2008年3月のジュネーブオートサロンで往年のフォルクスワーゲンファンにとって懐かしい名前「シロッコ」が復活した。このモデルは単なる「名車の復刻版」ではく、時代が変わりクーぺ市場も様変わりする中、最先端のメカニズムと次世代のデザインテイストを盛り込んだ新しいチャレンジだった。今回は2008年6月にポルトガル・リスボンで開催されたこの3代目シロッコの国際試乗会を振り返ってみよう。(以下の試乗記は、Motor Magazine 2008年8月号より)
モジュール戦略で若者にも手の届く価格を実現
かつてのフォルクスワーゲン シロッコを知っている読者は、どれだけいるだろうか。
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筆者がこのクルマに出会ったのは、1974年発売直後のドイツ シュツットガルトのフォルクスワーゲンショールームだった。ナイフでスパッと切り裂いたようなシャープなボディデザインはジウジアーロの手によるもので、その衝撃にまさに熱風で身体が舞い上がったかのようだった。
そして、現実の世界である日本へ戻ってから買ったのは、エクステリアデザインがこのシロッコと非常によく似ていた初代ホンダ アコードだった。私が想像するに、アコードのデザイナーは、このシロッコの影響を受けていたに違いない。
さて、そのシロッコが戻ってきた。16年振りである。ちなみに初代のシロッコは当時のパーソナルクーペブームに乗って、1980年までの6年間に50万4153台が販売された。しかし柳の下のドジョウを狙って、続いて発売された2代目シロッコは、同種のクルマが市場に飽和し共食いが起こり、かつライフスタイルが変化した結果、突然の需要激減によって販売が伸びず、1992年までの12年間で29万1497台しか顧客が見つからずに終焉を迎えてしまった。
しかし、フォルクスワーゲンはなぜ16年も経ったこの時期に、シロッコを再び復活させたのだろうか。マーケティングおよび企画担当によれば、現在、市場には「当時のシロッコのようなオールラウンドなスポーツクーペが存在していないから」とその理由を説明し始めた。「1974年当時のようにスポーティで個性的、かつ実用的なボディを持ち、ダイナミックなドライブを楽しめて、さらに財布の軽い若者にも手の届くオールラウンドなクルマを目指しました」という。
まだドイツおよびヨーロッパには、このように描写できるユーザー層が存在するらしい。うらやましい限りである。そして、その目的のためにクルマのコストダウンが図られることになった。いわゆるモジュール戦略というもので、シャシはイオスとパサート、パワートレーンはゴルフ、そしてインテリアのダッシュボードもイオスのそれが移植されている。さらに聞けば、ティグアンやトゥーランからも共通部品を使っているようである。まるでジグゾーパズルのようだ。
しかしデザインはシロッコ独自のもので、このクルマから次世代フォルクスワーゲンのデザインモチーフが先鞭を切って表現されている。デザイン担当のマーク・リヒテは「我々はこのシロッコで初めてこれからのフォルクスワーゲンモデルに使われるフロントマスクを導入しました」と語った。
つまりフロントに見られるエアインテークとヘッドライトのレイアウトで、、これまでのワッペングリルとは違ってエアインテークと左右のヘッドライトが横長につながり、水平ラインが強調されている。この部分のサイズはモデルによって変化するそうだが、横長のモチーフはすべてに継承されるという。
スポーツクーペらしいフォルム、ゴルフよりもワイド
ポルトガルのリスボンで開催された試乗会に現れたシロッコのサイズは、全長4256mm、全幅1810 mm、全高1404mm。つまりゴルフとほぼ同じ長さで幅は50mm広く、およそ100mmも低い。ちなみにリアシートは平均的日本人の体格であれば、100kmくらいはなんとかなりそうな広さだ。
試乗に選んだのは2.0TSI。これはゴルフGTIに搭載されるものと同じ最高出力200ps、最大トルク280Nmを発生する4気筒2Lターボエンジンを搭載する。またトランスミッションは1750ユーロ(約20万円)のオプションで用意される6速DSGを選んだ。
イオスから移植されたダッシュボードは、正面のナセル内にタコメーターとスピードメーターが整然と並ぶ見やすいレイアウト。おそらくイオスとシロッコの2台を所有する人はいないと思うので、この選択に異論はないだろう。
