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愛おしく思えてきたこれからのジャガーとは──新型EペイスRダイナミックSE P300e試乗記

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愛おしく思えてきたこれからのジャガーとは──新型EペイスRダイナミックSE P300e試乗記

ジャガーのコンパクトSUVの「Eペイス」に追加されたPHEV(プラグ・イン・ハイブリッド)モデルに今尾直樹が試乗した。

“地面に吸いついている感”

三菱のSUVは全方位で進化した!──新型アウトランダーPHEV試乗記

ジャガー初のコンパクトSUV、Eペイスにプラグ・イン・ハイブリッド(PHEV)がくわわった。ということは、すでに今年の5月に国内でも正式発表になっている。ただし、それは特別仕様車の「ローンチ・エディション」のみで、わずか20台の限定販売だった。そのEペイスPHEVの2022年モデルが上陸した。ということで試乗する機会を得た。

走り出してすぐさま、意外の感があった。静かでスムーズなことは、PHEVゆえ、発進からしばらくはモーターで走るだろうからさほど驚かなかったけれど、乗り心地が2018年に鎌倉で試乗した初期型とぜんぜん違う。

もちろん、初期型というのは2.0リッターのピュア・ガソリン・エンジン車だけれど、それよりボディがしっかりしているし、なにより、磁石でピタッと地面にくっついているみたいな感覚がある。

それでいて、前言とは逆のことをいっているようですが、アクセル・ペダルを開けると、ふわり、と、磁石の同極同士が反発して浮くみたいな感じで加速する。ふ~む。どうやら、このクルマ、ものすごく重いようだ。PHEVだから、ピュア・エンジン車にバッテリーとモーターをプラスして積んでいる。そのうえ、パノラミック・ルーフとか16ウェイの電動シートとかオプション満載で、車重が車検証で2150kgもある。いかにも重い。

現行のマイルド・ハイブリッドのディーゼルのEペイスより150kgほども重いのだ。モーター走行時には後輪駆動となるその重たいクルマが、リア・アクスルを駆動する260Nmの大トルクを生み出す電気モーターで、ふわり、と走る。

エンジンは、深々とアクセル・ペダルを踏み込まない限り、おいそれとは稼働しない。EVを“電車みたいだ”と、思ったことはあるけれど、リニア・モーター・カーにたとえたくなったのは初めてである。

ボディは全長4410×全幅1900×全高1650mmと、コンパクトである。全幅は、たとえばフォルクスワーゲン「ティグアン」より40mm幅広いということはあるけれど、全長はティグアンより100mmほど短くて全高はおなじく25mm低い。それと、重い電池とかコンバーターをボディの中央のフロア下に搭載していることで、重心が低くなっている。だから、絶対的な車重のせいもあるとしても、この重心の低さゆえに、地面に吸いついている感が生まれているのではあるまいか。

高い動力性能

じつはEペイス、2021年モデルで、プラットフォームを変更するという大改良を受けている。これまでは先代のランドローバー「レンジローバー・イヴォーク」と共通のものが、2018年に発表された2代目レンジローバー・イヴォークとおなじように、電動化を想定した「プレミアム・トランスバース・アーキテクチャー」に変更されている。記憶のなかの初期型よりもボディのしっかり感が違う。硬すぎると思った乗り心地がしなやかになっているのは、この新プラットフォームの恩恵だとも考えられる。

パワーユニットは、PHEVゆえ、内燃機関と電気モーター、それに電池とコンバーターからなる。内燃機関は、ジャガー・ランドローバー独自のインジニウム・ガソリン・エンジン初の3気筒である。2.0リッター4気筒から1気筒落としたこれは、1.5リッターで、これにターボを組み合わせて最高出力200ps/5500~6000rpmと、最大トルク280Nm/2000~4500rpmを得る。横置きエンジンの隣には8速ATを備えていて、前輪を駆動する。

モーターは大小2基持っている。小はエンジン前部に配置するベルト・インテグレーテッド・スターター・ジェネレーター(BiSG)であり、大はリア・アクスル上に搭載して後輪を駆動するERAD(=Electric Rear Axle Drive)だ。つまり、EペイスPHEVは、前輪はエンジンと加速時の助っ人役のBiSGが、後輪はERADが駆動する、あるときは前輪駆動、またあるときは後輪駆動の、前後の動力が異なる、いわゆる“e4WD”なのである。

それゆえ、プロペラシャフトは存在せず、だからリチウム・イオン電池やコンバーターを、ボディ中央のフロア下に搭載することができるわけである。

BiSGは最高出力40kW(54ps)、最大トルク63Nmというから、軽自動車の自然吸気エンジン並みの、ERADは80kW(109ps)と260Nmという、2.0リッター・エンジン並みのパワー&トルクを生み出す。

エンジンとモーター、両方合わせたシステムの最高出力は309ps、最大トルクは540Nmと強力で、0~100km/h加速は6.5秒、最高速度は216km/hをうたう。

Eペイスの2.0リッター・ディーゼル・ターボ、204ps仕様は8.4秒、同ガソリン・ターボの249ps仕様でも7.0秒だから、PHEVは車重が2t超であるにもかかわらず、ダントツに速い。6.5秒というのは、くしくも200kg以上も車重の軽いポルシェ「マカン」のローンチ・コントロール使用時と同タイムだから、つまり、この“ベイビー・ジャガー”のエコ・カーは、ポルシェのベーシック・モデルと同等の動力性能を持っていることになる。

