EVの走行特性と車酔い
電気自動車(EV)人気の高まりとともに、クルマのインプレッション(試乗記)にも新たなストーリーが生まれている。それは、EVは「静かで走りがスムーズだから車酔いしにくい」というものだ。その一方で、EVの「走行感覚に違和感がある」というまったく逆の意見もある。
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クルマの走行特性については人それぞれの意見があるとはいえ、これほど極端にわかれるのは、従来の内燃機関モデルには見られなかったことだ。では、なぜこれほどまでにわかれるのだろうか。
まず、「車酔いしにくい」という意見の理由を考えてみよう。一般に、車酔いを起こす要因は、エンジンの振動と騒音である。これらに独特の臭いが加わると、可能性はさらに増す。車酔いの症状は、基本的に内耳の三半規管の違和感によって引き起こされる。これに五感で感じる違和感が加わると症状が悪化する。
一方、EVはエンジン音に相当する騒音がほとんどなく、モーターによる滑らかな走行感覚が得られる。臭いについても、内装材に使われている接着剤由来の臭いなどは内燃機関車と同じだが、最も大きな原因である排ガスやガソリンそのものに起因する臭いはない。この点でも、EVには気になる臭いがほとんどない。
これらがEVは「車酔いしにくい」という意見の大きな理由だろう。
回生ブレーキと車酔い
一方、「車酔いしやすい」という意見はどこから来るのだろうか。インターネット上に散見されるEV関連のインプレッションでは、EVは
「動きがトリッキーで自分の感覚に合わない」
という意見が散見される。これはどういうことなのか。
まず、EVは加速時に内燃機関モデルよりも力強いものが多い。さらに減速時には、ドライバーが操作するフットブレーキに加え、自動的に「回生ブレーキ」が働く。回生ブレーキとは、モーターを使って減速することだ。その際に電気が発生し、リチウムイオンバッテリーを充電できるため、燃費が向上する。
加速と減速は、その働きによっては人間の頭を動かし、三半規管に影響を与える。つまり、車酔いを引き起こす可能性があるのだ。
インターネット上では、特に回生ブレーキに違和感を覚える意見が多い。回生ブレーキの動作感はそれなりに強力だ。車種によっては、エンジンブレーキの3倍以上の減速力を発揮することもある。予想を超える強力な回生ブレーキに慣れていない人は、ステアリングを握っているうちに車酔いになってしまう。そんな意見さえ垣間見える。
EVは、ドライバーや同乗者が思い描く加減速時の「クルマの動き」とは異なる動きをしがちだ。これが「車酔いしやすい」という意見の大きな原因だろう。
メーカーの対応策
では、こうした問題を克服するにはどうすればいいのか。
最も単純な解決策は、慣れることだが、それはいささか投げやりだ。もっとユーザーフレンドリーな解決策を取るなら、回生ブレーキの設定を変えることから始めればいい。
実際、回生ブレーキの効き方と動作レベルは作動モードを変えられる。もしくは、自動的にフットブレーキとの協調制御が行われる例が多い。
具体的には日産リーフのように、走行モードをDレンジからBレンジに切り替えると、より強力な回生ブレーキが作動するスタイルだ。
EVではないが、三菱アウトランダーPHEVはステアリングコラムのパドルスイッチで回生ブレーキの作動レベルを変更できる。
このスタイルが操作しやすいため、ヒョンデのIONIQ5やメルセデス・ベンツのEQAなど、パドルシフトスタイルの回生ブレーキ制御を搭載するEVが増えている。
車載ソフトウエアの重要性
ここまでの説明である程度は理解できると思うが、要するにEVのドライビングフィールに関する違和感は、基本的にはクルマの構造そのものではなく、それを制御する
「ソフトウエア」
に起因する。ここで登場するのが、最近の自動車業界で最もホットな単語「SDV」だ。SDVとは、
・Software(ソフトウエア)
・Defined(デファインド)
・Vehicle(ビークル)
の略語で、「ソフトウエア定義車両」を意味する。
一般的には、車載コンピューターを車外のホストコンピューターやクラウドとネットワーク化することで、自動運転などを実現することを指す。しかし、自動車におけるソフトウエアはそれに限らない。
例えば、ドライバーの好みに合わせてソフトウエアを書き換えることで、EVの加速や回生ブレーキを制御することもSDVの枠組みに含まれる。ある意味、ドライバーの好みに直結する部分を自由に変更できることも、SDVのメリットを最大化することになる。
個人的には、EVやプラグインハイブリッド車(PHV)のような電気モーター主体で回生ブレーキを多用するモデルは、販売段階でもっと十分な説明をすることが望ましいと思う。そうすれば、EVは「車酔いしやすい」という印象を持つ人も減るのではないか。
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