ブリティッシュ・レイランドへの深い愛
text:Martin Buckley(マーティン・バックリー)
【画像】カーズリーのBLコレクション BL時代を生き抜いたミニ・クーパーも 全45枚
photo:John Bradshaw(ジョン・ブラッドショー)
translation:Kenji Nakajima(中嶋健治)
本物のエンスージァスト、自動車愛好家とは他人の目や評価を気にすることなく、自分が好きなクルマを大切に所有する人だと思う。読者もそんな1人かもしれないが、英国にもかなりの筋金入りが存在している。
今回ご紹介する、ブリティッシュ・レイランド(BL)の作品を集め続けるアンソニー・カーズリーも該当する1人。仕事は半分引退した状態にあるが、暇というわけではなさそうだ。
英国の高級車ディーラー、ジャック・バークレイで営業マンを務めている彼は56歳。単にBLブランドのファンというだけではない。高級車と聞いて読者が思い浮かべるであろう、ほとんどのクルマに乗ってきた経験がある。
彼が所有するロールス・ロイス・ファントムVIやデイムラーDS420リムジンを駆り出し、ショーファーとしても忙しい。ロンドン・パークレーン通りに面した5つ星ホテルのザ・ドーチェスターへ、お客様をお届けするため。
カーズリーは1970年代から1980年代の古き良きロールス・ロイスやベントレーをこよなく大切にし、周囲の所有欲をうずかせている。だがそれと同じくらい、メトロやローバーSD1、バンデンプラ、アレグロも愛している。
ブリティッシュ・モーター・コーポレーション(BMC)やオースチン、ローバーといったブランドがコレクションのテーマで、レンジローバーにも広がっている。英国スポーツの代表、MGBと、サルーンのトライアンフ・スタッグにも。
クルマを救うための生き字引級の知識
それぞれに、彼なりの物語がある。黒のMGBロードスターは、オイスターゴールドに塗られたアレグロがベースのバンデンプラとともに、英国では名の通った良家の所有だったという。引き継がないことが、無礼に感じられるほどの。
その取り引きでは、オーバードライブ付きのMTで、レザー内装が与えられたトライアンフ・スタッグも一緒にやってきた。同じガレージに並んでいた、愛情の注がれたフェラーリより遥かに安い値段で。
カーズリーはボディカラーの名称からオプションに至るまで、生き字引級の知識を保有している。高く評価されることのないクルマを救いたいという動機が、その理由だ。
彼が最初に就いた仕事は、生まれ育った英国北部の湖水地方、カンブリアにあるBLディーラーの営業マン。発売されたばかりのマエストロを、お客様へお勧めすることだった。「その仕事が好きでした」。とカーズリーは認める。
「祖父はマンチェスター郊外のボルトンで、大きなBMCディーラーを経営していました。血筋だったのでしょう」。カーズリーの父も、湖水地方でレンジローバーなど魅力的なクルマに乗ってきた。
しかも彼の母は、情熱的なランチア・ファンだった。ストラトスを所有していた時期もあったという。祖母も、同じくらい強い影響を与えたらしい。
「父は、どちらかというと馬に夢中でした。彼は英国馬車競技協会の設立メンバー。フィリップ王子や、著名人が所有する馬と競わせるため、かなりの資金を投じていました」
ほとんどが車検を通し走れる状態
BLのディーラーを辞めると、カーズリーはアメリカへ移住。シアトルでジャガーやポルシェ、アウディなどを3年ほど販売した。
英国へ戻ると、ホンダのディーラーを購入。続いてロールス・ロイスやベントレーのディーラー、ダットン・フォーショーへ移籍し、1995年からはジャック・バークレイに務めた。これまで、英国女王へ3台のクルマを納入しているそうだ。
取材中、2か所に分かれたガレージで数えたコレクションは40台。カーズリーによれば、組み立て途中のクルマも別に10台以上あるという。一部は、放置状態のものも含まれるが。
比較的新しいモデルとしては、ローバー100 メトロ。古い方では、1970年代のローバーP6やバンデンプラ1300を維持している。ほとんどが、車検を通し走れる状態を保っている。絶望的にサビたクルマの集まりではない。費用を惜しまずレストアされている。
その中でも、バンデンプラはコレクションの目玉の1つ。13台のメトロのうち、10台がバンデンプラ仕様。5ドア・ハッチバックサルーンのローバーSD1も複数台あり、その半分は上級なバンデンプラ仕様だ。
取材したガレージには、6台のメトロがびっちりと並んでいた。ドアミラーが触れそうな間隔で。シャンパンカラーの1台を見ながらカーズリーが説明する。「ATのメトロ・バンデンプラは、完全にレストアしてあります」
極めて珍しいバンデンプラ・メトロ
「解体途中の家で発見されたクルマです。不動産業のいとこから、年配の女性が2万3000kmくらいのメトロを所有していて、家と一緒に潰す予定だと聞いたんです。今は再塗装してあります。こんなに良い状態のメトロは見たことがないと思いますよ」
カーズリーが話すとおり、バンデンプラ・メトロの残存台数は極めて少ない。「多くのメトロは、オリジナル・ミニのドライバーによってMG製のエンジンが抜き取られました。忘れないで欲しい1台です」
シャンパンカラーの隣には、現存する唯一と予想される、アランベージュでMTのバンデンプラ・メトロが停まっている。ブラックの方は1万1000km、レッドのメトロでも3万5000kmという走行距離の短さだ。
明るいイエローのクロスオーバーは、メトロ・スカウトのプロトタイプ。モーターショーに出品された提案車両だった。近年は一般化したクロスオーバーというスタイルだが、当時は車椅子が載せられるように改造された福祉車両に見えた。
カーズリーが続ける。「破産間際のBLが開発した、歴史的に重要なモデルです。ランドローバー・フリーランダーの登場で、登場には至りませんでした」。コンセプトカーだが、走れる状態にまで作り込まれている。
さらに珍しいのが、1981年に作られたフレーザー・ティックフォード・メトロ。MGメトロの登場より前に、25台だけ製造された。レザー張りの内装が施された、超高級なコンパクトハッチバックだ。
この続きは後編にて。
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みんなのコメント
よく見かけました。