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春の鈴鹿での変化。角田とリカルドの比較で見える『流れ』と『居場所』の大切さ【中野信治のF1分析/第4戦日本GP】

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春の鈴鹿での変化。角田とリカルドの比較で見える『流れ』と『居場所』の大切さ【中野信治のF1分析/第4戦日本GP】

 三重県の鈴鹿サーキットを舞台に行われた2024年第4戦日本GPは、マックス・フェルスタッペン(レッドブル)が今季3勝目、自身通算57勝目をポール・トゥ・ウインを飾りました。

 今回は三度目の日本GPを迎え、母国での初入賞を果たした角田裕毅(RB)の戦いと、モータースポーツを戦う上で重要な“流れ”について、元F1ドライバーでホンダの若手ドライバー育成を担当する中野信治氏が独自の視点で綴ります。

【全ドライバー独自採点&ベスト5/F1日本GP】トップ5チームの一角を崩し、10位に食い込んだ角田裕毅

  ☆  ☆  ☆  ☆  ☆

 2024年のF1日本GPは、今回もマックス・フェルスタッペン(レッドブル)がポール・トゥ・ウインで制する結果となりました。ただ、史上初の春開催は新鮮でしたね。個人的には誕生日(編註:4月1日)があるバースデーウイークだったこともあり、今回の春開催は感慨深くもあります。

 バースデーウイークに母国GPというのは、私がF1参戦していた時代には想像もしなかったことですし、本当に新鮮な気分で鈴鹿の日本GPを過ごすことができました。春という桜の美しい季節にF1日本GPが開催され、日本の方だけではなく、海外からもたくさんのお客さんが来場されていたことは嬉しかったですね。

 そして、今年なによりも驚いたのは、家族連れの方が本当にたくさん鈴鹿にいらっしゃったことです。ヨーロッパのレースやグランプリではごく一般的な光景ではありますが、家族みんなでレースを見に行くことは、親が大好きなモータースポーツを子どもたちも好きになり、次の世代にその思いや文化を受け継ぐことに繋がりますから、大変嬉しく思いました。また、日本人のモータースポーツに対する意識も変わってきたのかもしれないと少し感じることができた、そんなグランプリとなりました。

 さて、そんな2024年のF1日本GP最大のトピックスといえば裕毅の10位、3度目の母国GPでの初入賞です。裕毅は日本GPのレースウイークにおいて、決勝での入賞(10位以内/ポイント獲得)を目標にしてきました。裕毅的にも、思い描いていたとおりか、それ以上の走りができたグランプリウイークだったのかなと思います。

 予選でのQ3進出(トップ10入り)と決勝での入賞は、今の裕毅とRBにとって一番大きなタスクになっています。上位5チーム(レッドブル、フェラーリ、メルセデス、マクラーレン、アストンマーティン)と、それ以外のチームでは、特にこの鈴鹿では大きな差ががあり、裕毅とRBにとっては難しい状況でした。

 さらに、裕毅にとっては母国GPということで、プレッシャーも少なくはなかったわけではないと思います。そのプレッシャーを自分のエネルギーに変え、予選・決勝ともに見事な仕事ぶりを見せ、RBチームとともに“流れ”を引き寄せたという印象を抱きました。

 先日、裕毅もゲスト出演してくれたDAZN『WEDNESDAY F1 TIME』の4月10日配信分で、裕毅は自分の仕事ぶりを「90点」としていましたが、我々見ている側としては100点満点と言ってもいい、そんな戦いを見せてくれたと感じます。

 そんな今回の日本GPでは、予選で前にいることが特に重要だったと思います。鈴鹿でのオーバーテイクの定番ポイントはメインストレートエンドのターン1と、バックストレートエンドとなる130R(ターン15)入り口ですが、F1ではDRSゾーンがホームストレートだけなので、これがオーバーテイクを難しくさせている要因のひとつかもしれません。

 また、高速コーナーの多い鈴鹿のようなレイアウトだと、前のクルマに追いつくと乱気流によってダウンフォースを失ってしまいます。そこからさらに迫ることが難しいため、近づいては離れを繰り返すのが鈴鹿のひとつのパターンだったりします。タイム差があってもオーバーテイクが難しいのが鈴鹿ですが、昨今のF1マシンのコーナリングスピードが高すぎること、そしてF1マシンの車体サイズが以前よりもかなり大きくなっていることが、決勝でのオーバーテイクを難しくしている理由に繋がっていると思いますね。

 だからこそ、決勝での裕毅の12番手からのリスタート(赤旗明けの3周目/スタンディングスタート)は見事でした。蹴り出しが良くない10番手のニコ・ヒュルケンベルグ(ハース)を攻略すると、ターン2で膨らんだジョージ・ラッセル(メルセデス)と行き場を失ったバルテリ・ボッタス(キック・ザウバー)をパスして9番手に浮上し、3ポジションアップを果たしました。

 裕毅は赤旗前のスタートではミディアムタイヤを履いていたこともあり、スタートの蹴り出しで周りのソフトタイヤ勢に出遅れ、難しい展開となるのかなとも思いました。ただ、リカルドとアレクサンダー・アルボン(ウイリアムズ)のアクシデントにより、スタートは仕切り直しとなり、赤旗中にタイヤを替えることも叶ってのリスタートでしたので、今思えばすべての流れが裕毅に向いていたように感じます。

