1980年代、「クロカン」ブームを支えた4WDが、各自動車メーカーから続々と発売された。この連載企画では、今でいうSUVとは、ひと味もふた味も異なる「泥臭さやワイルドさ」を前面に押し出したクロカン4WDを紹介する。第4弾は「ランドクルーザー シグナス」だ。
ランクル100と同じ235psを発生する4.5L V8を搭載
プレミアムカーブランドの「レクサス」と、スパルタンな4WDとして誕生した「ランドクルーザー」。相反する方向性の2種を結びつけたのが「ランドクルーザー シグナス」だ。1989年、北米で誕生した「レクサス」は、1996年に「ランドクルーザー80」の最終型をベースに「LX450」をラインアップした。これがレクサスLXシリーズの初代モデルになる。LX450はランドクルーザー80と同様の4476cc直列6気筒DOHC「1FZ-FE型/215ps」を搭載していた。
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これに加え、フロントフェイスやヘッドライト、バンパーやサイドステップ、また内装もラグジュアリーな仕様へと変更した上級モデル。そして登場から2年後の1998年、ランドクルーザーの80は、100へとフルモデルチェンジする。それと同時に輸出仕様のLX450は廃止され、新たにランドクルーザー100をベースにした「LX470」へとリニューアルされた。
一方、日本はバブル経済絶頂期を迎え、高級志向のクルマが注目された時代。しかし、レクサスブランドが日本で立ち上がったのは2005年。LX470を日本でアピールするすべがなかったのだ。そこでLX470をランドクルーザー100のプレミアムグレード「ランドクルーザー シグナス」として1998年12月に発売した。ランドクルーザー100とは異なるスタイリングとインテリア、そして秀でる静粛性など、「セルシオのオフロードカー」と言われるほど完成度の高いモデルだった。エンジンはランドクルーザー100と共通のV8「2UZ-FE型」(4663cc/235ps)を搭載。
ランクル100とは異なるオリジナルの4灯式ヘッドライトを採用
シグナスでまず目を引くのが、専用の4灯式ヘッドライトと、メッキグリルを統一したボンネットフードで築かれた存在感のあるフロントフェイスだ。専用設計の大型バンパーも相まって、レクサスブランドでもなく、ランドクルーザー100でもない、唯一の個性を持たせている。
高級本革をふんだんにあしらった内装は、ランドクルーザー100の上をいく。標準装備の本革シートは一見するとランドクルーザー100と同じものに見えるが、実はオリジナルデザインを採用している。さらにパネルやステアリングなど随所にウォールナット材があしらわれ、メモリー付きのステアリング調整や運転席パワーシート、ドアミラー、運転席&助手席のシートヒーターなど、乗員8名が快適に過ごせる優雅なスペースを実現している。
トヨタ初の夜間走行の視覚をサポートする「ナイトビュー」を設定
1999年には、VSC(横滑り機能)やアクティブTRC(タイヤの空転防止機能)の標準搭載で走行性能に磨をかけた。2002年には4速ATから5速ATに変更、速度に応じてステアリングの切れ角を調整する「VGRS」、トヨタ初の夜間走行の安全性能を向上させる「ナイトビュー」などをオプションで設定した。ナイトビューの技術は軍用技術を民間転用したもので、当時はキャデラックの一部モデルに採用されていた最新装備だった。快適装備では、アメリカの高級オーディオブランド「マークレビンソン」、2003年にはカーナビゲーションに「テレマティクスサービスG-BOOK」をラインナップするなど、完璧なパッケージを完成させている。
そんな最上級のSUVだが、足まわりを覗き込むとラダーフレームとリアのリジッド構造が見てとれる
。このスタイルは、現行型のランドクルーザー200とそれをベースにしたレクサスLX570にも採用されているが、実はランドクルーザー誕生時から継承されている旧式でスパルタンなレイアウトなのだ。だが、この構造こそハードに使用しても根を上げない高い耐久性を保持する所以であり、時代やスタイルが変わってもランドクルーザーのDNAが受け継がれている主要部といえる。そんなスタイルを持ちながらも、見た目やドライビングフィールからは微塵もハードさを感じることはない。この完璧な完成度からも、シグナスのクオリティの高さがうかがえる。
「ランドクルーザー シグナス」は、ランドクルーザーの確固たる強さと、オフロード4WD車の水準をはるかに超えたオンロード性能、そして当時の最新技術と快適性を獲得した「トップオブSUV」だった。(文:田尻朋美)
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