日本を覆い尽くす「AT車」
現在、日本で販売されているクルマの98%は「AT車」だといわれている。ちなみに、AT限定で運転免許を取得するドライバーの割合は、毎年70%弱だ。今やAT車が日本の自動車市場をけん引しているといっていいだろう。
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この事実の背景には、かつては単に運転を楽にするためのメカニズムであったATが、MT車に勝るとも劣らないスポーツ性能を備えた高機能なものに進化したことがある。
多段化されたギアとドライバーの感覚は、もはや当たり前の技術にとどまらない。また、ATの付加価値、つまりATの技術的意義も、現在のATには盛り込まれている。
一方、AT全盛の時代にあっても、MT車の存在に価値を見いだす人たちもいる。絶対数は少なくても、独特の連帯感で結ばれ、自動車ビジネス全体に与える影響力はときに大きい。
ドライビングフィールと歴史的価値
これを単なるニッチでマニアックな市場と片付けるのは簡単だが、そこにこそ“継続は力なり”という長く愛される商品の核がある。例えば、現行マツダ・ロードスターの年間販売台数2~3万台のうち、半分以上がMT車だ。
現時点でATかMTかを選べるのは、トラックを除けばスポーツカーだけである。スポーツカーを
・MTで走らせるか
・ハイテク機構を満載したATで走らせるか
は、ある意味個性的な選択であると同時に、ユニークでマニアックな選択である。
ここでATを選ぶということは、基本的に高価なプレミアムモデルとなる。例えば、最近のモデルでいえば、日産フェアレディZがそうだろう。
基本グレードのフェアレディZは6速MTだが、上級グレードや市場で注目されているフラッグシップ限定車・フェアレディZ NISMOにはハイテク9速ATが搭載されている。
日産フェアレディZの価格はベースモデルで約520万円。限定車のフェアレディZ NISMOは920万円だが、このレベルになると、シンプルなMTよりも、操作性、走行性能ともにMTに匹敵するハイテクATのほうが、クルマの性格に合っているという評価も理解できる。
日本のスポーツカー市場では、ハイエンドとされる日産フェアレディZと、289万円から367万円という比較的リーズナブルな価格帯のマツダ・ロードスターとの間に“価格差に起因する格差”がないのは興味深い。
フェアレディZという歴史的なネームバリューを持つフラッグシップスポーツカーとしての価値は極めて高く、ドライビングフィールもプレミアムモデルならではだ。一方、マツダ・ロードスターは長い歴史があり、完成されたスポーツカーとして評価されるべきだろう。
こうした考えはプロの専門ジャーナリストに限らず、一般ユーザーレベルでも実感として語られることがほとんどだ。
スポーツカーの存続と評価
MTに対するATの位置づけは、かつては単に走りやすさだけを追求したものがほとんどだった。しかし、長年の着実な進化を経て、実用モデルだけでなく、スポーツカーなどのマニアックなモデルでも、その存在意義が十分に認められるようになった。
スポーツカーには
「MTであるべきだ」
と強く信じている人もまだまだ多い。そんななか、スポーツカーにとって最も重要なことは、ドライバーに
「トータル性能」
を感じさせることである。このような健全な評価が生まれたことを素直に喜びたい。そしてこれは、クルマを構成するメカニズムの進化がもたらした新しい価値基準である。
日産フェアレディZ NISMOのハイテクATやマツダ・ロードスターのMTが、正しい資質を持ったスポーツカーとして評価されることは、スポーツカーというカテゴリー自体が存亡の危機に直面しているからかもしれない。
しかし、今後日本の自動車市場にスポーツカーが送り込まれる際には、日産フェアレディZやマツダ・ロードスターがベンチマークとして選ばれるだろう。そうした強い思いは、スポーツカーが絶滅危惧種であることと表裏一体である。
しかし、ATにしろMTにしろ、将来自動運転が導入されたとき、ドライバーのクルマを適切にコントロールする能力は、新たな付加価値として再評価される可能性を秘めている。
数十年後にそのような時代が来るかどうかはまだわからないが、いずれにせよ、クルマと操作の関係は今後も維持すべきだ。そんなことを考えさせられたフェアレディZとロードスターの高評価であった。
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