 改めてレースとはわからないものだなと感じました。アルファタウリ時代からRBで戦ってきた裕毅は、チームの戦略や本人のミスなどもあり、なかなか“流れ”が向いてこない時期もありました。それでもそんな時期を我慢し、ポジティブに戦いを続けていると、今回のようなチャンスをしっかりと掴むことができた。チャンスを掴むために、チャンスを得られる場所にとにかく居続けることが大事なのだということを、裕毅は改めて証明しました。

 一方、リカルドにとっては難しく、辛い週末となりました。リカルドは速く、実力もあるドライバーではありますが、やはりモータースポーツでは流れを引き寄せることがすごく重要です。リカルドになぜ流れが向かないのかは、外から見ている我々には窺い知ることもできませんし、流れが向かない理由や決勝でのアクシデントの要因はリカルドのみが知るところだと思います。

 決勝でのアクシデントに関しては防げたものだったとは思います。ただ、リカルドらしくないと感じたのは、レース後に本人も「僕にはアルボンのことが見えていなかった」とコメントしたとおり、右のミラーを見れていない、少し楽観的な動きだったことです。予選に関しては、金曜フリー走行1回目(FP1)を走れなかったこともあり(編註:岩佐歩夢がリカルドのマシンでFP1に出走したため)、マシンを詰める、自分自身をチューニングする時間も少ない状況でしたが、それでもQ2は今季一番と言える走りだったと思います。

 ただ、それでもリカルドは裕毅から0.055秒差の11番手となりQ3には残れず、決勝ではアクシデントを起こしてしまうような場所にいた、これはすべてが繋がっていると思います。流れというものは少しの出来事で変わります。今リカルドは精神的にも、そして立場的にも本当に厳しい状況にはあると思いますが、今は周りがリカルドの能力がどうこう言うべきではないと思います。

 ドライバーの立場になれば、それがどれだけ辛いことかはわかります。こういった流れが向いていない状況だからこそ、私たちモータースポーツを応援している立場としては、ポジティブな言葉で彼を応援してあげたいと思います。その上で、裕毅と高め合い、RBとしてクルマをいいものに仕上げて結果に繋げることが、今後の流れ、チャンスを掴むためには大切だと感じます。

 さて、今回の日本GPでもDAZN中継の解説として現地入りしました。鈴鹿や事前に東京で行われたイベント等も含めて、いろいろなF1ドライバーらとも言葉を交わしましたが、皆それぞれが春の日本GPをすごく楽しんでいました。シャルル・ルクレール(フェラーリ)やランド・ノリス(マクラーレン)と「この時期の日本GPはどう?」という話をすると、総じて「この時期でやる方が楽しい、圧倒的に春がいい」という意見でした。

 ドライバーたちがそう感じてくれているということは非常にポジティブなことですし、日本だけではなくF1全体にとってもいいことだったと思います。F1を率いるCEOのステファノ・ドメニカリとも挨拶程度でしたが言葉をかわす機会がありました。やはり、彼も口数が多くなっていたといいますか、心から春の日本GPを楽しんでいることが見て取れる、そんな雰囲気でした。

 F1ドライバーやファンのみなさんだけではなく、F1の開催スケジュールを決める立場の人物も含め、春の日本GPに対するポジティブなコメントや表情を多く見てとれたので、2025年春の日本GPも今から楽しみですね。

 次戦は5年ぶりの中国GPということで、予想も難しいです。さらに今季初のスプリントでの開催ということもあり、予選までにじっくりと、チーム独自のメニューで走れる時間も多くはありません。それだけにアグレッシブな戦略を採るチームと手堅い戦略を採るチームで別れてくると思います。

 各チームのアプローチの仕方、戦略に注目したいですね。昨今はシミュレーターの進化により得られるデータも多いため、大きく外してくるチームは少ないとは思います。ただ、実際に走ってみないとわからない部分は多々あるため、大きく外してくるチームがゼロだとは言い切れません。それだけに中国GPは勢力図通りにはいかないかもしれないなという期待もあります。

 依然としてレッドブル優勢に変わりはありませんが、低速コーナーも多々ある上海だけに、低速域でスピードのあるフェラーリが勢いを見せるかもしれません。各チームの戦いぶり、そして今季初のスプリントの展開に注目していきたいと思います。

【プロフィール】
中野信治(なかの しんじ)
1971年生まれ、大阪府出身。無限ホンダのワークスドライバーとして数々の実績を重ね、1997年にプロスト・グランプリから日本人で5人目となるF1レギュラードライバーとして参戦。その後、ミナルディ、ジョーダンとチームを移した。その後アメリカのCART、インディ500、ル・マン24時間レースなど幅広く世界主要レースに参戦。スーパーGT、スーパーフォーミュラでチームの監督を務め、現在はホンダレーシングスクール鈴鹿(HRS)のバイスプリンシパル(副校長)として後進の育成に携わり、インターネット中継DAZNのF1解説を担当。
公式HP:https://www.c-shinji.com/
公式Twitter:https://twitter.com/shinjinakano24

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みんなのコメント

1件
  • kei********
    面白い。RBはトストがいない今メキーズのチームではなく角田のチームになりつつある。
※コメントは個人の見解であり、記事提供社と関係はありません。

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