■“異型ハンドル”そのメリットとは
レクサス新型「RZ」やトヨタ「bZ4X」に搭載される予定の丸形ではない新形状のハンドルは、ではなまるで、SF映画に出てくるクルマのような未来的な装備です。
近年のコンセプトカーにも多く用いられているこの異型ハンドルにはどういうメリットがあるのでしょうか、そしてどういう仕組みで“まともな運転”ができるのでしょうか。
【画像】「えっ…」これで運転できるの? 見れば見るほど不思議な「異型ハンドル」を画像でしっかり見る(35枚)
かつて日本でも大ヒットしたアメリカのテレビドラマ「ナイトライダー」。本国では1982年から86年、日本では87年から89年にかけて放送されました。
そんなナイトライダーで劇中に登場するクルマが「ナイト2000」。スパイ映画「007」シリーズのボンドカー並みどころかそれ以上の特殊装備を備え、完全自動運転や人工知能との会話がおこなえるなど、昨今の先進機能につながる“時代を先取りしたクルマ”です。
当時小学生だった筆者をはじめ、クルマ好き少年たちの心を鷲掴みにしました。
そんなナイト2000は斬新なコックピットインターフェイスも特徴的。少年の心に大きなインパクトを残しました。
ディスプレイがいくつも並ぶなど革新的だったのですが、極めつけはハンドル。一般的な丸型ではなく、飛行機の操縦桿のような形状だったのです。
もちろん、当時の多くの人は、自動車にそんなハンドルを組み合わせる時代が来るなんて夢にも思っていなかったでしょう。
そんなナイトライダーの本国放送開始から約40年が経過した2021年、クルマ好きを驚かせるニュースがありました。
電気自動車のトップメーカーであるテスラが2022年モデルの「モデルS」などに「ヨーク型」と呼ばれる異型のハンドルを装備すると発表したのです。
そのハンドルはまるで飛行機の操縦桿のようであり、まさにあのナイト2000のイメージ。「ナイト2000の特徴のひとつが現実となった」というだけで胸が弾むのは、きっと筆者だけではないでしょう(テスラのステアリングはナイト2000と異なり下底部で左右が繋がっていますが)。
実は、国産車でもヨーク型を装着する車両が今後発売される予定となっています。
それはレクサスのEVである「RZ」。現在発売されているRZは通常の丸いハンドルを装備していますが、将来的にはヨーク型ハンドルを装備した仕様を用意することが明かされていて、すでにその写真や動画も公開済みなので見たことがある人もいるのではないでしょうか。
そんなヨーク型ハンドルのメリットはどこにあるのでしょうか。大きなメリットはふたつあります。
ひとつは、開放感が高まること。
ハンドルが小さくなることで目に入りにくくなり、視界が開けるからです。ハンドルの上部は常に視界に入るので、そこが視界から消える効果はかなり大きいでしょう。
そしてふたつめのメリットは、メーターが見やすくなること。
一般的なメーターはハンドルによって表示が遮られがち。いっぽうヨーク型ハンドルはハンドルの上部がなくなることでメーターが見やすくなります。
またそれに関連して、メーターまわりのデザインに自由度が高まる可能性が考えられます。
メーターは、ハンドルがあることで、ドライバーが確認できる範囲が限られる制約を受けています。
しかし将来的には、最初からヨーク型ハンドルを前提とした内装レイアウトとすることも可能となるのです。
一方、デメリットもあります。
■ヨーク型ハンドルのデメリットとは
ヨーク型ハンドルのデメリットは、ハンドル操作が煩わしくなることです。
テスラの場合、一般的なステアリング機構のままハンドルだけをヨーク型へ変更しているので、ユーザーからはあまり歓迎されていないといい、通常のハンドルへ交換するユーザーも多いようです。
最大の欠点はハンドルを大きく回すときで、握れる場所が限られているからスムーズにハンドルを回せません。
動画投稿サイトではヨーク型ハンドルのモデルSでドリフトを試す動画を見ることができますが、ドライバーはかなり苦労している様子がうかがえます。
しかし、レクサスRZに関してはテスラと異なり、そのデメリットがありません。なぜなら、ハンドルを大きく回す必要がないからです。
その理由はステアリングシステムの違いにあります。レクサスRZのヨーク型ハンドル装着車は、ハンドル角度とタイヤの切れ角が一定ではないからです。
レクサス RZのヨーク型ハンドルは、車速や舵角に応じてハンドル角度とタイヤ舵角が変化するのです。
ギヤ比可変式のステアリングはこれまでも、トヨタ「ランドクルーザー」やホンダ「S2000」などいくつかの車種に採用されていますが、レクサスRZが従来のそれと違うのはハンドル舵角とタイヤ切れ角の変化量の大きさにあります。
低速域では、ハンドルをわずかに切っただけでもこれまで以上に大きくタイヤが切れ、ランドクルーザーやS2000の比ではないほどハンドルをたくさん回さなくても小回りが可能となっているのです。
一般的なステアリング機構を搭載するテスラのヨーク式ハンドル装着車のハンドル回転(ロック・トゥ・ロック)が約840度なのに対し、レクサスRZのハンドルはわずか150度しか回りません。
150度であれば、ハンドルをグルグル回す必要も持ち替える必要もないので、ヨーク型ハンドルでも不都合がないというわけです。
ところで、レクサスRZはなぜ「わずか150度の回転で車庫入れまでこなすハンドル」を実現できたかのでしょうか。
それは「ステア・バイ・ワイヤー」と呼ぶ機構を組み込んでいるからです。
これはハンドルとステアリング機構がシャフトで機械的につながっておらず、ドライバーのハンドル操作を電気信号に置き換え、その信号に応じてモーターがタイヤを操舵するもの。
そんな機構自体は日産が「スカイライン」に搭載していますが、スカイラインと異なる部分があります。
それはスカイラインではハンドル操作を忠実にタイヤ舵角に反映するのに対し、レクサスRZはプログラムが介在し、状況に応じてハンドル操舵量に対するタイヤ舵角をコントロールする仕掛けとしていることです。
そのため、必要に応じてハンドルを少し切っただけでもタイヤは大きく角度が付くというわけです。
ちなみに日本においてもハンドルが丸くなければいけないという基準はなく、ヨーク式ハンドルハンドルでも公道を走ることは問題ありません。
それにしても、昨今の自動車には自動運転や人工知能との会話など、テレビでナイトライダーを見ていた時代には考えられなかった進化が組み込まれるようになりました。80年代にナイトライダーに熱中していたクルマ好きとしては非常に感慨深いものがあります。
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