意な結果に終わりましたね。
スタート直後のリヤタイヤのスピンで危うくクラッシュしそうになって、立て直す間に出遅れてしまったのが敗因だけれど、いつものマルティン選手なら序盤にポジションを回復できたはず。
それが付いていくのがやっとという有り様だったから、彼がインタビューでコメントしたように「外れタイヤを」引いてしまったというのは真実かもしれない。
--そういえば、マリーニ選手やバニャイア選手も、タイヤの個体差があるようなことを匂わせていましたが、そういうことはあり得るんですか?
ミシュランタイヤに限らず、タイヤというのは化成品だから、製造工程や製造後の管理状態、使用条件で性能は大きく変わることがあるんだよ。その昔、SBKでは某イタリアメーカーがサプライヤーだったけれど、ライダーの間ではレース結果はタイヤの引きしだい、と言うのが共通認識だったらしいよ(笑)
ミシュランタイヤはそこまでではないと思うけれど、やはりmade in Japan ほどの品質面での信頼性は期待できないと思うね。それにケミカルの開発に重きを置いた結果として、タイヤ性能が期待値通りに発揮される条件がシビアになっている感じがするね。
そもそもこのトラックは砂漠の真ん中にあるし、海からも近いし、ましてや気温の下がる夜間のレースという事で、トラックコンデイションが刻々と変化するんだよ。
--マルティン選手がスピンしたのもそういう事が関係しているんでしょうか?
夜になって気温が下がると、日中に海から吹いてきた湿気を含んだ大気が結露して霧状になり、トラックが濡れる事が良くあるんだよ。と言っても前日のスプリントの方が湿度は高いし気温も低いのに特に問題はなかったようだから、このアクシデントはマルティン選手のクラッチリリースが早すぎたか、路面が部分的にスリップしやすかった事が考えられるね。
大昔の話だけれど、グリッド付近の路面が滑りやすいので、バレンティーノ・ロッシ選手のクルーがスクーターを持ち込んで、タイヤ痕を付けてグリップを増そうとしたのがバレてグリッド降格のペナルティを受けたことがあったな(笑)
--MotoGPマシンのECUはローンチコントロールが標準機能で備わっているので、ああいったトラブルとは無縁だと思ったのですが……
共通ECUになってからどういう制御になっているのか知らないけれど、基本的にはスロットル全開にしてエンジン回転数を制御で一定に保ち、半クラッチ状態でスタートするのが一般的な方式で、クラッチをつないでしまったらエンジン制御は介入しないのでトラクションコントロールは効かない、つまり今回のようにスピンすることもあり得る。
共通ECU以前はウイリーを防止したり、トラクションを最大限に発揮するスリップ率でエンジンを制御する方式もあったらしいけれど、共通ECUではそういう高度な制御はしていないようだね。
--そこでアプリリアとKTMは半自動クラッチを開発したわけですね?
この間使用禁止になったというアレだね(笑)
どんな構造なのか公開されていないから、想像でしかないんだけれど、おそらくは最近ホンダが市販車技術として発表した『eクラッチ』に近い物ではないかな。
電子制御デバイスに関するレギュレーションを回避するために、基本的にはクラッチ操作はライダーがするけれど、実際にクラッチの断続を行うのは電子制御されたアクチュエーターなので、車両加速度やリヤタイヤのスリップ率に応じてスロットル開度やクラッチの伝達力を制御していると思われるね。
当初はグレーゾーンなので使用OKになっていたらしいけれど、他メーカーから異議申立てがあって使用禁止になったらしい。でも、この技術自体は目新しいものでは無くて、市販車ではヤマハのFJR1300Aで既に実用化されているんだよ。
--レースとは関係ないですが、ホンダが『eクラッチ』を今頃新技術として発表した狙いは何でしょう?
恐らくはマニュアルミッション車の購入に対する敷居を下げ、間口を広げる事じゃないかな。慣れないうちはクラッチを使わずシフトペダルに意識を集中し、慣れてきたらクラッチ操作もトライしてみるとか。握力の低下した高齢ライダーにも喜ばれるかもしれないし、ひょっとしたら『eクラッチ』装備車はAT免許でも乗れるようにロビー活動しているかもしれないよ(笑)
--話は逸れてしまいましたが、チャンピオン争いは、かなりバニャイア選手に有利になってきましたね。
スプリント終了時に7ポイント差に迫ったので、この調子でもう少し差を詰めて最終戦というのが理想的だったのに、逆に差を拡げられてしまったのはマルティン選手にとっては正直痛い。
チャンピオン争いをしているふたりは、少しのミスも犯せない緊張感でレースをしているに対して、失うものが無い連中が大暴れしているのが目障りかもしれないけれど、平常心を失うことなく、最後までフェアなレースで勝負を決めて欲しいものだね。
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