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【F1チームの戦い方:小松礼雄コラム第8回】悲喜交々の予選。ニコが2番手獲得、ケビンも「同じことをやれたはず」

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【F1チームの戦い方:小松礼雄コラム第8回】悲喜交々の予選。ニコが2番手獲得、ケビンも「同じことをやれたはず」

 2023年シーズンで8年目を迎えたハースF1チームと小松礼雄エンジニアリングディレクター。第9戦カナダGPでは、ウエットとドライの入り混じる難しいコンディションの予選でニコ・ヒュルケンベルグが2番グリッドを獲得する活躍を見せた。その一方でレースではやはりマシンの弱点が露呈し、2台とも苦戦を強いられた。カナダGPの現場の事情を小松エンジニアが振り返ります。

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マグヌッセン、デ・フリースとの一件について裁定に不満なし「彼がミスをして僕を巻き込んだだけのこと」/F1第9戦

2023年F1第9戦カナダGP
#20 ケビン・マグヌッセン 予選14番手/決勝17位
#27 ニコ・ヒュルケンベルグ 予選2番手/決勝15位

 カナダGPの予選では、ニコが2番手という今シーズンベストの結果を出してくれました。以前にも書いたように僕はウエットで刻一刻と状況が変わるような予選が好きなのですが、実は今回セッション前から僕のパソコンに問題があって、普段だったら普通にできることに時間がかかってしまったので大変でした。特にQ1では走り始めから本来のプランよりも約20秒遅れていたので、Q1最後のアタックはマージンがほとんどなかったです。これに対応するのにいつもより時間がかかってしまいました。

 それでもニコはギリギリで最後のアタックを始められましたが、ローガン・サージェント(ウイリアムズ)に詰まってどうしようもなかったです。反対にケビンは最後のアタックに入れなかったので、ふたりともなんとかQ2に進めたものの個人的にはオペレーション面でよくない予選でした。

 Q2ではニコとケビンは同じプランで、まずはインターミディエイトタイヤで一度だけアタックし、その後ドライタイヤに交換しました。僕の見ている情報ではこれ以上ドライに変えるタイミングを遅らせるわけにはいきませんでした。ニコは指示どおりにドライに履き替えて8番手で無事Q3に進出。しかしケビンは、最後の最後にピットエントリーの手前で「雨が降ってるからインターだ」と言ったんです。一番雨の影響があったヘアピン(ターン10)を曲がってきたケビンがドライで走れないと思っているならインターで走るしかなかったので、そのままドライブスルーさせてコースに出しました。そうしたらアウトラップで「ドライだ」って……。そこで再度ピットインしてドライに変えたのですが、この時点では時すでに遅しでした。

 ドライバーにとって、インターからドライに交換するのはトリッキーで難しいことです。実際に走っているドライバーがインターだと言っているときに、ピットウォールに座ってピットレーンやオンボードしか見れない自分の意見を押し通すのは難しいです。本当にコース上に留まれるかどうかわからないですからね。なるべく他のドライバーのセクタータイムやレーダーの状況も踏まえて全体像を伝えるようにはしているのですが、瞬時の決断ですべてを伝えるのは難しいこともあります。またケビンはどちらかというと、目の前の状況を考えてものを言うのではなくて、「他のドライバーがこうしたら、自分は逆にこうすればいいかも」などと考える癖もあるんです。コンディションが目まぐるしく変わる状況では、とにかく目の前の状況に最も合っていることをやらなければいけません。Q2ではあの瞬間にドライに交換しないと、そのあとはもう雨の影響が大きすぎて終わりだとわかっていましたから。これからはもっとケビンの性格も理解したうえでちゃんと伝えてあげなければと思います。

 ニコが2番手という結果を出したことで、僕としては難しい予選でもきちんとやれるという自信もあるし嬉しかったですが、本当だったらケビンだって同じことをやれたわけです。だから不本意というか、予選が終わった時は嬉しいのか嬉しくないのかわからない気持ちでした。

