アルファードの押し出し顔で考える、迫力と下品の分かれ目とは?
掲載 更新 carview! 文:岡崎 五朗 1
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その一方で、「売れればいいのか」という意見も理解できる。クルマとは極めて個人的な乗り物である一方、町の風景の一部でもある。つまり、クルマを公共物と捉え、その美的感覚を問うという、景観規制に近い考え方だ。もちろん、法的な規制は及ばないし、また及ばせるべきでもないが、たしかに「売れればなんでもあり」というのも考え物だろう。そういう意味では、国内シェアで約50%を握るトヨタの責任は重い。とくにプリウスやシエンタのような大量に走るクルマには、もっとシンプルな美しさを求めたい。しかしアルファードに関してはそうは思わない。もはや高級車の域に達していると思うからだ。
たとえば、パルテノン神殿をモチーフにしたロールス・ロイスのグリルを見て下品だと批判する人はいない。レクサスのスピンドルグリルやアウディのシングルフレームグリルもそうだ。見慣れた、という要素もあるだろうが、実はこれ、ブランド力とも大いに関係しているというのが僕の持論だ。たとえば若者が立派な髭を生やしていても似合わないが、年齢を重ねていくと不思議と似合ってくる。高級時計やブランドものの高価なバッグも然り。威厳を示す装いは、その人の中身が伴っていなければ逆効果になってしまうのである。
アウディやレクサスが、自分たちのブランドが成熟するのを待ってから派手なグリルを与えたのはそこのところを理解していたからだろう。もし、実力が伴わないうちにメルセデスやBMWのようなわかりやすい顔つきを与えていたら、背伸びした若造と批判されていたに違いない。そう、立派なグリルは、人気や実力や社会的認知度などが伴ってこそ似合うということだ。
そう考えた場合、いまやアルファードは派手なグリルを着ける権利を十分にもつクルマになったと言っていいだろう。先代の弱点だった乗り心地はかなり改善されたし、静粛性も向上した。そしてなにより、政府要人の公用車として使われ、大企業のトップや芸能界の大物にもオーナーが多い。このように、社会にオーソライズされた高級車という地位を築いたアルファードだからこそ許されるデザインがある。
しかし、普及価格帯のクルマとなると話は別だ。中身もブランドイメージも伴っていないクルマに、メッキをふんだんに使ったギラギラ顔を与えたところで、それは威厳でも風格でもない。たとえば「エスクァイア」。CMでは高級車を謳ってはいるものの、実際のところは走行性能もインテリアのクオリティも「ノア/ヴォクシー」の派生モデルの域を出ていない。だから僕には表面だけを飾った残念な存在に見えてしまう。「タントカスタム」や「スペーシアカスタム」にも同じことが言えるだろう。欲しい人がいるからつくるというのは営利企業としては絶対的な正義だが、その反面、そういうクルマを見る度に、「売れればいいのか」と思ってしまうのもまた事実なのである。
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