ランボルギーニのナンバーワン・ワークスドライバーとして、名実ともにトップドライバーの称号を得ているミルコ・ボルトロッティ。WEC世界耐久選手権では今季2024年にデビューしたLMDhカー『ランボルギーニSC63』、DTMドイツ・ツーリングカー選手権とファナテック・GTワールドチャレンジ・ヨーロッパ・エンデュランス・カップでは『ウラカンGT3エボ2』をドライブし、計3つのシリーズに並行参戦するなど、もっとも多忙なドライバーのひとりである34歳のイタリア人ドライバーに、シーズン前半戦を過ぎたいま、その展望ついて聞いた。
■自信につながった初参戦でのル・マン完走
「間違いなくポジティブ」ル・マンで完走を果たしたランボルギーニ、WEC後半戦はペース改善が目標
――非常に多忙なシーズンを過ごしていますね。
ミルコ・ボルトロッティ(MB)「とても濃密な日々を送っている、と言えるだろう。参戦している3つのシリーズでは、それぞれに自分なりの目標を定めている。WECではデビューイヤーとあり、ステップ・バイ・ステップで可能な限りこのシーズンでチームとともにマシンやレースのことを学んでいる途中で、なるべく早い段階でコンペティション能力を上げることで、いまは順調にそれを遂行しているところだ」
MB「GTワールドチャレンジ・ヨーロッパは、シーズンの滑り出しのポール・リカールは良かったが、重要なスパ24時間レースでは技術的な問題でリタイアし、ポイントをまったく取れなかったことは非常に悔しかった。次戦のモンツァで挽回しなければ、シリーズチャンピオンの資格はなくなってしまうだけに、何としてでもモンツァでは勝ち星を挙げたい」
MB「DTMでは、例えば開幕戦のオッシャースレーベンでは勝てるハズだったレースをピットストップのミスで大失点をしてしまうなど、いくつかのミスを重ねているものの、ノリスリンクまではなんとかうまくいっている(現在、ポイントランキング1位)。昨年はシリーズチャンピオンを惜しくも逃しているので、今季はどうしてもチャンピオンタイトルを取りたい。そのためにはコンスタントに上位ポイントを獲得し続けなければならない。もう次のレースが待ち遠しくて仕方がない、そう思わせてくれるレースだ。それほどまでに僕のモチベーションが高まっている」
MB「各レースで異なるレギュレーションがあることも毎年新鮮で、ドライバーにとってはチャレンジのひとつであり、毎シーズン新たに学ぶべきことが多いというのは良いことだと思っている」
――今年WECにデビューしたランボルギーニのLMDhでは、何が一番あなたたちに困難をもたらしているのでしょうか? テクニカルな問題ですか?
MB「僕たちが他のどのメーカーにも敵わないもの……それは経験値だ。だから、必然的というか強制的に学習・訓練期間というものを設けなければいけない。従ってレースに参戦しながらそれが課されているということだ」
MB「他のメーカーは早くからこのハイパーカープログラムに着目して着手し、充分な期間を開発に当ててきたが、僕たちはそうではない。その分、今シーズンのレースを通してその開発期間の一部も含まれているような状態だ。いまのこの期間を含まなければ、まったくもってスタートラインにも立っていなかっただろう。ポジティブな点としては、なんとかシーズン参戦を果たせていることで、ネガティブな点はマシンの状態などを考えるとスタートするのは早過ぎた、そう言えるだろう」
――さまざまなトラブルやハプニングはありましたが、初めて挑んだル・マンでは2台ともチェッカーフラッグを受けることができましたね。
MB「ランボルギーニ陣営にとって初めてのル・マンは過酷ではあったけれど、僕のドライブする63号車SC63(ボルトロッティ/ダニール・クビアト/エドアルド・モルタラ組)は10位、もう一台の19号車SC63(ロマン・グロージャン/アンドレア・カルダレッリ/マッテオ・カイローリ組)も13位でフィニッシュできたことは、非常に大きな自信につながった」
■ドイツ色が強い役員陣に
――ところで、今季はランボルギーニのモータースポーツ責任者だったジョルジオ・サンナがWECの開幕戦直前に解任されて衝撃が走りました。その後、アウディ出身で2017年からランボルギーニの量販車の総開発責任者だったロウヴェン・モーアがサンナの後任となり、また5月にはアウディからシュテファン・グッガーがランボルギーニのレーシングカーの開発総責任者へ着任しました。
ランボルギーニといえば、CEOのシュテファン・ヴィンケルマンもドイツ人であり、アウディ出身者でもあります。フォルクスワーゲン・グループ社内の異動とはいえ、イタリアのブランドでありながらも非常にドイツ色の強い役員勢ですが、モーアがモータースポーツ代表に就任したあと、社内の組織変更などはあったのでしょうか?
