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【F1チームの戦い方:小松礼雄コラム第7回】難コースで攻めるためのタイヤ配分と、疑問が残るFIAの取り締まり

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【F1チームの戦い方:小松礼雄コラム第7回】難コースで攻めるためのタイヤ配分と、疑問が残るFIAの取り締まり

 2021年シーズンで6年目を迎えたハースF1チームと小松礼雄エンジニアリングディレクター。再び市街地コースでの戦いとなった第6戦アゼルバイジャンGPも、他チームとは異なるタイヤの使い方を選び、新人ドライバーふたりに走行経験を積ませ、フリー走行ではテストも行ったという。一方、今回はダブルイエローフラッグ下での安全面に対する懸念がまたも浮き彫りになった。そんなアゼルバイジャンGPの現場の事情を小松エンジニアがお届けします。

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ベルガー、ハースF1の同士討ち寸前のバトルに「自分たちの時代ではあんなことは当たり前だった」

2021年F1第6戦アゼルバイジャンGP
#9 ニキータ・マゼピン 予選18番手/決勝14位
#47 ミック・シューマッハー 予選17番手/決勝13位

 モナコに続き、再び市街地サーキットでのレースとなりました。バクー市街地サーキットはグリップが低くて路面コンディションも悪く、毎年特にFP1の走り始めは苦労します。ブレーキロックも起こしやすく、なかなか1周をうまくまとめるのが難しいサーキットなので、FP1からドライバーをできるだけ走らせることを最優先にプログラムを組みました。

 同じ市街地コースでもモナコとの最大の違いは、ストレートが2kmあり、オーバーテイクができることです。追い抜きのために最高速を稼ごうとドラッグ(空気抵抗)を削ったセットアップにすれば、どうしてもダウンフォースが減るので運転するのが難しいクルマになります。ターン1、3、15では一気にかなり強くブレーキを踏まなければいけないのですが、ダウンフォースを削ったクルマではなかなか限界を見つけにくく、それゆえにミスも多くなります。テレビでは、よくブレーキングに失敗してエスケープロードに逃げたクルマが見られますよね。予選ではアントニオ・ジョビナッツィ(アルファロメオ)とランス・ストロール(アストンマーティン)がターン15のブレーキに失敗してクルマを壊しました。ですからなかなか気の抜けないサーキットです。

 とはいえ攻めないといけないことには変わりないので、今回も他チームとは異なるタイヤの使い方になりました。前回のコラムで書いた通り、タイヤの使い方はレースと予選でどのタイヤが何セット必要なのかを考え、そこから逆算してフリー走行の配分を決めます。今回の場合、予選Q1でソフトタイヤは通常2セット必要になります。しかしここはとにかく赤旗が出る可能性が高く、残り時間次第では赤旗後に2回アタックできるので、Q1に向けては予備も含めて3セット用意。フリー走行に関しては、予選練習を行うFP3で2セット、FP1とFP2でも1回は予選の練習を行うために1セットずつ使うことにしました。

 こうしてソフトの使い方を決めた後に、FP1とFP2のもう1セットの選択をします。先にも書きましたがFP1は路面コンディションが悪く、ハードタイヤで走り始めるとグリップ不足でクラッシュしてしまう可能性もあるので、ミディアムタイヤで走り始めることにしました。FP2ではレースで使うメインのタイヤになると予想されていたミディアムをニキータのロングランに選択。もしミディアムがよかった場合は、ミックもロングランをできるように選択しておきました。

 バクーではFP2、予選、レースがすべて午後4時に行われるため、FP1やFP3に比べて路面温度が6~7度ほど下がってきます。ですからレースで使われると予想されるタイヤは、レースに近い状況のFP2でしっかりと走っておきたかったんです。実際、FP2のニキータのハードでのロングランを見て、しっかりとレースで使えるタイヤであると確信を持てましたし、また、ミディアムがあまりよくないということも確認できました。

■ミック・シューマッハー、リスタートでの追い抜きを狙うもタイヤ交換でタイムロス
 FP3では通常の場合ソフトを2セット使いますが、ウチはタイヤの使い方に関して試したいことがあったので3セット使いました(ミックは新品2セットと、金曜日に使ったユーズドを合わせて計3セット)。なるべく多くのタイヤを使って、新人ふたりをできるだけ走らせて予選練習をさせることも目的ですが、これもQ1のことしか考えなくていいからできることです。

