60年代アメリカで流行した巨大な人形、通称マフラーマン
広大なアメリカを東西2347マイル(3755km)にわたって結ぶ旧国道「ルート66」をこれまで5回往復した経験をもつ筆者が、ルート66の魅力を紹介しながらバーチャル・トリップへご案内します。シカゴからスタートしてイリノイ州の中を西に進むと、ポンティアックの街の先に、道ばたで巨人たちが出迎えてくれるエリアがあります。
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ホットドッグを持った北米民話の巨人バニヤン・ジャイアント
アメリカでレストランなどお店の宣伝に使われる、マフラーマンと呼ばれる人形を知っているだろうか。元々はとあるカーショップの依頼で製作したらしく、マフラーを手に持っていたことが名前の由来。最盛期は1960年代で、現存しているものは決して多くないが、イリノイ州のルート66には今も3人のマフラーマンが立っている。
ひとりめは同州アトランタ(ジョージア州の大都市とは別)の「バニヤン・ジャイアント」だ。当初はシカゴのすぐ近くにある街シセロにて、バニヤンズという名前のレストランで使われていた。ところが2003年に閉店したことでアトランタへ移転。なおバニヤンとは北米の民話に出てくる巨人で、身長が8mで五大湖やミシシッピ川を作ったなど、数々の逸話が面白おかしく現在に伝えられている。
ただしアトランタのバニヤン・ジャイアントは髪型がリーゼント、手にしているのはホットドッグと本来の姿からはかけ離れており、身長も19フィート(約5.8m)と小さく作られているようだ。現在は特定の店舗が所有しているわけではなく、街の中心を走るルート66のシンボル的な存在だ。
余談だがバニヤン・ジャイアントの向かいには、メモリーズという名の小さなミュージアムがある。コロナ禍で観光客が激減したせいか現在は臨時休業となっているが、ジャイアントの写真を撮っていたらオーナーと思しき人に声をかけられ、展示しているコレクションの数々を思い出とともに説明してもらった。
宇宙開発の黄金時代を伝えるジェミニ・ジャイアント
ふたりめの「ジェミニ・ジャイアント」がいるのはブルーミントン。こちらは身長30フィート(約9.15m)で、緑色の服を着て銀色のヘルメットをかぶり、手には爆弾のような物体を抱えている。ルート66沿いにある名物レストランのひとつ、ラウンチング・パッドを宣伝するための人形で、名前の由来は1961~1966年に行なわれたジェミニ計画だ。ラウンチング・パッドはロケットなどの発射台を意味しており、前身のレストランは少し早い1956年にオープンしているものの、今の名前に変更されたのはジェミニ計画の終盤である1965年。ソ連との宇宙開発にしのぎを削っている時代で、人々も親しみやすかったのではないだろうか。
というわけでジェミニ・ジャイアントは宇宙飛行士をモチーフに製作されたそうだが、宇宙服が半ソデとか、ロケットではなく爆弾に見えるとか、野暮なことは言わないでおく。ちなみにラウンチング・パッドは何度か閉店と再開を繰り返し、現在はコロナ禍のため再びクローズしているとのこと。私が訪れたときオープンしていたのはたった一度だけ、しかもシカゴで朝食をお腹いっぱい食べた直後で、写真だけ撮って先へと進んだのが本当に悔やまれる。
現役のカーショップで星条旗を振るラウターバック・ジャイアント
最後のひとりは「ラウターバック・ジャイアント」だ。後の大統領エイブラハム・リンカーンが初めて政治に身を投じたスプリングフィールドで、カーショップ「ラウターバック・タイヤ&オートサービス」の敷地にそびえ立っている。
誕生したのは1978年と他のジャイアントより新しく、当初はカーショップらしくマフラーを抱えていたらしいが、いつからかアメリカの国旗に持ち替えられたようだ。2006年には竜巻で頭部が取れる災難に見舞われたが、見事に修復されて色も定期的に塗り直されている様子。このカーショップは現在も通常営業しているため、写真を撮る際はスタッフに挨拶くらいはしておこう。
* * *
訪ねる順序は東からジェミニ(ブルーミントン)→バニヤン(アトランタ)→ラウターバック(スプリングフィールド)で、撮影しながらゆっくり巡っても4時間もあれば十分だと思われる。製作されたうちの4分の1しか残っていないという話もあるマフラーマン、イリノイ州のルート66を語るうえで欠かせない存在といっていい。
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