この記事をまとめると
■WEB CARTOPレギュラーライターの石橋 寛さんに「クルマとは何か?」を聞いた
仕事の一部だったクルマがいま再び「素朴な憧れ」になった! 【クルマのプロに聞く! あなたにとってのクルマとは? 桃田健史編】
■編集者時代などに触れたクルマは原稿などを読み返すと思い出が蘇る
■電車やバスの移動だと他人が運転していたり空間が広い分思い出が薄れがちと感じている
振り返ってみればクルマとの思い出だらけ!
身も蓋もないことをいえば、筆者にとってクルマとは「仕事のネタ」にほかなりません。社会に出てから30年以上、クルマ業界に携わり暮らしの糧を得ていたわけですから、いまになって大それたことやロマンチックな御託は並べられないのです。
しかし、思い切って仕事から距離を置いて俯瞰すると、「クルマで得られた思い出や経験は代えがたいもの」だと気づきました。となると、クルマは「思い出生産機」とか「経験値向上マシン」と位置付けられるのかもしれません。
「クルマにまつわる記憶はいつまでも色あせない」
オーバーな表現ですが、筆者の場合は数十年前に乗ったクルマでも(ある程度は)思い出すことができます。執筆した原稿が掲載された媒体があったりすれば、読み返すことでより鮮明に記憶が蘇るのです。当然といえば当然ですが、これは日記とか備忘録と同じ機能なわけで、読者の皆様も原稿までは書かなくとも、記念撮影をした写真などを見返すことで記憶が蘇るかと。
そこで思い出すのは、ハンドリングだったり、ブレーキの利き具合、はたまたインテリアの質感などクルマによってさまざまな事柄。
たとえば、1990年にマセラティ・シャマルの広報車に乗った際は、「さほどパワーに目覚ましいところはなかったものの、帰路でパワステポンプのベルトが切れて、第三京浜で死ぬかと思った」とか。
またあるときは、ホンダ・オデッセイ(初代)の試乗会は神戸で行われたのですが、「関西のイケイケな交通環境でもスローなハンドリングながらボディはしっかり追従していて、アクセルにもう少し応えてくれたら優秀なシティコミューターになるはず」など、パフォーマンスや場所、出来事など、印象的なことは(多少の記憶違いはあれど)たいてい呼び戻せるのです。
なぜか、(ライフスタイル誌でよくある)ドライブデート企画は鮮明に記憶しているもので、企画会議でなにを喋ったとか、誰が意地悪なこと言ったかなど、周辺のディテールもバッチリ。デートの行先はもちろん、モデル女子を助手席に乗せて、どんな音楽をかけたとか、スターバックスに寄ったのかコンビニに寄ったのか、はたまた撮影後にリアルなデートができたのか否かまで(笑)。
クルマの記憶や思い出がどうしてそこまで深く刻まれるのか、これは考えるまでもなく運転することによって多彩なインプットに事欠かないからだと思います。実際に、表紙の撮影などに使った貴重なスーパーカーやクラシックモデルは、運転どころか手を触れることさえできないものが多く、そうした場合はスタイルのインパクトこそあれ、記憶の深度は浅いもの。一方で長距離のドライブやサーキット走行で得られた思い出&経験値は深く胸の奥まで浸透するものです。
クルマでの移動は思い出も多く残りがち
ちなみに、クルマでの移動(ドライブ)と比べ、電車やバス、はたまたタクシーのそれは言うまでもなく運転という行為に欠けるため、先週のことでも記憶は薄っぺらくなりがち。また、領域展開の深度(造語です)が浅いことも思い出になりづらい要因に違いありません。
これは、クルマの乗員空間に対して、バスや電車はよほど広い空間が確保されているわけで、その分だけ思い出要素、つまり匂いや景色、あるいは動きそのものまで薄められるからだと考えます。平たく言えば、自分のクルマをぶっ飛ばして、大好きな彼女と一緒に遠くの海岸まで出かけた記憶と、ロマンスカーでほっこり温泉まで出かけた記憶とでは、似たような記憶だとしても、刻まれたものが大いに違うということ。
むろん、クルマ以外にもステキな思い出や、経験を生み出してくれるものはたくさんあるでしょう。また、クルマを運転していても思い出のカケラすら転がってないという方だって少なくないはず。ですが、クルマ好きであれば、どのような種類であろうと思い出や経験値が他とは代えがたいものであること、おわかりいただけるかと思います。
この原稿を書きながら、そんなことに気づけたことを幸せに思い、これからもどんどん思い出や経験を得ていきたいとつくづく感じています。もっとも、思い出や経験値とかきれいごと並べていますが、筆者の場合はそれがギャラに直結していること、本能的にわかっているからに違いありません。
やっぱり、クルマはどこまでいっても「仕事のネタ」に変わりがなかったわけですね(笑)。
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