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【中野信治のF1分析/第8戦】気づいた時には遅すぎる現代F1の難しさ。角田裕毅の戦う姿勢とペナルティへの私見

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【中野信治のF1分析/第8戦】気づいた時には遅すぎる現代F1の難しさ。角田裕毅の戦う姿勢とペナルティへの私見

 17年ぶりにコースレイアウトの変更が行われたカタロニア・サーキットを舞台に開催された2023年第8戦スペインGPは、マックス・フェルスタッペン(レッドブル)が制し、ポール・トゥ・ウインで今季5勝目を飾りました。コースレイアウト変更に伴うドライビングやセットアップ作りの変化、雨絡みとなり荒れた予選、そして角田裕毅(アルファタウリ)の戦いについて、元F1ドライバーでホンダの若手育成を担当する中野信治氏が独自の視点でレースを振り返ります。

  ☆  ☆  ☆  ☆  ☆

F1 Topic:審議とペナルティ付与を角田に伝えなかったアルファタウリ。わずか2周で入賞を失うことに

 今回のスペインGPは、2006年以来17年ぶりに最終セクターのシケインが撤廃され、右コーナーが連続しホームストレートに至る、私のF1現役時代(1997~1998年)にも走ったレイアウトに戻りました。おそらく、ドライバーたちにとっても現行のレイアウトの方が、ドライビングをしていて気持ちがいいと感じると思います。

 オーバーテイクに関しても、現行のレイアウトの方が少しやりやすくなったと思います。ただ、最終コーナーで先行する車両の背後につきすぎるとダウンフォースを失ってアンダーステアが出てしまい、直線の立ち上がりで車間が開いてしまうといったケースも考えられるので、前車との間隔を見つつターン1へ向けて一番いいかたちでDRSが使える位置関係を見つけ出さなければいけないという、新たな難しさも生まれたと思います(編注:2006年当時はDRSがなかったため、現行レイアウトでDRSが使用されたのは2023年が初となる)。

 また、比較的低速のターン12を立ち上がると、ターン13とターン14(最終コーナー)と高速の右コーナーが続くことになり、よりタイヤにも厳しいレイアウトになりました。オーバーテイクがやりやすくなった分、タイヤも酷使しやすくなるので、それぞれメリットもデメリットもあります。ただ、マシンを走らせるドライバーの気持ちの良さという部分では、圧倒的に今のレイアウトが優勢と見えました。

 当然、コース終盤のキャラクターが変わりましたので、クルマのセットアップ作りも全体的に変わったと思います。2007年から2022年までの、最終コーナー直前にシケインがあるレイアウトだと、ブレーキのバランス作りも難しかったと思います。後半セクションに向けて特にリヤのブレーキ温度が徐々に上がり、最終セクターではオーバーステアになる、というのがこれまでのパターンだったと思います。

 今回のコースレイアウト変更で、以前ほどリヤのブレーキ温度の心配をする必要がなくなりますが、そうなるとブレーキバランスの作り方やデフのセットアップの仕方なども変化してくると思います。また、それに伴いマシンの走らせ方に関しても変える必要が出てきます。

 カタロニア・サーキットはセクター1でも高速のターン3、続くターン4などの右コーナーがあり、レイアウト変更前から特に左フロントタイヤに厳しいサーキットでした。今回のレイアウト変更で、高速の右コーナーが2つ増えているので、その分さらに左フロントタイヤには厳しくなります。そこはドライビング、クルマのセットアップを含め、気をつけなければいけないポイントのひとつになったと思います。

 レース中に先行する車両の背後を走ると、ダウンフォースを失うので、タイヤのデグラデーション(性能劣化)も大きくなりますし、そうなるとグレイニング(タイヤがグリップを維持できず、スライドした際にトレッド上に発生するささくれ状態)も出やすくなります。ですので、ドライバーもより頭を使って、考えをめぐらせながら走らなければ、タイヤのパフォーマンスを引き出すことができないという点では、難しくなったと思います。