フロントシートはサイドサポートもしっかりしており、我々日本人でも身体にしっかりとフィットする。ゴルフより明らかに低いドライビングポジションで、視界はまさにスポーツカーのそれだ。
リスボン市内をおよそ20kmに渡って走り回ったが、最初はまるで走る広告塔のようで、沿道の人や他のクルマのドライバーからの視線が痛いほどである。みんな親指を上に挙げるポジティブなサインを送ってくる。信号で止まると車内まで覗き込んでくる歩行者もいた。こんな反応を経験したのはブガッティ ヴェイロンの試乗会以来だ。
リスボン市内にはまだ石畳の路面が多く、硬くセッティングされたシャシはかなり跳ねる。3ドアハッチバックのボディ剛性は高く、建てつけの弱さを現わす振動やノイズは発生しなかった。しかし、こうしたドライブシーンを走る人に対しては2009年の春から913ユーロ(約13万円)のオプションで用意されるアダプティブシャシコントロールを注文することをお勧めする。このシステムはコンソールのスイッチで、スポーツかコンフォートのセッティングを選ぶことができる。
ワインディングでも高速でも常に安定感ある走りを見せる
まるで有名タレントのパレードのようだったシティドライブを終えて、ようやく郊外のワインディングロードに到着。さっそく6速DSGをマニュアルプログラムにセットして、ステアリングホイール背後のパドルによる積極的なシフトを開始する。
コーナー手前までスムーズなエンジン回転の上昇を楽しみ、今度はブレーキを踏み込むと同時にギアを一段落とす。そしてクリッピングポイントに向けて、正確でゲインの確かなステアリングホイールを切り込むと、シロッコは非常に安定した姿勢でコーナーを舐めるようにクリアする。実に気持ちのいいコーナリングだ。
こうした感覚はライトウエイトのスポーツクーペならではのもの。調子に乗ってスピードを上げていくと、FFモデルの特性でもあるアンダーステアが顔を出す。しかしスロットルを緩めるとノーズはゆっくりと内側に入り込む。過度なタックインはよほど乱暴なスロットルワークをしない限り起こらない。
またESPのプログラムはできるだけその介入を遅らせているらしく、コーナーではドリフトの姿勢も可能だ。またそんな場合にエンジン回転を落としてしまっても、1700rpmから湧き上がる280Nmの大きなトルクのおかげで即座にスピードを回復することができる。
やがてルートマップは熱くなったドライバーをクーリングのためにポルトガルの高速道路へと導いてゆく。進入路では0→100km/h加速がわずか7.2秒のダッシュ力を生かしてスムーズに流れに乗る。
郊外に出ると前方にかなりのスペースができ、それなりのスピードを出すことができたが、高速域でもシロッコは非常に安定している。またレーンチェンジもステアリングホイールを握った手首のわずかな動きで、ロールもほとんどなくこなしていく。
またゴルフGTIよりも軽いボディに装備された前後ディスクブレーキは、テストを通じて制動力、コントロール性、剛性感の高いペダルフィールと、どの項目でも申し分のない働きを示した。
最後まで気になったのは小さな面積のリアウインドウによる後方視界の悪さで、駐車時はもちろん、一般道路でも追越し時などで後を確認する場合に、もっと大きな窓があったら、と何度か思った。しかしこれは、決定的な弱点ではない。
新型シロッコは、我々日本人がすっかり忘れてしまった、1970年代の終わりから1980年代にかけて持っていたクルマに対する熱さを思い出させてくれるようなオーラを持っている。だが、果たして、現在の我が国の冷え切ったクーペ市場に熱風を巻き起こすことができるかどうかは、天気予報よりもずっと難しい予想である。日本への導入は来春になると見込まれている。(文:木村好宏/Motor Magazine 2008年8月号より)
フォルクスワーゲン シロッコ 2.0TSI 主要諸元
●全長×全幅×全高:4256×1810×1404mm
●ホイールベース:2578mm
●エンジン:直4DOHCターボ
●排気量:1984cc
●最高出力:200ps/5100-6000rpm
●最大トルク:280Nm/1700-5000rpm
●駆動方式:FF
●トランスミッション:6速DCT(DSG)
●最高速:235km/h
●0→100km/h加速:7.2秒
※欧州仕様
[ アルバム : フォルクスワーゲン シロッコ 2.0TSI はオリジナルサイトでご覧ください ]
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