多様化する近年の高級スポーツカー
text:Matt Saunders(マット・ソーンダース)
【画像】スポーツ・グランドツアラー3台が共演 ローマxDB11xコンチネンタルGT 全99枚
translation:Kenji Nakajima(中嶋健治)
スポーツカーという乗り物は、個人的な好みが選択を大きく左右する。ワインならアルゼンチン、ステーキならミディアムレアを好む人がいるように、自分だけのコダワリがあるはず。
同時に近年の高級スポーツカーは多様化が進み、それぞれが強い魅力を備えている。コレという1台に絞り込むのは簡単ではない。
AUTOCARの編集部なら、どうやって1番の推しメンを選ぶだろう。最速モデルを選ぶべきか、時代に合わせてハイブリッドが良いか。1番軽量なものも悪くないし、重くても純EVというのもアリだ。ワイルドでハードコアなモデルもある。
筆者ならできるだけ多くの車種を運転して、社会的な思想や罪悪感を捨て去り、1番夢中になれるクルマを選びたい。それでも契約書へサインする前に、どれだけ自身の環境で運転できるのか慎重に考える必要はある。どのブランドを選ぶにしろ。
現在のスポーツカー市場の選択肢は幅広い。そして選ぶ時に忘れてはならない核心こそ、現実的にどれだけ乗れるのか、乗れないのかということだ。
日常的な使いやすさほど、オーナーとしての喜びに影響を与えることはないと思う。単純なことだが、スポーツカーのカテゴリーでは忘れられがちなことでもある。個人的な感覚で、その尺度も変わってくるとは思うが。
グランドツアラーのセンターへ返り咲き
そんな利便性を求めて生まれたのが、スポーツ・グランドツアラーという考え方。より乗りやすいスポーツカーだ。エキサイティングでスペシャルで、ラグジュアリー。充分な利便性も兼ね備え、より長時間楽しめる機会を与えてくれる。
筆者は、スポーツ・グランドツアラーというクルマが大好きだ。最新のグランドツアラーは、日常生活に難なく馴染める。当初からそれを前提にデザイン、設計されている。ブランドによって、完成した姿がまったく異なっていても。
中でも別格といえるのが、最新のフェラーリ・ローマ。V8ターボでフロントエンジン・リアドライブのフェラーリは、輝く特徴と若々しさを備え、ダイナミックな訴求力を両立させている。英国価格は17万ポンド(2618万円)なり。
どんなライバルとも、明確に異なる。今回比較するために連れ出した、最も接近しているベントレーやアストン マーティンのモデルとも。
デイトナや250 GT、550マラネロなど、古くからグランドツアラーを生み出してきた歴史を有するフェラーリ。刺激に重点が置かれたスーパーカーばかりに目がゆき、最近はこのカテゴリーで過小評価されていたように思う。
フロントにV型12気筒を収めた上級モデルは、ニッチな存在に落ち着いている。だが最新のローマは、フェラーリをスポーツ・グランドツアラーというカテゴリーでセンターの位置に返り咲かせた。
ライバルを寄せ付けないドライビング体験
見た目は美しくエレガント。力強く興奮を誘う。コンパクトで使い勝手も良い。AUTOCARを定期的にご覧いただいている方なら、すでに試乗レポートはお読みいただけたと思う。
とりわけフェラーリ・ローマで感心させられるのが、シリンダー数や最高出力で勝るアストン マーティンDB11 AMRや、圧倒的にラグジュアリーなツーリング能力を備えるベントレー・コンチネンタルGTと並ぶ存在だということ。
フェラーリは、この2台と渡り合える独自性を生み出した。ニッチ市場といえるスポーツ・グランドツアラーという場所に、新たな領域を開拓したとさえ思う。
フェラーリの動的能力を引き出せば、周囲の距離感を歪めさせ、質量を包み隠すという魔法にドライバーは魅了される。得られるエネルギーやシャープさ、サウンドが一体となるドライビング体験は、ライバルを寄せ付けない。
普段使いもできる実用性に、クラシカルなフロントエンジンというレイアウトが生む優雅さも兼ね備えている。ブランド内のミドシップ・スポーツとも一線を画している。
ローマはまさに、ラテン系のエネルギッシュさが強調された、毎日乗れるスポーツ・グランドツアラーだ。何よりプロポーションが、それを雄弁している。
ボディサイズは、ベントレーやアストン マーティンより小柄。しかも軽量で、DB11より300kgも車重が少ない。ほとんど4気筒のジャガーFタイプに釣り合うほど。
どの角度から見ても惹き込まれるボディ
車内に座ってみても、その通りに感じられる。全高はDB11の方が若干低いものの、ローマのボンネットラインは両車より低い。フロント周りのレイアウトは、かなりタイトに違いない。エンジンの搭載位置も、相当に低める必要がある。
DB11やコンチネンタルGTを郊外の狭い道で運転すると、大きなテーブルを廊下で運ぶように、常に左右の距離を気にしてしまう。ローマなら、遥かに道をたどりやすい。
長距離の安楽性や、味わいの豊かさではライバルに及ばないかもしれないが、ローマも十二分に特別。運転席からの眺めも素晴らしい。ボンネットの谷の両脇に見える彫刻的なフロントフェンダーの峰は、豊かな川を挟むアペニン山脈のよう。魅惑的だ。
ボディのデザインは、どの角度から見ても惹き込まれる。筋肉質でふくよかなアストン マーティンより遥かにシンプルでスリム。ハンサムで堂々としたベントレーより、タイトでデリケート。
試乗車のボディカラーは、ブルーローマと呼ばれる目立たないダークメタリックだったが、静止状態での魅力は2台を凌駕していると感じる。少し女性的で、ネコ科の動物風でもある。意見が分かれるとしても、筆者は好きだ。
車内空間は、この3台では1番狭いと予想するだろう。確かにベントレーにはない、距離の近さがローマのインテリアにはある。それでも、練られたパッケージングのおかげで居心地は良い。
この続きは後編にて。
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