■降雨で荒れたQ1とあわや同士討ちのメルセデス

 今回の予選ではフェルスタッペンが今季4度目のポールポジションを獲得する一方、特にQ1は荒れました。改めて振り返ると、セッション中に雨が降りだし、その雨がどれほど路面を濡らしているのかがわからない中でQ1のアタックを迎えるなど、荒れる条件が整っていた予選だったと思います。F1ドライバーにとっても雨の降り始めにスリックタイヤ(水かき用の溝のないタイヤ)で走ることは困難を極めます。

 はっきりと路面が濡れているところ、乾いているところの判断もつきにくい状況でも、予選ですので、ドライバーはアクセルを踏んでいかなければいけない。そんなプレッシャーのなか、Q1では赤旗原因となったバルテリ・ボッタス(アルファロメオ)を含め、複数のドライバーがミスをしていました。でも、非常に難しいコンディション下での予選となったので、これに関してはドライバーを責めることはできないと思いますね。

 また、難しいコンディション下でドライバーはマシンのバランスがすごく変わったように感じてしまい、そこからスピンやコースオフに繋がったケースもあったと思います。そうなると、マシンに対する自信を失ったり、ドライビングに関する不安など、普段にはない不安や焦りが出てしまう原因になったりもします。

 雨が降ったことでドライバーの心理状況に微妙な変化が生じ、ドライビングがわずかに乱れ、それが最後まで修正できずにQ1を終えることとなったのがシャルル・ルクレール(フェラーリ/予選19番手)だったのではないかと思います。ルクレールに関してはクルマにも何らかのトラブルはあったのかもしれませんが、私はそれだけではなく、心理的な要因もQ1の走りに影響していたのかもしれないと思いました。

 また、ルイス・ハミルトン(メルセデス/予選5番手)とジョージ・ラッセル(メルセデス/予選12番手)が、Q2終盤にストレートで接触する場面がありましたね。映像を目にしただけでは、すごく不可解な接触でしたが、セッション後の本人たちのコメントを確認すると、チームとのミスコミュニケーションだったとのこと。

 当然、チームメイト同士でわざと接触する必要性はまったくありませんので、彼らやチームが評したように、単にミスコミュニケーションだったと思います。ラッセルからすればアタックに入るべく、先行するカルロス・サインツ(フェラーリ/予選2番手)のスリップストリームを使おうと、サインツの方に意識を向けていた。

 一方、後ろのハミルトンはラッセルがスリップを使わせてくれているのかなという感覚。ターン1への進入の際には(レコードラインから)避けてくれるのかなと思いきや、という状況だったのかと思います。

 今のF1は非常に速く、何かが起きて気がついた際にはもう避けることができない、間に合わないというケースが多々あると思います。だからこそサーキットトラッカー(コース上のどこにマシンがいるのかをディスプレイで確認できる)を見ることができるチームが、他車のセクタータイムも見つつ、誰がアタックに入っているのか、位置関係もドライバーにしっかりと伝えておかないと、ああいったアクシデントは今後も起きてしまうと思いますね。

■角田裕毅にとってスペインGPで得たものを次戦に繋げられるかが大切

 決勝はフェルスタッペンが今季5勝目かつ、今季4度目のポール・トゥ・ウインを果たしましたが、やはり今回のレースで大きな印象を残したのは裕毅の走りです。今回の裕毅は15番手スタートから着々と順位を上げ、中盤から入賞圏内を走行していました。

 ですが、レース終盤の周冠宇(アルファロメオ)とのバトルの際、2台はほぼ並びながらコースインするかたちとなるなか、周がターン1をコースオフ。これについて、裕毅に5秒のタイムペナルティという裁定が下り、9番手でチェッカーを受けた裕毅は12番手にポジションを下げる結果となりました。

 この件に関してはさまざまな意見が世界中で飛び交いましたが、何が正しいかは本人たちにしかわからないことだと思います。どのような意図であのライン取りとなったのかはわかりません。ただ、中継映像だけを見ていると、仕方がないことだと私にも見えましたし、裕毅へのペナルティの裁定は少し微妙かなとも思いました。

 ですが、レース後にスロー映像を含めいくつかの映像を確認すると、(ターン1の)クリッピングポイントに入った時点で周がわずかに前に出ていました。今のドライビングスタンダードガイドラインに照らし合わせると、その場合は周にレーススペースを確保する権利があり、裕毅は1台分のスペースを周に対し残しておかなければいけません。