 そのQ1では当初は3周走ってタイムを計測し、一度ピットに戻り、再度同様に3周走るという計画でした。ここは黄旗が出る可能性が高く、とにかくラップタイムを出しておくというのが重要なので早くコースに出て行きたかったのですが、最初のランでは結局アウトラップで渋滞の真ん中にはまってしまい、1周目のアタックを始めた段階で予定より20秒遅れていました。

 そこで3周目、最後のアタックラップは諦めよう(時間が足りないので)と思っていた矢先にストロールのクラッシュで赤旗が出ました。僕たちは事前に、もし残り14分の時点で赤旗が出たら再開後に2ランできるし、残り11分だったら1ランだと考えており、赤旗が出たのが残り14分1秒のところだったので、迷わずプランを変更しました。

 ここでニキータが新品ソフトを履かなかったのは、FP3で新品を3セット使ったので、Q1では2セットしか持っていなかったからです。それでもこの時のタイムは1分44秒281で、1分44秒254のミックとあまり変わらなかったのでよくやってくれたと思います。2回目の赤旗の後もニキータはミックより0.5秒ほど速かったのですが、最終コーナーで突っ込みすぎてしまい大きくタイムロスをしました。もしそれがなければ1分43秒6くらいを計測できたはずです。それでもウイリアムズとは0.5秒離れているけれど、新人ドライバーにとっては難しいこのコースでそれくらいのタイムを出せていたら、それほど悪い結果ではなかったと思います。

 レースは予定どおりソフトとハードを使い、ソフトのパフォーマンスが落ちてきたら早めにピットインする予定でした。結局ミックが8周目、ニキータが9周目にピットインしましたが、トラフィックのことを考えるともう1周早くてもよかったです。というのもニキータはインラップで、先にピットインしたフェルナンド・アロンソ(アルピーヌ)などに抜かれてタイムロスがあったので、本当はそれを避けたかったです。

 30周目にはストロールのクラッシュがあり、この時点でハードで最後まで走ることは可能でした。でも何かしないとウイリアムズの前には出られないし、失うものもなかったので、ソフトに交換して再スタートでチャンスを伺うことにしました。ただこのピットストップでミックの左フロントタイヤ交換がうまくいかず、かなりタイムをロスをしてしました。

 よってミックはレース再開時に隊列に追いつくことができず、タイヤ交換の狙いだった再スタートでの追い抜きの機会を潰してしまいました。それに加えて、前のクルマに追いつこうとひとりプッシュして走っていたのでタイヤが傷み、結果的に6周ちょっと走った段階でタイムが大幅に落ちてしまいました。後方ではニキータも同じ状況だったので、ふたりとももう一度タイヤ交換するハメになったしまいました。ここら辺りは今回の反省点です。

 残り3周でフェルスタッペンのクラッシュで赤旗中断となりました。ここではソフトタイヤを履き、再スタート後はニキータがターン3でミックをオーバーテイク。そこまではよかったのですが、最後にピットストレートでミックに幅寄せしたことは褒められません。レース後にギュンター(シュタイナー/チーム代表)と一緒にニキータに話をして、ニキータはミックにもチームにも謝りました。

 とはいえ、なんとか荒れたレースを走り切り、13位でミックが完走したので、今までのベストが14位だったウイリアムズを上回りコンストラクターズランキングで9位に上がりました。もちろん、ポイントも獲れていない状況で喜ぶことはできませんが、今年のチーム状況を考えればこれは重要なことなので、素直に受け取っています。

■減速が不十分だったドライバーをまたも見逃したFIA

 また今回のレース中にダブルイエローが振られていた際に、十分な減速をしなかったドライバーが大勢いたので、ギュンターがレース後に正式に抗議するかどうかをマイケル・マシ(FIAレースディレクター)と議論しました。

 フリー走行や予選では、もしダブルイエローが振られた場合はすぐにラップを中断しなければいけないのですが、レースではそのような規則はありません。それがグレーなところで、2019年のブラジルGPではカルロス・サインツ(当時マクラーレン)がダブルイエロー下でDRSを使いました。今回はダブルイエローが振られていた時に多くのドライバーが減速せず、問題の区間で通過速度が通常時と比べて0.1秒しか変わらなかったドライバーが4人いたので、それでは減速したとは言えないのではないかと主張しました。

 ところがマシは「全員を罰するのはよくない」「それではレースができない」と言うんです。しかしデータを見れば0.1秒しか減速していないドライバーが4人だというのは明白で、全員ではありません。事実を見て、どうすれば安全面を優先して、的確にペナルティを出せるかを考えるべきです。きちんと細かいところに目を向けて、事実に基づいて建設的に話をするべきだと思いますが、今回の件では残念ながら水掛け論になっていた感があります。

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