現在位置: carview! > ニュース > 業界ニュース > セダンに未来はあるのか? 令和の“くうねるあそぶ。”を考える

ここから本文です

セダンに未来はあるのか? 令和の“くうねるあそぶ。”を考える

掲載 36
セダンに未来はあるのか? 令和の“くうねるあそぶ。”を考える

日産が発表したプロトタイプセダン「コンテンポラリー ライフスタイル ビークル」を見た今尾直樹が考えるセダンの未来とは?

あえてセダンに搭載した“仕掛け”

新型トヨタ・クラウンの新シリーズに注目だ!

日産がさる3月23日に発表した「ブリコラージュの発想によるプロトタイプセダン」をご存じでしょうか?

日産の公式YouTubeで、すでに動画をご覧になった方もいらっしゃると思う。私も見た。思わず笑っちゃいました。これほどアイディアをてんこ盛りに詰め込んだセダンは試作車でも珍しいし、キレッキレのダンサー(たぶん)がひとり、躍動しながら紹介する動画自体もとてもよくできている。

「ブリコラージュの発想」によって、日産いうところの「コンテンポラリー ライフスタイル ビークル」に仕立てられたのはV37型現行スカイラインである。

ブリコラージュというのは、ウィキペディアによると、「寄せ集めて自分で作る」「ものを自分で修繕する」という意味だそうで、フランスの文化人類学者、クロード・レヴィ=ストロースが著書『野生の思考』などで、人類が古くから持っていた知のあり方をこう呼んだという。

手近にある、ありもので急場をしのぐ、というようなことである。たぶん、ちょっと前に流行ったピコ太郎の「ペンパイナッポーアッポーペン」みたいなことである。……とレヴィ=ストロースを読んだことのない私は、そう解釈しております。違っていたら、すいません。

現行スカイラインに投入された「ブリコラージュ」は、たとえば「サイドミラーゴミ箱」だとか「サンバイザーテーブル」など、すでにあるモノを、本来の目的ではないモノとして使ったりしている。「脱着式ディスプレイ」に「ボトルヒーター」、「自動リクライニングシート」、あるいは「ムーンルーフビジョン」、そして「AIアシスタント:SORA」など、デジタル技術を用いた、こんにち的な仕掛けも施してある。「ボトルヒーター」は、ちょっと違うけど。あるいは「長傘収納」、「バンパー下収納」もあったら実用的で楽しいだろうし、キャンプやアウトドアで活躍しそうな「ポータブルバッテリー」、「屋外スクリーン」に「屋外シアタープロジェクター」なんていうのもある。全部で29もの、生活に密着した「王様のアイディア」的あれやこれや。詳細については、ぜひ動画をご覧いただきたい。

これらの機能は、現代の自動車マーケットの主流たるSUV、ミニバンにこそふさわしい。とも思えるけれど、それをあえてセダンに搭載することで、日産いわく、現代の「食う」、「寝る」、「遊ぶ」といった日常を表現することで、「コンテンポラリー ライフスタイル ビークル」なるコンセプトを打ち出しているわけである。

「いつかはクラウン」がいつしか、って、昨年ですけれど、ちょっと背の高いクロスオーバーに転じ、いまやセダンは風前のともしびである。と、一般には解されている。そういう世界的な潮流に逆らっているようにも受け取れる。このプロトタイプセダンは、日産のパンク、あるいはラッパー的反骨精神を表現しているようにも思える。

野心的な試み“くうねるあそぶ。”という、そう、ニッポンがイケイケだった1988年の秋に日産が発売したパーソナル・セダン、「セフィーロ」で使われたキャッチフレーズを、ここで引っ張り出してきているのも興味深い。

あの頃、セダンはトヨタの「クラウン」、「マークII」3兄弟をはじめ、売れまくっており、セダンはマーケットの主流で、ホンダ「オデッセイ」の登場は1994年だからミニバンはまだ端っこのほうで、SUVと合わせ、RVと呼ばれていた。

初代セフィーロといえば、思い出すなぁ、助手席に乗る井上陽水がサイド・ウィンドウをスーッと下げて、「みなさん、お元気ですか」と、カメラに向かってあいさつして走り去るTVコマーシャルである。

