■メルセデス・ベンツ「CLK-GTR」ってどのようなクルマ?
モータースポーツのはじまりは、「どのクルマが一番速いか」という、非常にシンプルなところからはじまったとされています。メルセデス・ベンツは、この疑問にまさに「コロンブスのたまご」といえる逆転の発想で取り組みました。その結果生み出されたのが、市販レーシングカーの「CLK-GTR」です。
■桁が違う… 5007馬力の12000ccエンジン搭載 ドバイ製スーパーカー登場
まだクルマがごく一部の富裕層だけのものであった1900年代初頭に、すでに英国などではレースが開催されていました。その後も、モータリゼーションが進み、多くの人々がクルマを手に入れるようになった後も、「どのクルマが一番速いか」という疑問は、多くの人々にとっては注目の的でした。
現在、世界中でさまざまなカテゴリーのモータースポーツがありますが、市販車をベースにしたクルマによるレースは人気です。
レース仕様に大幅に改造されているとはいえ、普段乗っているクルマの延長線上にあり、なおかつ身近な自動車メーカーが参戦していることから、初心者でも親しみやすいのが特徴です。
「どのクルマ(市販車)が一番速いか」を明らかにすることがそもそものはじまりであるため、当然のことながら市販車をベースに、決められたルール内で改造をおこなうことが大前提です。
そのため、市販車ベースのレースの多くが「一定以上の台数を市販しているモデルをベース車両とする」ことを条件としています。
しかし、1980年代に入り、世界的にモータースポーツの人気が高まってくると、レースに勝つことで得られるプロモーション効果が絶大となり、多くの自動車メーカーが勝利を目指して積極的に投資をすることになりました。
そして、いくつかのメーカーが、「一定以上の台数を市販しているモデルをベース車両とする」というルールの盲点を突き、レーシングカーとして設計したクルマを最低限の保安部品を追加して市販車として販売する、という策に出たのがCLK-GTRだったのです。
■誰も乗りこなせなかった、市販版のCLK-GTR
CLK-GTRは、メルセデス・ベンツの高性能車部門であるAMGによって、1997年のFIA GT選手権に参戦するために開発されました。
その名の通り、当時のメルセデス・ベンツの人気モデルであったCLKをデザイン上のモチーフにしてはいるものの、そのたたずまいは当然ながらCLKを凌駕するレーシングカーそのものでした。
エンジンは、当時の「S600」などに採用されていた6リッターV型12気筒エンジンをベースにしたものであり、こちらも当然ながら、レーシングカーとして超高回転仕様にチューニングされたものです。
またトランスミッションもパドル式の6速シーケンシャルシフトが採用されており、レーシングドライバーとしてのトレーニングを受けた人間でなければスムーズに発進することすらできないものだったといわれています。
日本でも当時一世を風靡していたミュージシャンが保有していたことが知られていますが、その運転の難しさからおもに観賞用として保管されていたことは有名です。
市販車としてのCLK-GTRは、当時の規定に沿って25台が生産されました。そのうち2台はオープン仕様のロードスターバージョン、また、稀代のカーエンスージアストであるブルネイ国王のために1台だけ右ハンドル仕様が生産されました。
CLK-GTRの販売価格は約2億5000万円であり、市販されているとはいえども、決して誰もが購入できるものではありませんでした。
まさにコロンブスのたまごというべき手法で参戦したCLK-GTRは、初年度から圧倒的な活躍を見せ、1997年、そして1998年にシリーズチャンピオンに輝いています。
ちなみに、同時期のライバルには、ポルシェ「911 GT1」やマクラーレン「F1 GTR LM」といった超高性能モデルをベースにしたレーシングカーがありましたが、そうしたライバルをもしのぐ活躍で、メルセデス・ベンツの名前が全世界にとどろきました。
しかし、「どのクルマ(=市販車)が一番速いか」という、レースの根本的な部分が本末転倒になってしまうということから、レーシングカーを市販車として販売することで規定をクリアするという手法に対して、一部から疑問が投げ掛けられることとなります。
その結果、現在では市販車として販売すべき台数が大きく引き上げられ、レーシングカーを市販車として販売するようなことは事実上不可能になりました。それはすなわち、CLK-GTRのようなクルマは今後も誕生し得ないということを意味しています。
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