1998年のイギリスF3でチャンピオンに輝いたのは、ブラジル人ドライバーのマリオ・ハバーフェルドだった。
ハバーフェルドは、エマーソン・フィッティパルディ、カルロス・パーチェ、ネルソン・ピケ、チコ・セラ、アイルトン・セナ、マウリシオ・グージェルミン、ルーベンス・バリチェロに次いで、イギリスF3でチャンピオンに輝いた8人目のブラジル人となった。そこに並ぶ名前を見れば、当然ハバーフェルドも将来が有望視された。事実、彼以外の全員が、F1で活躍している。
■”爆発”する個性……史上最もワイルドなデザインのF1マシントップ50
ハバーフェルドもマクラーレンやジョーダン、そしてスチュワートのF1マシンをテストドライブしたが、国際F3000に昇格した後の成績は鳴かず飛ばず。1年目の1999年にはウエスト・コンペティション・チーム(別名:マクラーレン・ジュニア)で走ったが、無得点に終わってしまう。一方でチームメイトのニック・ハイドフェルドは、王者に輝いた。
F3000での4シーズン目には、開幕戦で2位に入るなど活躍を見せはじめたが、F1に昇格するには不十分。その後、アメリカに渡ってチャンプカーを戦い、さらにグランダムにも挑んだところで、彼のレースキャリアに終止符が打たれた。
ハバーフェルドは、母国ブラジルのストックカーに参戦することもできた。しかしそれに関心を示すことはなく、レースに対してくるりと背を向け、もうひとつ興味を持っていた分野にその情熱を向けることになった。
それは、自然環境の保全運動だった。
ハバーフェルドの母国であるブラジルでは、ジャガーの生息個体数が激減していると言われている。かつてはその毛皮を狙うハンターのターゲットとなり個体数を減らしたが、現在は生息地域の環境が破壊されることに伴い、その数を減少させている。
かつて世界中のサーキットを駆け抜けたハバーフェルドは、今ではブラジルのパンタナル自然保護地域を、四輪駆動車で駆け回っている。
「ブラジルでは、すべての野生動物は政府に”属して”いるんだ」
ハバーフェルドはそう語った。
「彼らにジャガーを保護するための方法を話した時、経歴を尋ねられた。そして僕は『レースカーのドライバーでした』と言った。彼はそれで笑い始めたよ」
「幸いなことに、別の男が私に許可証をくれた。でも彼は、僕がこのプロジェクトを1年で諦めるはずだと言ったんだ。しかしそれから7年後、これはブラジルで最も大きいニュースのひとつになった」
ハバーフェルドは、ジャガー保護の活動について、少し説明してくれた。
「パンタナールの95%は私有地になっている。そこには、たくさんの牛の牧場があるんだ」
そうハバーフェルドは説明する。
「蛇を見た時と同じように、その地の人たちは、ジャガーを殺してしまう。なぜなら、それが(牧場にとって)脅威をもたらすと考えているからだ。だから、彼らはジャガーのことを蛇か何かと同じように考えている。毛皮を探している密猟者もいるだろう。そして、ジャガーを殺せば英雄になるような時代もあった」
「毛皮の産業は、アメリカでは非常に大きいものだった。彼らは毛皮を使った貿易をするために、1年で2万頭のジャガーを殺したんだ。今日では、そんなことに関わろうものなら、刑務所行きを余儀なくされるだろう。しかし現時点で最大の問題となっているのは、牛を食い殺したジャガーに対して報復しようとしている農民たちの存在だ」
「私が世界各地を訪れ学んだことは、エコツーリズムを行うことで、動物たちにその利益を還元するということだ。将来、もし農民たちがジャガーを殺せば、収入を失うのと同じようなことになってしまう」
「そういう例を、アフリカでたくさん見てきたのだ。カバだけを観に行く人はほとんどいないだろう。カバは素晴らしいけどね。しかし、ライオンを観に行く人はたくさんいる。ライオンの代わりにジャガーがいるブラジルでも同じだ。我々の友人が所有する53000ヘクタールの牧場は、とても環境に配慮している。現地の農家は、1年に数頭の牛をジャガーのせいで失うことを知っている。しかし、我々が行っているエコツーリズム事業は、それを補填することができるのだ」
ハバーフェルドは、野生のジャガーを守る運動だけでなく、孤児となり人間に保護された子供のジャガーを、野生に戻すためのプロジェクトも手がけている。彼の活動はイギリスの放送局であるBBCで取り上げられるなど、注目を集めている。
ハバーフェルドがレースを辞めたことは、ブラジルの環境保護に恩恵をもたらしていると言えるかもしれない。
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