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まるで遊園地の乗り物:KR200 衝撃吸収ゾーンは自分の足:イセッタ 完璧主義なバブルカー・マニア(2)

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まるで遊園地の乗り物:KR200 衝撃吸収ゾーンは自分の足:イセッタ 完璧主義なバブルカー・マニア(2)

ドアと一緒に動くステアリングホイール

デイブ・ワトソン氏のガレージへ戻ったBMWイセッタ 300は、すぐに分解。細かな粒子を当てて削るサンドブラストで塗装を剥離し、本来の色へ塗り直された。

【画像】バブルカーのBMWイセッタとオレンジのFMR KR200 現代の電動マイクロカーたち 全133枚

ただし彼は、オリジナル以外の仕様を許すルールを決めている。「錆びない方が良いですよね。ハンドブレーキのケーブルなどは、ステンレス製に改良してあります」。長い年月を費やしながら、小さな作業を積み重ねてきた。

もちろん見た目だけでなく、快調に走る状態にもある。ワトソンは、筆者へイセッタのキーを貸してくれた。

ボディの前面が大きく開く、イセッタへの乗り降りは簡単ではない。うまく座るコツは、フロアへ後ろ向きに1度立って、その場で身体を回転させ、シートへお尻を落とす方法だと彼が教えてくれる。確かに、座りやすい。

イセッタで面白いのが、ドアと一緒に、ステアリングホイールもコラムごと動くこと。ステアリングのリムを引っ張れば、ドアを閉められる。ドアハンドルも付いているが、この方がしっかりラッチが噛んだことを確認しやすい。

ボタンを押すと、スネアドラムをワイヤーブラシで激しく叩くような、298cc単気筒エンジンのビートが響き出す。ボディ側面の、スリットから突き出たシフトレバーはHパターン。ただし左側が3・4速、右側が1・2速で、通常とは逆だ。

クラッシャブルゾーンは自分の脚

慣れるまで選びにくいが、レバーは軽く扱いやすい。足元には、前例ないほど小さなペダルが3枚。数回エンストしたかわりに、癖を学べた。ワトソンはメッサーシュミットKR200に乗り、後ろからついてくる。

オーナーズクラブの助言を無視し、彼はイセッタの4速MTを自分でリビルドした。「サスペンションをバラし、エンジンとトランスミッションを降ろしました。すべて掃除して、組み直そうと考えたんです」

ところが、完璧主義が許さなかった。「最終的に、エンジンとミッションをリビルドしていました。触らない方が良いと沢山の人から忠告されましたが、ちゃんと綺麗にできなかったんですよ」

イセッタの4速MTは基本的に壊れにくく、構造は複雑。手を付けないのが一番というのが、マニア間での常識だった。

とはいえ、熱心なアメリカ人がインターネット上にリビルド方法を載せていた。彼は3回やり直しつつ、それに沿って組み上げたという。クラッチベアリングの向きが違っており、リビルド後は遥かに静かになったとか。

ゆったり速度は増し、80km/hへ。ボンネットは存在せず、クラッシャブルゾーンは自分の脚だ。スピード感が高く、それ以上加速したいとは思えない。

カーブへ侵入すると、ボディが大きく傾く。コーナリングスピードは、ドライバーの勇気に依存する。フロントアクスルの真上に座っているが、ステアリングは小気味いい。車重は軽く、反応は素早い。

リアタイヤが1本なことには、気づきにくい。乗り心地は快適。とはいえ、速度域の低い市街地での走行が最適だろう。

遊園地にあるアトラクションの乗り物のよう

2台を乗り比べるため、ワトソンと交代。KR200には、イセッタのように英国でのライセンス生産の過去はない。だがこれは、正確には戦闘機メーカーだったメッサーシュミット社製ではなく、FMR社製となる。

1955年に西ドイツはNATOへ加盟。飛行機の生産が再び始まると、メッサーシュミットはマイクロカーで仕事をつなぐ必要がなくなった。

そこで1957年に、KR200を生産していたレーゲンスブルク工場を同社は売却。設計者のフリッツ・フェンド氏が率いる合弁企業、FMR社によって買い取られている。

KR200の特徴となるのが、小型飛行機のように、横へ大きく開くドーム型のキャノピー。イセッタより遥かに乗り降りしやすいものの、全高は低く、まったく異なる空間なことが面白い。遊園地にある、アトラクションの乗り物のようだ。

キャノピーのヒンジは、ヘビ柄のフェイクレザーで隠されている。ドライバーの正面には、ステアリングホイールではなく、操縦桿が伸びている。

ペダルは3枚並んでいるが、トランスミッションはバイクと同じ。シフトレバーがボディの右側から突き出ており、シーケンシャル・マニュアルを手で操作できるよう改良されている。

KR200は、1度エンストすると再始動しにくいという。レバーを引いて1速を選択。2ストロークの191cc 1気筒エンジンをブンブンと回し、発進する。クラッチペダルは小さく踏みにくいが、加速は驚くほど鋭い。振動も、驚くほど大きい。

次はブリュッチュ・モペッタのレプリカ

2ストロークだから、マフラーから白煙が上がる。操縦桿はダイレクトにフロントタイヤの向きを変え、僅かに傾けるだけでカーブを曲がれる。パッケージングは不安定そうだが、縦にシートが並ぶロングホイールベースで、意外なほど安定している。

運転体験は、クルマとはまったく異なる。しかし、不思議とイセッタよりクルマのように走れる。町外れのショッピングモールまで買い物に行くなら、イセッタの方が適しているかもしれないが、50km/h前後で山道を走るなら、KR200の方が適任だろう。

見事な状態のマイクロカーを2台も所有するワトソンだが、探究心は留まるところを知らない。イセッタのボディに塗られたブルーは、正確な色味ではないという。近日中に、再塗装を受ける予定だ。

別のプロジェクトも進んでいる。たった14台しか生産されなかった、三輪の英国製ロードスター、ブリュッチュ・モペッタのレプリカが、彼の細長いガレージで作られようとしている。

「これまでの経験と技術が、このクルマへ注ぎ込まれています。仕上げるのに5年はかかるでしょうね。もしかすると、それ以上かも。特に期限はありませんからね」。完成した暁には、AUTOCARでもご紹介できればと思う。

BMWイセッタとFMR KR200 2台のスペック

BMWイセッタ 300(1957~1964年/英国仕様)

英国価格:365ポンド(新車時)/3万5000ポンド(約672万円/現在)以下
生産数:約3万台
全長:2387mm
全幅:1371mm
全高:1346mm
最高速度:83km/h
0-80km/h加速:41.5秒
燃費:19.5km/L
CO2排出量:−g/km
車両重量:356kg
パワートレイン:空冷1気筒298cc 自然吸気OHV
使用燃料:ガソリン
最高出力:13ps/5200rpm
最大トルク:1.9kg-m/4200rpm
トランスミッション:4速マニュアル(後輪駆動)

FMR KR200(1955~1964年/英国仕様)

英国価格:365ポンド(新車時)/3万5000ポンド(約672万円/現在)以下
生産数:3万286台(メッサーシュミット含む)
全長:2820mm
全幅:1220mm
全高:1200mm
最高速度:99km/h
0-96km/h加速:27.0秒
燃費:21.2km/L
CO2排出量:−g/km
車両重量:230kg
パワートレイン:空冷1気筒191cc 自然吸気OHV(2ストローク)
使用燃料:ガソリン
最高出力:10ps/5250rpm
最大トルク:−kg-m
トランスミッション:4速シーケンシャル・マニュアル(後輪駆動)

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