MB「僕がWECとGTWCヨーロッパのエンデュランス・カップで所属するのはアイアン・リンクス。DTMではSSRパフォーマンス、いずれも以前の僕の活動と同じだから、基本的に今季のサーキットでの仕事では前と変わっていないし、役員陣がレースに帯同してもとくに大きく変わったことはない」
MB「ランボルギーニワークス内のセクションでは少し変更はあったが、基本的に僕たちのコンセプトや目指すものはまったく変わっておらず、長期スパンでサクセスフルなマニファクチャーとして継続して活動を続けなければいけないと思うし、そのためにも新しい首脳陣は非常に素晴らしい人材が揃っていると言える」
――あなたはイタリア人ながら、ご両親の仕事の関係で幼少期にオーストリアのウィーンに移住し、育ちも現在の住まいもウィーンですね。幼少期からドイツ語を習得し、オーストリアの教育を受けて育っているので、オーストリア/ドイツ人のメンタリティや習性はよく理解していますので問題ないでしょうけれど、イタリアのチームスタッフはランボルギーニのドイツ人首脳陣とはコミュニケーションの問題はありませんか?
MB「僕に関してはまったく問題ない。ランボルギーニは改革中で役員陣はドイツ人になったがアイアン・リンクスもSSRに関わるチームスタッフは全員がプロフェッショナルとあり、彼らがこなす仕事には何の問題もない」
MB「僕はモータースポーツに関係ある、関係ないにしろ、新たなカルチャーやメンタリティとの出会いはポジティブに捉えているし、人間としての成長も期待できるのではないかと考えている。モータースポーツでは結果さえともなえば、人種なんてまったく関係ないのではないだろうか」
■できなければ「プロとは言えない」
――あなたはほぼ毎週末にレースのために短期間のスパンで世界中を飛び回っています。その他にもテストやシミュレーターなどレース以外のスケジュールも組み込まれているでしょう。ランボルギーニの専属フィジオがいつもあなた専用に帯同してケアをし、日頃からハードなトレーニングをこなしているとはいえ、さすがに3シリーズの掛け持ちは体力的にも精神的にも相当キツいのではないでしょうか?
MB「長年のキャリアの中で、自分自身をマネジメントする方法を学んでいったと思う。例えば、前日に非常に憤慨する、失望するようなやりきれない気持ちでベッドに入ることになっても、僕はきちんと眠れる精神状態に持って行けるし、翌朝は前日のネガティブさを脳裏から消し去って、本来の自分を取り戻してパドックへ入る」
MB「僕に限らずプロスポーツ選手であれば、それができなければプロとは言えないし、ポテンシャルを発揮することはできないのではないだろうか。そのメソッドは各自が経験を積み重ねながら編み出すのであって、僕の心身の整え方は僕独自のもので、恐らく他の選手には合わないし、他の選手のやり方はきっと僕には合わないだろう」
――シーズン中にあなた自身のレースモードをオフにする方法は?
MB「非常に少ないオフだけれど、まったくモータースポーツと関係のない場に身を置くことにしている。とくに海へ行くのが好きなので小旅行をしたり、いろいろスポーツをして楽しみ、レースウイークのアスリート飯という感じではなく、おいしい食事を思い切り堪能する。『日常を愉しむ』それが、僕のオフの過ごし方で、これによってまたレースでポテンシャルを発揮できるような心身状態に持って行けるんだ」
MB「モータースポーツを職業に選んだからには、いつも幸福が重なる訳ではないことを誰もが知っているところだ。この世界に身を置くからには、極限の精神と身体の状態をどう制御して『オン』『オフ』をスイッチングできるかどうかも実力の内だと思う」
――今季はWEC/GTWCヨーロッパ/DTMのパラレル参戦をされています。どれもレベルの高いシリーズではありますが、その中であなたにとってどれが一番チャレンジングであり、ハイレベルの戦いだと思いますか?
MB「WECのハイパーカーもかなりのコンペティションだと思うが、僕にとってはいまも最強にレベルが高い戦いができて、個々のドライバーのスキルが試されると感じるのはDTMだ」
MB「それには理由がある。他のレースはチームメイトと組んで戦う耐久シリーズであり、例えば僕がファステストラップを獲ろうが、ポールポジションを獲得しようが、勝利に結びつくことはそれほどないし、後方からスタートしたとしても優勝できる可能性だってある。しかし、DTMはスプリントのフォーマットでドライバー交代はなくひとりの力で走り切る。パフォーマンス力、タイヤの選択、予選への挑み方、戦略、ピットストップ、ペースなど、すべてが僕ひとりの実力とレベルが試されるレースなんだ」
ちなみに、2021~22年にアルファタウリのフェラーリ488 GT3エボを駆り、DTMへ参戦していたニック・キャシディは以前、DTMの一戦を戦うにはスーパーGTを8戦分走る以上に大変だとコメントしていた。
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