「この3気筒、なかなかやるじゃん」

ドライブ・モードは、センター・コンソールのスイッチで、「EV」「ハイブリッド」、そして「セーブ」の3つに切り替えができる。EVはもちろんピュアEVのゼロ・エミッション走行で、最長55km走ることができる。筆者は今回、エンジンとモーターを自動的に切り替えて走行するハイブリッド・モードで主に走ったけれど、驚きのひとつはエンジンがなかなか始動しないことだった。

実際、品川にあるジャガー・ランドローバー・ジャパンをスタートし、国道15号をしばらく都心方面に走って芝公園から首都高速に乗り、首都高2号線で荏原まで行って、一般道を走り、環状8号線に出て第三京浜経由で横浜方面へと向かったわけだけれど、この間、ずーっと、タコメーターの針は0(ゼロ)を指していた。首都高速で60km/h、第三京浜で80km/h。流れにのって、もうちょっと出しても0である。法さえ許せば、120km/hプラスでもモーター走行を続ける。聞こえてくるのはロード・ノイズと風切り音だけだ。

ETCのゲートを通過するとき、十分減速して、全開にしてみると、いきなり3気筒エンジンが目覚める。そうすると、エンジンとモーターの連携によって、活発な加速を披露する。その際、インジニウム3気筒は、なんとなく奇数っぽい、周波数が高めの、だけど、まろやかともいえるサウンドを発して、ドライバーを鼓舞する。

高速走行していると、当然、電気エネルギーを消費することになり、横浜に到着する頃には、バッテリーのエネルギーはすっからかんになっている。そうすると、どうなるかというと、エンジンがかかりっぱなしになる。それで気になるかというと、ぜんぜんそんなことはない。高速巡航の100km/hはトップで1750rpmに過ぎず、エンジン音はほとんど気にならない。

ちなみに、ベイブリッジ経由で東京方面に向かうと下りになる。そのときには燃費を稼ぐためにエンジンが自動的に停止する。でも、それがわかるのは、エンジン音が聞こえなくなるからではなくて、タコメーターが0になるからだ。高速巡航時の音の主役は、ロード・ノイズと風切り音なのである。道がフラットになると、エンジンが再始動するわけだけれど、その再始動もBiSGがスムーズに行っているようで、「おや、かかったぞ」とわかるのは、やっぱりタコメーターの針が突然動き始めるからだ。

バッテリーの残量計が0になっても、全輪駆動を必要とする場合に備えて20%の電力を残すようになっており、減速時にはBiSGが発電して充電する。電力が十分なときほど、加速に元気はないような気はするけれど、1.5リッター・ターボ・エンジンだけでも、最高出力200psと最大トルク280Nmだから、遅い感はない。むしろ、この3気筒、なかなかやるじゃん、と、筆者は思った。

時代錯誤とは知りつつ、ピュア・エンジン&マニュアルで乗ったら楽しいのでは……なんてことも思った。8速ATの変速もきわめてスムーズで、モーター走行から切り替わっても違和感がぜんぜんない。

モーター走行時は後輪駆動、エンジン走行時は前輪駆動のはずだけれど、どちらもスタビリティは高く、駆動方式による明瞭なちがいも感じなかった。

誠実にして賢明な選択

乗り心地もいいし、曇り空が青空になってきたこともあり、アクアラインを渡って、房総半島の山道をチョコっとだけ走って、品川に帰った。背の高いSUVであるにもかかわらず、ワイド・トレッドと低重心のおかげだろう、とりわけ高速コーナリングは安定していて安心感があった。

テスト距離は248.8kmで、20.31リッター給油した。車載コンピューターよると、燃費は11.6km/リッターで、車重2t超のSUVとしてはリッパな値ともいえるけれど、ハイブリッドとして実用燃費がたいへん優れている、と、断言できるかというと……、むずかしい感じがする。

このPHEVの最大のメリットは、充電時間の短さだろう、と、筆者は思う。ジャガー推奨の家庭用充電器で、0%から80%まで、1時間24分。60分の充電で最大35kmの航続距離が確保できるという。EV走行ができなくなったら、エンジンで走ればいいのだから、ピュアEVよりはるかに安心だ。

だけどねぇ、このクルマのいったいどこがジャガーなんじゃがぁ!?

とも思うのである。実際、筆者はGQ編集部のイナガキ氏に同じことを問うた。ジャガーとは、大型で、俊敏で野生的で、ヒョウのようなクルマでなければならない。

ネコのマークがあちこちに付いています。と、イナガキくんは苦笑しながら冷静にいう。ふうむ。マークは自動車にとって、ものすごく大事である。もしも筆者が「XK120」とか「Eタイプ」とか、あるいはもうちょっと新しい「XJサルーン」とか「XJ-S」とかを持っている熱烈なジャガー党としよう。

こんにち、CO2を排出しまくる直列6気筒やらV型12気筒やらのガソリン・エンジンを毎日の足に使うことは、温暖化、グレタさんをはじめとする若いひとたちのことを思うと忍び難いものがある。であれば、ありし日のジャガーはハレの日のよそ行きにとっておいて、ふだんはジャガー一族の末裔であるEペイスPHEVに乗るというのも、誠実にして賢明な選択であろう。

いや、理性的、合理的なだけでなく、日本市場におけるジャガー初のプラグイン・ハイブリッドは、生まれたばかりのパンダの赤ちゃん、シャオシャオとレイレイみたいに、もうめちゃくちゃカワイイと思えるのではあまいか。

このクルマは、まだツメもキバも、それほどゴッつくなっていない、赤ちゃんジャガーなんじゃがぁ。

という視点でとらえ直すと、筆者はなんとも愛おしく思えてきたのでした。

文・今尾直樹 写真・安井宏充(Weekend.)

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