 ちなみにQ2ではいち早くアレクサンダー・アルボン(ウイリアムズ)がソフトを履いていましたが、もしコース上に留まれるなら早めに履いた方がいいので(あの状況でタイムを出すには時間がかかるからです)、アルボンはよくやったと思います。ただニコとケビンを最初にインターでコースに出したのは間違ってなかったと思います。トラック状況を考えたらアタックを中止してピットに入り、ドライに変えた方がよかったですが、僕は黄旗が出ることなどを懸念していました。あの段階ではインターでまあまあコンペティティブなタイムを出せるので、一度タイムを出して、その後インラップでプッシュしてピットに戻り、ドライに変えるのが一番バランスのとれたやり方だったと思います。

 それから、ニコのペナルティはもったいなかったです。Q3ではニコがタイムを出した直後に赤旗が出たのですが、ニコはこの赤旗中に決められたラップタイムよりも速く走ってしまったのでペナルティの対象になりました。このレファレンスタイムより速く走っているとドライバーに対して警告のビープ音が鳴るのですが、ニコはこれを聞いて自分がもっと速く走らないといけないのか、遅く走らないといけないのか混乱したとのことでした。というのもこのビープ音というのはインラップ中に速度を落としすぎた場合も鳴るので(アタック中のクルマとの速度差が大きすぎると危ないから)、ニコは混乱したようですが、どういう時に赤旗が出されるのかを考えれば判断は簡単です。ニコも「そう言われるすごく簡単なことだね」と言っていました。

■ダーティーエアでは「他のカテゴリーのクルマみたい」になってしまうVF-23

 予選でいい結果を残したニコでしたが、この週末はFP1でのCCTVトラブルに加えてFP2でエンジンが壊れたこともあり、ドライコンディションでの走行はかなり限られました。FP1ではクルマに対して満足できなかったので、FP2で一部ケビンのセットアップをコピーしたのですが、それでもうまくいかなかった部分もありました。

 それからカナダは路面がバンピーだという点でモナコとよく似ていて、ニコはこれにも苦労していましたね。クルマの硬さに対してニコの方が敏感なので、カナダではケビンよりこの面で苦労していました。

 タイヤ戦略を分けたのは、日曜日のあの路面温度でミディアムタイヤとハードタイヤのどちらがいいのか定かではなかったからです。うちは多分ハードの方がいいだろうと考えていましたが、路面温度が低くてもしハードが機能しなかったら困るので、それを見極めるためにも分けました。ミディアムスタートのニコは、オスカー・ピアストリ(マクラーレン)に抜かれた後はやはりうちのクルマではなかなかペースを保てませんでした。ハードの方がペースはよさそうだったので7周目にピットに入れましたが、運の悪いことにピットイン直後にセーフティカー(SC)が出てしまいました。

 一方でケビンのハードでのラップタイムはよかったです。最初にフリーエアーで走った時は「クルマがよかった」とケビンも言っていました。後ろにバルテリ・ボッタス(アルファロメオ)やエステバン・オコン(アルピーヌ)がいましたが、抜かれるような感じでもなかったです。でもSC後にオコンにポジションを戻し、ケビンがダーティーエアに入ってしまうと「他のカテゴリーのクルマみたいだ」と。そのあとはボッタス、マクラーレンの2台、アルボンにも抜かれてしまいました。

 ニコの最後のスティントを見ても、ランス・ストロール(アストンマーティン)の4秒ほど後方でコースに戻りダーティーエアではないところで走っていた時のペースはよかったです。その後、ピットストップを終えたピアストリがニコの目の前でコースに戻って来ました。するとニコは「(これまでとは)クルマがまったく違う」と言っていました。そこからリカバリーできなくて抜かれて、抜かれた後も同様にリカバリーできませんでした。これがうちの1番の問題です。レースでの問題がわかっているので、予選にはこだわらずレースで戦えるようにしようと思ってやっているのですが、それでもこうなってしまうのが現状です。

 また予定していたフロア改造の評価も今回はできませんでした。FP1とFP2でニコに比較をしてもらう計画だったのですが、上述のとおりCCTVトラブルやバウンシングがひどかったこと、それからFP2が最後のドライセッションになりそうだったこともあり、新しいフロアでのバウンシングの原因を探る暇もなくもとのフロアに戻さざるを得ませんでした。次戦オーストリアはスプリントなので、2戦後のイギリスGPで評価を行うつもりです。

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