この記事をまとめると
■ルノーはコンセプトモデルとして「プロジェクト900」というモデルを手掛けた
ドッチが顔でドッチがお尻? 前後がソックリな不思議デザインのクルマ8選
■どっちが前でどっちが後ろかわからない奇抜さがいまでも語り継がれている
■2台作られたが、デザインや駆動方式の問題から市販されることはなかった
どっちが前でどっちが後ろかわからない奇想天外マシン!
以前、勤めていた自動車雑誌の編集部で上司が口癖にしていたのが「オマエなんてバック(後進)で抜いてやるよ!」という侮辱的なセリフ(笑)。もしも、ルノー900に路上で追い抜かれたりしたら、きっとこのセリフを思い出していたに違いありません。なにせ、ご覧のとおりステーションワゴンがバックで走っているかのような姿が前進という世にも奇妙なスタイリングだからです。
第二次大戦後に、シャルル・ド・ゴール大統領によってルノーが国営化されてしまったことは、ご承知のとおりですが、すぐに「4CV」というRR(いうまでもなくエンジンを車体後部に搭載し、後輪を駆動する方式です)の大衆車が成功し、経営基盤は順調に回復していきました。ちなみに、1951年に日野がライセンス生産し、これまた国内でスマッシュヒットとなったことも、その一助となったのかと。
※写真は日野ルノー4CV
その後もルノーはドーフィンや8といった小型RR車を発売、これまた大衆から大いに支持され、社内は一気にRR信奉者が増えていくことに。
当然、大衆車ばかりを作っていたのでは利益も飛躍的向上とはいかないため、ルノーは高級路線にむけたクルマの開発に着手することに。
プロジェクトの責任者に任命されたのは、それまでのRRシリーズで腕を奮ってきたエンジニア、イブ・ジョルジュ。彼はRR車の可能性をもっと拡大したいと考え、ドーフィンをベースにもっと乗員スペースを広げられないか、あるいはパッケージングの工夫でさらなるユーティリティを得られないものかと考えを巡らせたのです。
で、1959年、首脳部に提案したのがこちらのプロジェクト900。アバンギャルド好きなフランス人にしても、最初は度肝を抜かれたに違いありません。なにしろ、ぱっと見、どちらが前だか後ろだかわからないスタイリングで、ワゴンの荷台風なところに運転席があるとわかっても、今度は極端に短いオーバーハングで、バスみたいに見えるわけですからね。
試作されたものの市販まではされず幻のクルマに
このスタイルをデザインしたのはカロッツェリア・ギアに所属していたセルジオ・コッジオラ。どういうわけか、コッジオラはギアへの置き土産でもしていったのか、ほぼ同じタイミングで「セリーナ」という、これまた前後わかりづらいコンセプトカーが発表されちゃってます。
それはともかく、900はスタイリングだけでなくパッケージングにも意欲的なアイディアが盛り込まれていました。たとえば、リヤトランクのスペース向上にむけたエンジンの搭載方法。当初、リヤアクスルの真上にシボレー・コルベアのフラット6ユニットを載せようとしたのですが、スペース確保はすれどもハンドリングがひどくなるということで却下。
次いで、リヤアクスルの前方に搭載することにしたのですが、今度はジョルジュお気に入りのドーフィンから「エンジンふたつ持ってこいや」と、4気筒エンジンをふたつくっつけたV8エンジンという男っぷり(笑)。もっとも、ドーフィンは845ccですから、二丁がけでも1690ccと、アメ車のドロドロを期待すると肩透かしをくらいそう。
アメ車といえば、1950年代は世界のモードを牽引していた黄金期でもありますから、900もちょっぴり影響を受けている感じ。たとえば、リヤエンドのテールフィンかのような処理や、ステアリングポストが折れて乗り降りしやすくなる仕組みなど、そこはかとなく古き良きアメリカ車の香りが漂っている気がしてなりません。
さて、コンセプトモデルが2台も作られるというジョルジュの意気込みとは裏腹に、首脳陣はあまり乗り気にはならなかったようです。その理由のひとつには、シトロエンDSの大ヒットによって「これからはRRでなくて、FFじゃないの?」という躊躇もあったかと。また、900が後を継ぐ予定だった同社のアッパーミドルセダン「フレガート」のオーソドクスなスタイルに対し、900が攻めすぎているように思われたとする考察もあります。
ともかく、プロジェクト900は、日の目を見ることこそありませんでしたが、ジョルジュたちが熱心に進めたスペースユーティリティの確保や、世の中にない製品を作ろうというコンセプトは、しっかりとルノーに根付きました。
900からはだいぶ時間が経ちましたが、マルチユーティリティビークルの始祖とも呼ばれる「エスパス」や、「このガタイで2ドアクーペ?」と驚かれた「アヴァンタイム」は、まさしく900のコンセプトを実現したクルマといっても差し支えないでしょう。
これからも、ルノーにはぜひ独自路線を進んでもらって、クルマ好きが驚くようなモデルをリリースしてほしいものです。
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