“くうねるあそぶ。”は糸井重里の作のひとつだそうで、なんて哲学なんでしょう。と当時も、30年近く経ったいま、なおさらそう思う。同時に、いまと違って、あの頃のニッポンはじつに楽観的だったのである。

その“くうねるあそぶ。”を21世紀のこんにち、復活させようとしているわけだから、じつに野心的な試みであろう。クルマといえばミニバン、SUVの若いひとたちにはもしかして、意味不明、と受け取られるかもしれない。

筆者としては「ブリコラージュ」という「ニューアカ」的な用語を使っていることにも注目したい。ありましたねぇ、「ニューアカ」ブーム。初代セフィーロが登場したのは、前述のように1988年秋だけれど、そのちょっと前の1980年代前半からニッポンは消費社会の神話と構造だの、脱構造主義だのポストモダンだのスキゾだのパラノだの、フランス現代思想だとか文化人類学だとかが一世を風靡していたのだった。

してみると、このプロトタイプセダンは、やっぱり“くうねるあそぶ。”とか「ブリコラージュ」とかを懐かしい、と感じるオトーサン世代に向けたものなのだろうか?

一概にそうとも思えないのは、ファミリーではなくて、たったひとりの登場人物が現行V37型スカイラインに施したブリコラージュの数々を紹介する動画である。「コンテンポラリー ライフスタイル ビークル」の現代性は奈辺にありや? と、問われなば、この動画を見る限りですけれど、『ヒロシのぼっちキャンプ』とか『孤独のグルメ』とかにもつながるライフスタイルが浮かびあがってくる。

21世紀のこんにち、ライフスタイルはますますもって多様化しつつある。SDGsに配慮しつつ、ひとさまに迷惑をかけない範囲で、好き勝手に行動の自由を謳歌する個人。その際、なくてはならないのはデジタル技術で、ゴミ箱も大切だけれど、SORAなるAIアシスタントも、屋外シアタープロジェクターもまた、コンテンポラリーな生活にとって必需品なのだ。

もしもニッポン社会にダイバーシティがホントに実現するのであれば、セダンの未来は、数的に以前ほど望めないにしても、さほど暗くはない。と、筆者は想像する。

セダンはファミリーカーというより、むしろスポーツカーに近い、独立した個人の表現手段として生き残るのではあるまいか。

文・今尾直樹 編集・稲垣邦康(GQ)

