新聞記事やWEBの情報は、その役割からいって直近の話題が大半である。私たちは、今、どこにいるのかを知るには好都合だ。しかし、その記事、情報がどのような背景で、なぜ記事として編集キャップに拾われたのかを知れば、私たちの立っている現在をさらに深く知ることができ、少しばかり先の世の中の様子も想像できる。
そこで、新聞とWEBの記事を拾い、私なりの解説を加え、その記事の背景や持っている意味について考えてみたい。もちろん、このコラムのタイトルのとおり環境とエネルギーをめぐる記事が中心である。
まずは、9月4日の朝刊で各紙が一面で報道した「米中、パリ協定同時批准」(日経)だろう。
■パリ協定とは
パリ協定はご存じのとおり、2015年12月にパリで開催された「第21回国連気候変動枠組み条約締約国会議」(COP21)で採択された地球温暖化対策の国際的な枠組みである。
1997年に採択された京都議定書(COP3)では、温暖化ガスの削減目標を先進国だけに義務付けたが、パリ協定は中国などの途上国を含む196ヶ国・地域が参加する。
中国の温暖化ガスの排出割合は20%で世界一。2位の米国は17.8%だから、この2国で世界の温暖化ガスのおよそ半分を排出している。その2国がパリ協定を批准した。いよいよ地球温暖化防止に向けて世界が動き出す。
ちなみに初代プリウスが発売されたのは、1997年の12月だった。当時は、COP3はもちろんのこと、地球温暖化も知らない人が多かった。ましてや自動車が地球温暖化の原因物質(CO2)を排出しているなどと考える人はほとんどいなかった。
そうした状況だったので、トヨタがプリウスを発売した意味を了解できた人は、おそらくほんの少数だったのではないだろうか。かくいう私も・・・と言いたいところだが、残念ながら? 日本EVクラブを94年に設立し、すでに自動車の環境対応の必要性を訴えていた。ただ、そうした状況だったので、多くの先輩、友人、自動車メーカー関係者からいぶかられ、友人の多くを失った。
言いたいことはそんなことではなく、米中という温暖化ガス排出大国が同時にパリ協定を批准したということは、自動車のCO2排出量規制が強まっていくことを明示しているということだ。
■米政府、トラックの温暖化ガス排出削減に向け新たな規制発表(ロイター)8月16日
米国はカリフォルニア州を中心に10州がZEV規制を実施する。ご存じのようにZEVとはゼロ・エミッション・ビークルの意味で、具体的にはEV、FCVを指す。PHEVも認められているが暫定的であり、FCVの普及はまったくあり得ないから、実質的なEV強制導入法である。
この10州で米国の30%の自動車が販売される。2015年の米国自動車販売台数は1670万台だから、10州の販売台数はおよそ500万台である。2022年以降は販売台数の22%以上をEV(PHEV)にしなければならない。110万台だ。ちなみに22%ということは、販売台数の5台に1台がEV(PHEV)ということである。米国10州では、EVが生活にしっかり根を下ろすということになる。
パリ協定を批准した米国としては、ガソリン価格が安くなって大型SUVが売れていようが、ZEV規制を10州に留めず、場合によってはもっと厳しい規制を連邦規制として全州に実施するかもしれない。
それを証明するかのように、「米国環境保護局(EPA)は8月16日、2027年までに中型および大型トラックの温暖化ガス排出量を最大25%削減するための新たな規制を発表した。気候変動関連ではオバマ大統領が任期中に打ち出す最後の主要規制の1つになりそうだ」という記事がロイターから配信された。
EPAは関連企業と400回以上に及ぶ会合を重ねたということであり、ダイムラー・トラック・ノース・アメリカもエンジン・メーカーのカミンズも新規制を支持しているので、実施は間違いないだろう。
■米車業界、燃費規制に反発(日経)8月20日
一方、GMを筆頭に、日本のトヨタ、ホンダも加盟する米国の自動車工業会は、EPAに対して、「ガソリン価格が低下して、ユーザーは低燃費の自動車に対する興味を失っている。売れ筋は大きなSUVであり、燃費向上のための技術開発には費用がかかり経営を圧迫する」との理由で燃費規制に反発しているとの記事である。
米国の燃費規制は、オバマ大統領が進める環境政策の柱の一つだ。2012年に制定された現在の規制は、2025年モデルの乗用車と小型トラックの平均でリッター23.2kmの燃費を達成するよう求めている。これに対して米国自工会が反発しているということだが、毎度の話だ。しかし、「いまの自動車メーカーの技術なら達成可能」とEPAは態度を硬化しているとのことだ。
EPAのクリス・グランドラー局長は、「温暖化対策に自動車業界が果たす役割は大きい」と規制の意義を強調しているという。ちなみに米国の自動車が排出する地球温暖化物質のCO2の割合は30%と他の国に比べてきわめて多い。日本は18%ほどである。
米国自動車産業は、自動車ローンのサブプライム問題を抱え、かつ新車販売に減速感が出ている。2015年をピークに自動車販売は減退し、経営はひっ迫する。これ以上の技術開発への出費はごめんだということだろうが、なんとも20世紀的な発想である。時代は大きく変わっていくことに気づかないメーカーに明日はない。
■米新車販売に減速感(日経)9月3日
米国の自動車販売は2010年から拡大を続けている。世界同時不況の嵐が襲ったリーマンショック(08年)から立ち直ったことが大きいが、リーマンショックの原因だった金融商品(サブプライムローン)の自動車版として超低金利の自動車ローンやリースを中心にした販売促進のおかげである。その基盤が崩れようとしている。自動車版サブプライムローンの破綻だ。
そうした販促のおかげで自動車販売台数は伸びたが、同時に買い替え需要も一服した。自動車メーカー幹部も「どうやら自動車販売のピークは2015年だったようだ」と語り始めている。
それを示すかのように、8月の販売台数は前年同月に比べ4.1%も減少した。ちなみにGMは5.2%、フォードは8.8%、トヨタは5.0%、日産は6.5%、ホンダは3.8%それぞれ減少した。これは事前の2.5%ダウンという予想を大きく上回った。
これは代替需要の拡大、需要の減退といういつもの自動車景気循環のように見えるが、そうではない。今は、かつてのように自然に需要が増大するほど市場はシンプルではない。成長を続けるように見える米国のマーケットも十分に成熟している。強力な市場拡大戦略がないと、自動車は売れない。この戦略が、自動車版サブプライムローンであり、大問題なのだ。ということで、次のニュースへ。
■米新車市場 2つの「過去最高」(日経)8月16日
「過去最高」といっても、決して喜ぶべきものではない。最高なのは、自動車ローンの残高とリース販売の割合の高さであり、この2つが米国自動車マーケットに深刻な影を落とすからだ。
米国の自動車ローンの残高は1兆ドル(約100兆円)で過去最高だ。ちなみに日本の平成28年度の一般会計予算は96.7兆円である。これがまるごと自動車ローン残高として積み上がっていることになる。
しかも自動車販売台数拡大を狙って、ローンはこれまでの60カ月を上回る96カ月(8年)である。その上に、米連邦準備理事会(FRB)の低金利政策だ。景気減退を恐れてFRBはなかなか政策金利を上げられない。おかげで自動車は売れてきたが、ローンが日本の国家予算も超えるほどに溜まっている。これが正常であるわけがない。
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