ワゴンにして600ps/800Nmを誇るアウディきっての武闘派モデル、RS6アバントに試乗。アウトバーンの国でしかありえない、利便性とコンフォートとパフォーマンスの、限りなく完全な三位一体を体感する。
アウディきっての武闘派モデル
アメリカ流スポーツ・サルーンの解釈──新型キャデラックCT5スポーツ試乗記
2021年モデルより日本にも導入が始まったアウディRS6アバントに、試乗する機会を得た。ワゴンにして600ps/800Nmの最高出力とトルクを誇るアウディきっての武闘派モデルといえる。フロント両脇の大きなエアダム、膨らみを増した前後フェンダーに合わせたサイドスカート、いかにも高速走行でエア抜きに効くであろう大型のリアディフューザーといい、外観からしてただならない。
4995×1960×1485mmという外寸は、ノーマルのA6アバントに比べて45mm長く、75mmもワイドだ。エアサスを装着するがゆえ車高は変動するが、それでも地を這うようなワイド感が増しているのは、オプションの22インチホイール、そして285/30ZR22のピレリPゼロのせいだ。極細のあけすけなスポークの向こうに、オプション設定で130万円というブレンボのカーボンセラミックディスクブレーキが覗く。前後それぞれ440mmと370mmという大径ディスクで、フロント側は10ポッドキャリパーという代物だ。305km/hに到達できる最高速リミッターの解除もオプション扱いとなるが、そうした速度でも2160kgの車両重量を確実にコントロールするためには必須で、控えめなのかド派手なのか分からないが、きわめて機能的なオプションといっていい。絶対的パワーだけでなく、それをコントロールする意志や機能がビジュアルに表れていることが、そもそもRS6アバントらしさでもある。
思えばRS6アバントの歴史は進化というより、エスカレートの歴史といっていい。Eセグのワゴンのノーズに4.2リッターV8ツインターボを押し込んだ初代C5世代にはじまり、C6世代では縦置きパワーユニットは5リッターV10の580ps/650Nmという規格外へと踏み込んだ。そして、C7世代では4リッターV8ツインターボにダウンサイズされたが、まずは560ps/700Nm、次いで605ps/ 750Nm(ブースト時)と、スペックもエフィシェンシーも高められた。そして今次の4代目、C8世代では、4リッターV8ツインターボはそのままに、低負荷時の気筒休止機構を備え、600ps/800Nmを引っ提げて登場した。
スペックだけ見ると、エンジンは先代から引き継ぎで、BSA(ベルトドライブオルタネータースターター)や48VのMHEVを足しただけのようにカン違いされがちだが、排気量は3932ccから3996ccと僅かに増して、ボア・ストローク比も86×86mmに見直されている。トッピングによる味出しではなく、基礎からもち上げるような進化が、RS6アバントおなじみの手法であり、クワトロAGの底力でもあるのだ。
利便性とコンフォートとパフォーマンスの三位一体
ドライバーズシートに身体を預けると、10.1インチと8.6インチの上下2画面タッチディスプレイや運転支援システムの操作類こそA6に準じるが、カーボンやアルミニウムを多用したパネル類や、赤いハニカムステッチの施されたバルコナレザーのSスポーツシートといった専用仕立てに気づく。液晶メーターパネル内には、グラフ表示のタコメーターを正面に呼び出すことができ、7000rpmから上がレッドゾーンに設定されている。
市街地をおとなしく流す程度なら、RS6アバントは驚くほど優等生的ですらある。前後サスペンションを対角線上に油圧回路で結んで統合制御するというDRCスポーツサスペンションのおかげか、上下動もロールも驚くほど素直で、22インチの超扁平タイヤを履いているとは思えないほど乗り心地は優しい。ここまでは完全にジキル博士なのだが、ひとたび右足に力を込めると、RS6アバントはハイド氏に、ものの見事に移行する。豹変ではなく、あくまでスムーズに、しかしドラマを伴って移行するところが、また心憎いのだ。
48Vの電気モーターとV8ツインターボの分厚いトルクゆえ、4000rpm前後で走っていても十分過ぎるほど速いが、5000~7000rpm手前のイエローゾーンでは、明らかにツインターボのブースト圧が高まる感触が加わる。リニアに加速するというより、加速するほどに目がついて行かなくなる、そんな底なしの加速感でアドレナリンを焚きつけてくる。トラクションに応じた前後のトルク配分だけでなく、リア側の左右輪トルクも、スポーツディファレンシャルを組み合わせたベクタリング作動によって、ヴィークル・ダイナミクスを統合制御されている。ワインディングでも最大5度のリア操舵がもたらす強烈なスタビリティによって、もっと速くもっと踏めという、恐ろしく挑発的なパフォーマンスだ。
ただし今次のRS6アバントには、ドライブモード選択機能によって、「RS1モード」と「RS2モード」が2種類設定できる。するとドライブシステム、サスペンション、ステアリング、エンジン音、クワトロスポーツディファレンシャルといったパラメーター項目を「コンフォート/バランス重視/ダイナミック」の3段階で、すべて個別に設定できる。ドライブシステムやエンジン音を抑えめにしておくと、不用意にアドレナリンを刺激しないが、ナチュラルに速いといったモードにもできる。
ありあまる強大なパワーを合理的かつインテリジェントに、しかし有機的でエモーショナルに統合コントロールする点こそが、RS6アバントの芯といえる。それはアウトバーンの国でしかありえない、利便性とコンフォートとパフォーマンスの、限りなく完全な三位一体だ。1764万円のRS6アバントのほかには、BWMのM5ツーリングやメルセデスAMGのE63ステーションワゴン辺りだけが、踏み込める領域といえるだろう。
文・南陽一浩 写真・柳田由人 編集・iconic
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みんなのコメント
確かにパワーアップしトルクフルには成ってはいるが、マニア向けから万人向けにマイルド化したように思ってしまう。