電撃の統合でドラ息子「日野」を切ったトヨタの真意は勘当か、愛のムチか?
掲載 carview! 文:山本 晋也 104
掲載 carview! 文:山本 晋也 104
2023年5月30日、「ダイムラートラック傘下の三菱ふそうとトヨタグループの日野自動車が2024年中に統合する基本合意書を締結した」と発表されました。
2022年に燃費を実際よりよく見せるための認証不正が発覚した日野自動車。対象車の燃費補償や重量税の差分補償などの対応が発表たものの、今後は成長の道が見えづらいという指摘もありましたが、ひとまず三菱ふそうとの統合が発表され、日野ブランド復活への道筋が見え始めたといえそうです。
発表内容を簡単にまとめると…
・三菱ふそうと日野を統合する
・持株会社を立ち上げる
・親会社であるダイムラートラックとトヨタはその株式を同割合で保有する
…となっています。
ただし、この持株会社は上場を予定しているので、ダイムラートラックとトヨタが50%ずつを所有するということはあり得ません。一般的な上場基準では株主数が800以上であることや、流通する株式比率が35%以上であることが求められ、例えばダイムラートラックとトヨタが25.5%ずつ保有するといったカタチになるのではないでしょうか。
持株会社をダイムラートラックと共同経営することで、日野はトヨタの連結対象の子会社から外れます。1000億円以上の赤字を出し、復活の目途が立たない日野をいつまでも支えることをステークホルダーが認めるはずもなく、決算的に関係を断つのはトヨタにとって意味ある判断でもあります。
実は、認証不正が発覚した段階で、日野はトヨタが主導する国産の商用車連合であるCJPT(Commercial Japan Partnership Technologies)株式会社から除名され、現在はトヨタ・いすゞ・ダイハツ・スズキが出資するかたちになっています。
CJPTを軸として、主に日本国内での商用車のカーボンニュートラル化・ゼロエミッション化の技術開発を目指しているわけですが、除名された日野はその知見を活かすことができません。
カーボンニュートラルやゼロエミッションといったテクノロジーの研究開発を日野が単独で行うのは非現実的です。CJPTに戻れないとなれば、どこか別の企業と連合を組むしかなかったともいえます。
<CJPTが開発を進める燃料電池小型トラック。日野が除名され、現在参画するのはいすゞ、スズキ、ダイハツ、トヨタ>
今回の発表では、統合後の新会社にダイムラートラックとトヨタが「水素をはじめCASE技術開発で協業、競争力強化を支える」ことも明記されています。カーボンニュートラルへのアプローチは電動化や人工燃料などいろいろありますが、あえて「水素」という具体例が挙げられているのが、三菱ふそうと日野が統合する背景を示しています。
中国や欧州ではゼロエミッションのアプローチとして、再生可能エネルギー発電とBEV(電気自動車)のコンビネーションが主軸になっているのは良く知られていますが、日本は政府の方針で“水素社会”を目指しています。
“水素社会”では、エネルギーを水素として保管することで、工場を動かし、船を運航し、バスやトラックを走らせることを目指しています。水素を燃やした火力発電も検討されています。
つまり、日本向けのバス・トラックを開発する企業は水素エンジンや水素燃料電池への技術投資が必要となります。
その点、ダイムラーとトヨタの両社は水素燃料電池の研究を長く続けています。持株会社を通して、そうした知見を共有することで水素社会において求められるバスやトラックの開発がスピードアップすることが期待できるのです。
<トヨタの燃料電池技術の象徴は市販モデルの「ミライ」>
>>トヨタの水素自動車「ミライ」ってどんなクルマ?
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筆者は、日野の認証不正が発覚した段階から非常に厳しい見方をしてきました。第三者委員会による調査では、不正の背景に企業風土があったという指摘もあり、トヨタ傘下のままで生まれ変わるのは難しいという印象も持っていました。
<昨年秋、日野は不正の温床となった企業風土を改革する新たな企業理念「HINOウェイ」を発表>
思えば、三菱ふそうにも“リコール隠”しという自動車メーカーとしてはあるまじき不正が何度もありましたが、ダイムラートラック傘下となったことで体質が改善してきたという印象です。
トヨタがダイムラートラックと協業して、お互いの傘下である日野と三菱ふそうを統合するというのは、まさに企業体質を変えるための荒療治であり、これが日野を生まれ変わらせる方法と判断したからなのかもしれません。
なお、統合後も「FUSO」と「HINO」のブランドはそれぞれ残ることが発表されています。これまで築いてきたブランド価値を無にするよりは継続させたほうがグローバルには有利という判断なのでしょう。こと日本市場に限っていえば、まったく新しいブランドを立ち上げたほうがブランディングにはつながると感じてしまいます。
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<写真:日野デュトロZEV(電気自動車)に搭載されるフロントタイヤを駆動するモーターなどのユニット(人とくるまのテクノロジー展2023YOKOHAMAにて筆者撮影)>
<終わり>
写真:トヨタ、日野
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