 マシンの角度やステアリング角度も含め、ガイドラインに照らし合わせて見ていると、周がエスケープロードに行かなければ接触していただろうというのは正しいと思います。そういったガイドラインがあったので、裕毅に対する5秒のタイムペナルティに関しては仕方がないのかなと思いますし、アルファタウリがこの裁定に抗議をしなかった理由も、おそらくはガイドラインを熟知した上でさまざまな映像を確認し判断したからだと思います。

 でも、裕毅のポジションからすれば自分もレースをしているわけですし、あの場面では周が前なのか、裕毅が前なのかは結構際どかったので、あそこで裕毅が取った戦い方に関しては、ドライバー目線では決して間違ったことではないと思います。

 ただ、ガイドラインに従って見るとあそこはもう少し減速するべきだったかもしれません。でも、あの時点ではもう減速も間に合わなかったと思います。だからこそ、あの裁定はすごく微妙ではあります。ですが、ガイドラインに照らし合わせると、そういう(角田に対する5秒のタイムペナルティの裁定)見方になってしまうかたちになります。

 私はペナルティの判定に注目するよりも、今回のレースで裕毅とアルファタウリが何を得て、何を次のレースに繋げられるかが本当に大切なことだと思います。何よりも、スペインGPでの裕毅の走りはスタートからチェッカーまで、当然ペナルティはありましたが、本当に素晴らしい走りを見せてくれましたし、チームのストラテジーも、ピットストップも素晴らしかったです。

 今の段階で1ポイント、2ポイントを失ったことは、F1関係者にとっては正直、関係ないことです。それよりも、裕毅がこのレースで見せた走りの質の高さ、あの場面で引かない姿、戦う姿勢を見せたことが、チーム関係者からの評価にも繋がると考えます。そういった点から見てみると、このスペインGPは裕毅にとってもポジティブなレースだったと思いますし、裕毅もそれをわかっていると思います。

 だからこそ、このペナルティの件を今後引きずるようなことはないと思います。すでに次のカナダGPに向けて気持ちを切り替えていると思いますし、私自身そうあってほしいとも思います。

 次のカナダGPは私がF1で初めてポイントを獲得したジル・ビルヌーブ・サーキットが舞台です(1997年第7戦/決勝:6位)。セント・ローレンス川の人工島にあるため、他のサーキットとはまた雰囲気も違い、カナダや隣接するアメリカからも熱心なF1ファンが集結し、とても盛り上がるグランプリです。

 サーキット自体も特殊で、ストリートサーキットのような路面かつ、超高速レイアウトでダウンフォースも少ない。他のどのサーキットともキャラクターが異なるサーキットですから、ここに狙いを定めたアップデートの投入による勢力図の変化など、サプライズがあるかもしれません。

 ストレートスピードでレッドブルに遅れを取っているアストンマーティンもアップデート投入という話もありますので、その改善によりアストンマーティン、そしてスペインGPでダブル表彰台を獲得したメルセデスが、どこまでレッドブルとの間合いを縮めることができるのかなど、次戦のカナダGPも楽しみな要素の多いレースとなりそうです。

【プロフィール】
中野信治(なかの しんじ)
1971年生まれ、大阪府出身。無限ホンダのワークスドライバーとして数々の実績を重ね、1997年にプロスト・グランプリから日本人で5人目となるF1レギュラードライバーとして参戦。その後、ミナルディ、ジョーダンとチームを移した。その後アメリカのCART、インディ500、ル・マン24時間レースなど幅広く世界主要レースに参戦。スーパーGT、スーパーフォーミュラでチームの監督を務め、現在はホンダ・レーシング・スクール・鈴鹿の副校長として後進の育成に携わり、インターネット中継DAZNのF1解説を担当。
公式HP:https://www.c-shinji.com/
公式Twitter:https://twitter.com/shinjinakano24

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みんなのコメント

4件
  • 女子テニスもそうだけど
    外人は勝つためなら平気でウソもつくし
    違反申告する
    もし通らなくても問題ないし
    失格させる事ができればラッキー
  • ブレーキをレッドブルのと同じにすればモナコとスペインのノーポイントは防げたな。
    周が並ぶ事も無かった。
※コメントは個人の見解であり、記事提供社と関係はありません。

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