こんな記事も読まれています

マツダ新型「和製スポーツカー」市販化へ! ロータリー搭載の「アイコニックSP」実際欲しい? 美しすぎる“デザイン”が評判に
マツダ新型「和製スポーツカー」市販化へ! ロータリー搭載の「アイコニックSP」実際欲しい? 美しすぎる“デザイン”が評判に
くるまのニュース
RBメキーズ代表、中国GPでの角田裕毅の苦戦を分析「初めてのサーキットでスプリント……そこでハードタイヤを履かせた我々にも責任がある」
RBメキーズ代表、中国GPでの角田裕毅の苦戦を分析「初めてのサーキットでスプリント……そこでハードタイヤを履かせた我々にも責任がある」
motorsport.com 日本版
スズキ・キャリイがマイナーチェンジ。先進安全装備および機能装備の拡充や新ボディカラーの設定などを実施
スズキ・キャリイがマイナーチェンジ。先進安全装備および機能装備の拡充や新ボディカラーの設定などを実施
カー・アンド・ドライバー
これまでの日産車とは全く違う!? しかもPHEV!な『エヴォ・コンセプト』…北京モーターショー2024
これまでの日産車とは全く違う!? しかもPHEV!な『エヴォ・コンセプト』…北京モーターショー2024
レスポンス
なぜ「高速の渋滞」起きる? 交通量だけじゃない意外な「原因」 日本イチの渋滞「東名・大和トンネル付近」のイマは?
なぜ「高速の渋滞」起きる? 交通量だけじゃない意外な「原因」 日本イチの渋滞「東名・大和トンネル付近」のイマは?
くるまのニュース
一体どんな対応をしてくれる? バイクの騒音被害を通報した際の警察の対応とは
一体どんな対応をしてくれる? バイクの騒音被害を通報した際の警察の対応とは
バイクのニュース
プレステージ電動SUVクーペのアウディQ8スポーツバックe-tronに一充電走行距離619kmを実現したレンジプラスパッケージを設定
プレステージ電動SUVクーペのアウディQ8スポーツバックe-tronに一充電走行距離619kmを実現したレンジプラスパッケージを設定
カー・アンド・ドライバー
24時間で10万台を受注!話題の「スマホ屋のスーパーEV」に人気殺到…北京モーターショー2024
24時間で10万台を受注!話題の「スマホ屋のスーパーEV」に人気殺到…北京モーターショー2024
レスポンス
“どこへでも行き、生きて帰ってこられる”究極のキャンピングカーを欧州で発見! トヨタ「ランクル70」ベースのゴツいトラキャンがカッコいい
“どこへでも行き、生きて帰ってこられる”究極のキャンピングカーを欧州で発見! トヨタ「ランクル70」ベースのゴツいトラキャンがカッコいい
VAGUE
JLR レンジローバーの25MYは出力アップとLWBにディーゼル・マイルドハイブリッドをラインアップ
JLR レンジローバーの25MYは出力アップとLWBにディーゼル・マイルドハイブリッドをラインアップ
Auto Prove
これは便利!スマホとつなげてカーナビアプリを操作できるnpdのディスプレイオーディオ「NPD-A100」
これは便利!スマホとつなげてカーナビアプリを操作できるnpdのディスプレイオーディオ「NPD-A100」
@DIME
片道2万円の完全個室「高速バス」 わずか11席の“超リッチ”仕様!? 新幹線よりも高価な「ドリームスリーパー」とは
片道2万円の完全個室「高速バス」 わずか11席の“超リッチ”仕様!? 新幹線よりも高価な「ドリームスリーパー」とは
くるまのニュース
「木を見て森を見ず」 バスドライバー不足で「給料上げろ」ばかりを騒ぎ立てる有識者の功罪
「木を見て森を見ず」 バスドライバー不足で「給料上げろ」ばかりを騒ぎ立てる有識者の功罪
Merkmal
キャリイにハイラックス! アジアのモーターショーで「トラック」が熱視線を浴びるワケ
キャリイにハイラックス! アジアのモーターショーで「トラック」が熱視線を浴びるワケ
WEB CARTOP
マツダがラージ商品群第4弾となる新型3列シートSUVの「CX-80」を欧州で初公開
マツダがラージ商品群第4弾となる新型3列シートSUVの「CX-80」を欧州で初公開
カー・アンド・ドライバー
え?これですか?電動ゲレンデヴァーゲンです 見た目も乗り心地もGクラスそのもの 電動Gは愛好家からどう受け止められるだろうか
え?これですか?電動ゲレンデヴァーゲンです 見た目も乗り心地もGクラスそのもの 電動Gは愛好家からどう受け止められるだろうか
AutoBild Japan
日産「新型スカイライン」まもなく発売 史上“最強”「匠の手組みエンジン」搭載! 旧車風デザインの「超特別モデル」 何が違う?
日産「新型スカイライン」まもなく発売 史上“最強”「匠の手組みエンジン」搭載! 旧車風デザインの「超特別モデル」 何が違う?
くるまのニュース
ニュルブルクリンクで試験中を捕捉!! トヨタ・スープラの最高峰「GRMN」
ニュルブルクリンクで試験中を捕捉!! トヨタ・スープラの最高峰「GRMN」
レスポンス

みんなのコメント

36件
※コメントは個人の見解であり、記事提供社と関係はありません。

この記事に出てきたクルマ

新車価格(税込)

229.9269.0万円

新車見積りスタート

中古車本体価格

49.0299.8万円

中古車を検索
セフィーロの車買取相場を調べる

査定を依頼する

メーカー
モデル
年式
走行距離

おすすめのニュース

愛車管理はマイカーページで!

登録してお得なクーポンを獲得しよう

マイカー登録をする

おすすめのニュース

おすすめをもっと見る

この記事に出てきたクルマ

新車価格(税込)

229.9269.0万円

新車見積りスタート

中古車本体価格

49.0299.8万円

中古車を検索

あなたにおすすめのサービス

メーカー
モデル
年式
走行距離(km)

新車見積りサービス

店舗に行かずにお家でカンタン新車見積り。まずはネットで地域や希望車種を入力!

新車見積りサービス
都道府県
市区町村